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機操戦伎グレニアヴァール  作者: そのえもん


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十 叩き折れ、鼻っ柱

哨戒任務は新入りの仕事かといった隼人に、日菜は

「そう言って死んだ奴を二人見た」と返した。

死は、思ったよりもそばにある。

全てがそう言ってくるような気がして、隼人は背筋を震わせた。

「なぁ日菜、哨戒任務ってのは、平たく言えば見張りとか、見回りとか、そういうことだよな?」


 隼人がそう切り出したのは、夜明け前の格納庫。キャリーに横たわる八幡颯天の各所をチェックしながらであった。


「そうだよ。素直に見回りって言えばいいのにさ、なんだって難しい言い回しすんのかね」

「これはあれか、新人には見張りさせとけってことか?」


 隼人の軽口に、日菜は目だけをこちらに向けた。首を動かさないのは、何かを思い出しているのか、それとも苛立ちでもあるのか。


「めったなこと言うんじゃない。そうやって舐めたこと言って哨戒に出て、飛竜騎士と鉢合わせして死んだやつを二人見たぞ、アタシは」

「……冗談きついな」

「冗談なもんか。

 バクダはこの前福岡を荒らしてから姿を消してる。で、飛竜騎士が広島に出たんだ、ってことは瀬戸内海のどこかにいるのは間違いない。アタシのは直感だけど、唯鶴がここにいるなら、上層部の考えもそうなんだろ。十分あぶねえよ」

「相手はデカいんだろ?空から見つからないのか?」

「そんなんアタシが知るかよ。まあ、バクダもデカいけど、海はもっとデカい。潜られちゃわからねえんだろ」

「潜水艦は?」

「動いてる、って噂はアタシも聞いてる。それこそ徹夜で。

 瀬戸内海は割と浅いらしいけど……向こうはエンジン動いてるわけじゃないし、捕捉は難しいんじゃない?元は船を探るモンなんだからさ。そりゃ、音だけでバケモン探すんじゃ限界あるでしょ」

「それもそうか。うっす、八幡颯天は点検完了、異常なし。整備班、お願いします」


 隼人が声をかけた技術者は、一座から来た裏方の一人であった。


「おう。なんだよ銃也、随分落ち着いてるな、初出撃だろ?」

「まあね。つっても、昨日もう戦ってるんだ、しかもぶっつけで。しっかり準備できる分、今日のがマシだ。多少の慣れもある」

「可愛げのないやつだな」

「何言ってんだ、そんなもんあったためしがねえよ」


 裏方の最終点検をよそに、日菜に内部のあれこれを教わる。機体そのものではなく、軍に組み込まれたことで生まれたあれこれを、だ。


「おい隼人、救命胴衣の確認しとけよ?鉾蘭一等兵様の金言だ」

「救命胴衣?……陸戦だろ」

「意外とあるんだよ、戦って海に突き落とされたり、海岸線で戦ったり。人形遣いは脱出が遅れると本当に死ぬからな。三回見とけ。

 んで、こっちの袋は携行品。中身は地図、水筒、非常食。

 まあ、隼人は地図見るヒマないだろうけど、あるに越したことはない」


 機操戦伎が隼人の動きをトレースする関係上、隼人が地図を覗けば八幡颯天も地図を開く。外から見る分には面白いかもしれないが、隙に繋がるのであまりやりたくはなかった。


「非常食?気が効いてるな、中身は何だ?乾パンかな?」

「見てみな?」

「どれどれ……うわ」


 その中身に隼人は言葉を失った。まずは立派な巻き寿司、更に乾パンとなにやらチューブに入った軽食まで包まれていた。


「……豪華だな」

「最後の食事になるかもしれないんだ。食う時は感謝して食えよ」


 日菜の言葉に、隼人は今更ながら身震いが背筋を襲う。この豪華な弁当に、紹介任務で死ぬことも珍しくないと念押しされているようだった。


「それより隼人……そろそろ着替えて来いよ」

「は?」


 隼人が袖を通しているのは官品の軍服であったが、日菜は違った。

 折り目正しい鮮やかな水色の袴に、白の刺し子生地の道着。この装束は機操戦伎の、それも本番用の操演着である。兵器に乗り込む恰好としては随分と小洒落ているが、機操戦伎がこの100年ほど舞台芸能としてやっていた事を考えれば、むしろ筋が通る。


「……当てつけかよ」


 無論日菜の操演着は一座から持ってきたものだ。だが、隼人は一座から逃げ、流れた結果偶然戻ってきたのだ。そんなものがここにあろうはずもない。


「……ちゃんと見ろよ、そういうとこ雑だよな」


 日菜は露骨に舌打ちすると、操演席に腕を突っ込み、引っ張り出した何かを投げつけてきた。顔面で受け止めたそれは風呂敷包。首を傾げてはらりとめくって中を覗く。そこに畳んであったのは、藍染めの刺し子生地と黒袴に灰色の帯。間違いなく隼人の操演着であった。


「え?……なんで、ここにあるんだ?」

「隼人も来ると思って、持って来てたんだ」

「持って来ただあ?いつからだ?」

「最初から、お前が消えた夜からずっとだ」


 隼人はしばらく呆然としてしまった。どうやらこの頑固者は、隼人がいつか機操戦伎に帰ってくると、隼人本人よりも信じていたらしい。呉鎮守府の門を通ったあの日から今日までずっと、勝手に持ち出した隼人の操演着と一緒に待っていたのだ。


「ひ、日菜……お前正気か?」

「バカタレ。そこは惚れ直した、だろが」


 日菜は隼人の尻を蹴ってにやりと笑う。自信溢れる太々しい笑顔が、この時ばかりは記憶よりも何倍も輝かしく見えた。


「なんで惚れてた前提なんだよ」

「照れんなよ。ほれ、とっとと着替えて来いよ」


 今度は背中、足裏で押すように蹴られた。この傲慢で強引で乱暴な少女のどこにこんな誠実な部分が隠れていたのかと、隼人は胸がいっぱいで軽口すら叩けなかった。


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