復帰⑮
日米の思想は大きく違う。
日米の価値観大きく違う。
日米は神から大きく違う。
だから争った。
共通の敵があればこれが輪となる。
どこまでかは、わからないのだが。
なんだそりゃと首をかしげる隼人に、タカハシは大仰に頷いた。一見笑っているように見えるが、これは断じて微笑んでいるわけではない「ああそうか、知らないよな、知るわけないか」という見下しも混じっているようだが、大きくはない。少なくとも一定の理解があるだけマシか。
「人体は神が作ったものである。そう考える人間が多いのサ。そうなると、人間がこれを真似るのは……ましてもっと大きなモノを作るなんて、神を侮辱する行為である。
アメリカでは殆どの人間がそう考えている」
「おもしれえこと考えるよな、アメさん。アタシ初めて聞いたとき笑っちゃったよ。じゃあ鳥みてえな飛行機乗れねえじゃんって話だよな」
日菜は口も頭も悪いのだが、鼻と勘は鋭い。乱暴な物言いにタカハシは苦笑いである。神も信仰も、存外都合よく姿を変えるのだ、それを判っていると、なかなか強くは言い返せない。
「まあ……日本人もイザナギイザナミが島作ったって聞かされるだろ、似たようなもんさ」
「そういうことダ、神話と教育の境目なんて、意外と曖昧なものなんダ」
日菜の笑いは軽い、タカハシの笑いは苦い、だが隼人は笑わなかった。冷静に冷淡に淡々と、理解できるきっかけを自分の中で探っているのだ。
「まあ、仕方がなイ。現人神を国家元首とする君たちとは随分と価値観が違う。
理解はしているが、まあ、これを合衆国とすり合わせるのは数十年かかるだろう。そう思っているだけ寛容な方だト思うんだけれどネ。
だから私が、日本行きに選ばれたのかもしれなイ」
そういうものか、と隼人は言葉も感想も飲み込んだ。それが日米両軍の決定であるなら、隼人個人の納得や理解はあまり必要でないし、あまり重要でないし、決して肝要でない。丸呑みで良いと判断し、強引に腑に落とし込むこととした。
「ところでどうだい?私が改修した八幡颯天の乗り心地は」
「ええ、おかげさまで手足が伸ばせます」
「なんだい、それだけかイ?八幡颯天の改修には戦闘機二、三台の予算をつぎ込んでいるのニ、バスタブと同じ感想じゃ報われナイよ」
肩をすくめるタカハシに隼人は泡を食った。こういうとき、生来の気弱さというか陰気さというかが滲む。
「え?あ……そうだ、あのゴーグルも中尉ですか?ありゃすごいですよ、今までは鏡を使った覗き窓から外を見てたのに、あれのおかげで周りが見やすくなりました」
「ありがとう、役に立っててなによりダ。
アレは大変だったよ、アメリカの戦車にもあんなモノついてないからね。
それと……気づいたことはないかい?八幡颯天、乗ってて違和感はナイかな?」
「いえ、自分は気付くほど乗っていません」
「ン?」
「八幡颯天は元々私の父と、ひ……鉾蘭の父が二人で扱っていたものです。
稽古の一環で載せてもらったことはありますが、舞台では乗っていませんし、実戦は昨日が初めてでした。ただでさえ化け物相手で気が立っていたのに、細かいことなんて気付いてられません」
涼しい顔で言ってのける。どうにも試されているような質問で腹立たしいのだが、ここで気づいたフリをする方が面倒臭い。バカがバカを隠してもバレるのは時間の問題だ、だからバカなのだから。
「どこか弄ったんですか?
というか、エンジン変えてるなら、俺よりも制御関係をやってる鉾蘭の方が詳しい答えが……なに笑ってんだよ」
振り向くと日菜が悪い顔をしている。背中に「バカ」と書いた貼り紙を貼られて気付かない奴を眺めて笑うような、陰険で性根の悪い、だがそりゃ楽しかろうよという笑い。
「……なんだよ。ニヤニヤしやがって」
「いや?アタシはいいと思うよ?機操戦伎は感覚で動かすモンだから、違和感がない方がいい。
と言うか、違和感ないなら上出来でしょ、ねえ中尉」
「そういうコトだね」
「は?」
意味がわからない。露骨に不愉快そうに眉を顰める隼人に、日菜は肩をすくめて、一瞬の間を置いた。その先の口調は、務めて明るく、務めてまあ軽くしようとする空気があった。
「アタシも持たわけじゃないんだけどね、八幡颯天は一回中破……というか、大破寸前までいってるらしい。そりゃそうだ、一人死んでるんだから」
宇津木からそんな話を聞いた。おそらく、剣楼が戦死したときの話だろう。
「酷かったらしいよ。ねえ中尉?」
「ええ……片腕が吹き飛び、頭は……いえ、やめておましょう、残酷ダ
隊は寸前というカ、八幡颯天でなければ廃棄でしタ」
大破、それはありていに言うなら「直しようがない」あるいは「新しく作った方が安上がり」レベルの損壊のことである。それを押して完璧に直したのは、前線にとって八幡颯天が如何に大きかったかが判る。
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