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神様がいない異世界新生活  作者: 出佐由乃
ユズ市の道具屋 編
22/42

22 そうだ、これもひとつの世界。私の中の可能性。 今の私が私そのものではない。色んな私自身がありえるんだ。

 私は濡れた服を乾かしながら、火憐に火の危険性について説いて聞かせた。


「だから火はとても危ないの。わかった?」

「わかったのじゃ!」


 右手を上げてそう言う火憐は18歳には見えない。小学生がいいところだろう、精神年齢が。

 本当にわかったんだろうか。……これ以上言うとフラグになりそうだからやめておこう。


「それにしても、あの水の量はなに?興奮してると威力が上がるとか?」

「うん?えみはそうか、知らなかったのじゃったな」

「何を?」

「ここはな、結界の外なんじゃよ」

「……いや、知ってるよ。だってそこに火憐が球ぶつけまくった結界があるんだから」

「『神性結界』のことではないのじゃ。『結界』じゃ、『結界』」

「……ええっと、その、あれよね?町を守る……」

「その『結界』じゃ」

「……いや、いやいやいや。ちょっと待ち。ダメじゃん!結界の外に出るには『認可証』ってのが必要……」

「それはそうなんじゃが、ここは『神性結界』も近い。じゃから魔獣はいないし、国も『神性結界』の周囲なら黙認しておるのじゃ」

「黙認ってのは正式に認めてないからね?」

「『結界』の中じゃと普通の魔族は魔法が使えないのじゃ」

「綺麗にスルーしてくれたわねぇ。……それは聞いたけど、それがどういう」

「わしも『結界』の中じゃと『魔法』は使えるんじゃが、威力はかなり落ちるのじゃ」

「はぁ、なるほどね。『結界』の外だから威力が上がったのね」

「そうじゃ」


 ……念力の威力ってなんだよ。


「対象の動かしやすさ、じゃな」

「はぁ。どんくらい違うの?」

「結界の中じゃと、水の中で物を動かすくらい動かしづらいのじゃ」

「そんなもんなんだ」

「そんなもんじゃな」


 火憐以外の人が魔法を使ってるのを見たことが無いから比較ができないけど、火憐は魔法を使う人の中ではどれくらいの強さなんだろう?

 結界の中なら最強。だけど外なら?

 ……考えたところで、だね。


「わしも他人の魔法はあまり見たことがないのじゃ」

「そうなんだ」

「せんせいが一度だけ石を浮かして見せてくれたことはあったのじゃ」

「やっぱりせんせいは魔法が使えるんだ」

「そうじゃな」

「せんせいには火憐の耳みたいな、魔族の特徴はないよね」

「魔族にも色々あるのじゃ。身体が大きい者小さい者、羽根を持つ者、ひれを持つ者、鱗を持つ者……」

「へぇ」


 獣人、鳥人、魚人、竜人……かな?ここではどう呼ぶのか知らないけど。


「じゃが、そういうのは隠す者が多いようじゃ」

「差別とかがあったんだっけ。……せんせいもあるのかな?」

「せんせいには無いと思うのじゃ。見たことがないのじゃ」

「そうなんだぁ。……そういえばさ」

「なんじゃ?」

「火憐は、なんなの?」

「なに、とはなんじゃ?」

「いやさ、その耳は動物の耳でしょ?なんの動物なのかなって」

「せんせいが言うには『ふぉっくす』じゃな!」

「あぁ、そういえば『ふぁいやーふぉっくす』とかいう偽名があったわね。狐かぁ……」

「それじゃ。きつねじゃ」

「それは狐の耳なわけだ。じゃあさ、尻尾は?昨日、風呂では見当たらなかったけど」

「あるのじゃ」

「え?そうなの?」

「普段は隠しておるのじゃ」

「どこに?」

「見るか?」

「見たい」


 絶対見たい。死んでも見たい。……いや、死んだら見れないから生きて見たい。

 ケモっ娘の尻尾!しっぽ!しっぽ!

 狐だからふさふさに違いない!ふさふさもふもふすんすんはあはあ……


「……えみ、ちょっと近いのじゃ。顔も怖いのじゃ」

「いいからいいから。早く早く」

「み、見られてると恥ずかしいのじゃが……」

「はよはよ」

「うぅ……え、えみ!むこう向いておるのじゃ!」

「なんでよっ!?見せてくれるんじゃないの!?」

「見せるから、見せるからむこうを向いておるのじゃ!」

「はぁ。わかったわよ……」


 ぐぅ。出てくるところ見たかった。スカートがシュルって持ち上がってひょこっと現れるしっぽ……しっぽ……

 ……私はいつからこんな変態になったんだ?


「もう大丈夫なのじゃ」

「よし。い、いくわよ……」


 ……なんか緊張するなぁ。な、なんだろう、この感覚は。テストが返ってくる前みたいな、ドキドキ感。ふ、振り返ったら尻尾が、しっぽ火憐がそこに……

 いや、一旦落ち着こう。

 火憐をそういう目で見てはいけない。あの純粋無垢を絵に描いたような火憐に、そういうのを教えてはならない。こんな希少な人材、世界中どこを探したって見つかりっこない。それは世界を超えても同じ、はずだ。そう、私一人の欲望のために失っていいものじゃないんだ。これはもはや宝。全人類の守るべき至高の……


「えみ、大丈夫か……?」

「お、おううう」

「見るなら早く見るのじゃ」

「う、うん」


 なんだ、なんだこれ……

 いけないことをしている、そんな気分だ……

 あ、でも、尻尾は見たいし……

 で、でも、火憐を傷つけるわけには……


「見ないなら、また隠すぞ?」

「み、見る!」


 ぐるん、ぱっ


 両手を広げてターン。満点。……じゃなくて。

 顔を上げれば、そこに……


「いざっ!」


 はいっ!





 ……尻尾だ。それに二本もある!キタコレ!

 よかった!本当に良かった!

 ここまで引っ張ったんだ。期待が裏切られる展開なんていくらでも考えられた!

 しかし、見てみろ!このふさふさの尻尾!しかも二尾だ!二尾の狐だ!

 よかった……生きててよかった……本当に…………


「え、えみ!?鼻血が、鼻血が出ておる!……ってえみ、泣いておるのか!?な、なにがあったんじゃ!おい、おい!えみぃぃぃっっ!」


 私の肩を持って前後に揺する火憐を、いや、揺れる尻尾を拝みながら私の意識は天に昇ったのだった。

 けもっ娘に、ありがとう。世界に、さようなら。そして、全ての私たちに、おめでとう。

まじでごめんなさい。

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