第1話:神々の言い分と適当な計画
宇宙の深淵を彷徨う星々の光から、神聖なる世界タハマラが生まれた。そしてその光と共に、世界を護る四人の「神」が誕生した。
オーダーの神、ゼネクス。世界の法則を紡ぎ、自然の均衡を保ち、あらゆる生き物が巨大な秩序の歯車として正しい場所で機能するよう監視する者。
ひらめきの女神、アエディ。進歩と創造性を司り、凡夫の頭脳にアイデアの種を蒔き、文明を知識と革新へと導く者。
命の神、キキ。大地に実りをもたらし、種の繁栄を促し、タハマラの空の下で息づくすべての生命の営みを守る者。
そして死の女神、ドロマ。魂を永遠の安らぎへと導き、生命の自然な循環を維持し、何者も定められた刻を超えて生き長らえぬよう見届ける者。
彼らは世界を守り、生きとし生けるものを慈しむと誓った……だが、「その誓いを必ず守る」とは一言も言っていない。
なにしろ、不死で全能で、誰にも責任を問われない神という立場だ。「誓い」などというものは、建前としては聞こえが良いが、本音を言えば実践するだけ面倒くさい代物だったのである。
この日も四人は、彼らが気取って「永遠の評議」と呼ぶ集まりを開いていた。実態は単なる責任の擦り付け合いと、誰が一番無能かを言い争う暇つぶしである。
「人間どもが調子に乗りすぎている!」
岩を金属になすりつけるようなダミ声で吠えたのは、ゼネクスだった。
「村は計画性もなく肥大化し、王国は許可もなく領土を広げている。実に……混沌だ!」
アエディはあくびを噛み殺しながら、指先で光の球を転がした。
「で、今度はどんな解決策を考えてるの、ゼネクス? また『うっかり』起こした地震? それともバッタの大群? 前回『街の再開発』をやらかした時なんて、マップからひとつ都市を消し飛ばしたじゃない」
「アレは必要な調整だった!」
「ただのヒステリーでしょ」
ドロマは透明なソファにでも身を預けるように、虚空にだらしなく寝そべりながら呟いた。彼女からは湿った土と枯れた花のような匂いが漂っている。
「そのせいでどれだけの魂を回収させられたと思ってんの? 三千人分の死後事務処理がどれだけ面倒か、少しは考えなさいよ」
キキが品のない笑みを浮かべた。
「まあまあ。俺は文句ないけどね。ゼネクスの『調整』の後は、いつだって出生率が跳ね上がるんだから。未亡人たちは寂しさを埋めたがるし……ほら、色々あるだろ?」
キキは手で下品なジェスチャーをしてみせた。
「命は巡るってやつさ」
アエディは呆れたように目を丸くした。
「まあ、なんて詩的なの、キキ。泥酔した勢いでうっかり生み出しちゃった新種族にも同じこと言える?」
「おいおい、オークの創造は有意義な実験だったろ!」
「砂漠に投げ捨てて野たれ死にさせようとしたくせに」
「でも生き残っただろ? たくましいじゃないか」
キキは肩をすくめ、ドロマに向かって意地悪い笑みを向けた。
「むしろ礼を言ってほしいね、ドロマ。上客を送り込んでやってるんだからさ」
ドロマは、数千年間まったく同じ不毛な会話を聞かされ続けてきたかのように、長く重いため息をついた。
「問題はね、私たちが人間どもの本当の望みを理解していないことよ。祈ってはくるけれど、言っていることが支離滅裂なの。『雨を降らせろ』と言う奴がいれば、『晴れさせろ』と言う奴もいる。『平和を』と願う隣で、『戦争を』と叫ぶ。全員を満足させるなんて不可能よ」
「人間が愚かで支離滅裂だからだ!」ゼネクスが怒鳴る。
「違うわ。彼らにはそれぞれ個別のニーズがあるのよ」アエディが反論する。「全員があなたの『完璧なシステム』の交換可能な部品だと思ってるから理解できないのよ」
「全員が同じなら紛争など起きん!」
「全員が同じなら、私は退屈すぎてこの虚空に身を投げるわね」アエディは光の球を空中に放り投げ、受け止めた。「まあ、もうとっくに投げてて、その結果がこの惨状なのかもしれないけど」
キキが興味深そうに身を乗り出した。
「それで? 解決策はあるのか? 個人としては、混沌は大歓迎だけどね。その方が……刺激的だろ?」
ドロマは、まるでこの瞬間をずっと待っていたかのようにゆっくりと体を起こした。
「……中間管理職が必要よ」
三人の視線がドロマに集まる。
「人間どもと直接やり取りする誰かよ」ドロマは淡々とした声で続けた。「そうすれば、私たちがどう動くべきか分かるわ。あいつらのニーズ、苦情、バカげた要望を理解して……私たちに分かりやすく通訳(翻訳)してくれる存在がね」
ゼネクスが眉をひそめた(幾何学模様の塊のような神に眉があればの話だが)。
「凡夫ごときが我らに命令を下すだと!?」
「命令じゃないわ。情報共有よ」アエディが急に目を輝かせた。「……悪くないじゃない。コンサルタントを雇うようなものよ。面倒な現場とのコミュニケーションを全部押し付けられるわ」
キキが不敵にニヤリと笑う。
「で、もしミスをやらかしたら、全部そいつのせいにすればいい」
「その通りよ」ドロマが頷く。
ゼネクスはまだ不満げだったが、その脳内(あるいは核)で計算が始まっているのは明らかだった。
「だが……その人間のアドバイザーとやらが、正しく仕事をこなすとどうして言い切れる? 凡夫など気まぐれで扱いに困る存在だぞ」
キキがくすりと笑った。
「インセンティブ(報酬)をあげればいいんじゃない?」
「インセンティブだと!? 我らは神だぞ! 凡夫に媚びるなどありえん、力で従わせるのが神の権利だ!」
気まずい沈黙が流れた後、アエディが思いついたように手を打った。
「ねえ……最初に目についた奴を引っ捕まえちゃわない?」
四人の神々は顔を見合わせた。
そして、それ以上の議論も、計画も、発生しうる恐ろしい副作用への考慮も一切なく——「決定」した。彼らは後先を考えないノリだけで神々しいオーラを放ちながら宙へと舞い上がり、自分たちの「都合の良い代理人」にするための哀れな犠牲者を探して、世界へと飛び立っていったのだった。
読者の皆様、お読みいただきありがとうございます!
神々のあまりにも適当な思いつきによって、一人の人間の運命が狂い始めます……。
はたして「神々の仲介者」に選ばれてしまう哀れな男とは誰なのか!?
【今後の更新予定】
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