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機操戦伎グレニアヴァール  作者: そのえもん


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復帰⑥

監獄に現れたのは。

不動の仁王像

不遜な仁王像

不敵な仁王像

そのくせ聞き上手。

ああ、もはや構うものか。

いくらでも腹の中を探るがいい。

「鎮守府で見たより、よく喋るようだな」


 声の主は宇津木である、いつだか鎮守府で見た日と変わらない、分厚く、重く、いるだけで威圧感を振りまく。しかし、一人ぬぅっと入って来た仁王は、何もせずに隼人の目の前にどっかと胡座をかいた。なんとも、世にも珍しい座った仁王像の完成である。


「……俺こと、覚えてたんですか?」

「君のことは、鉾蘭一等兵から山のように聞かされている。得意な演目から、愉快な寝言まで。

 兄妹同然に育ったのだと聞いている」


 宇津木の口調は堅い、しかし本物の仁王像と違い、どういうわけか喋りやすい雰囲気を出していた。どうやらこのナリで聞き上手であるらしいというのは、妙な人間味があって面白かった。


「ええ……そんな感じです。トシも一個しか離れてないので。離れていた時期の方が短いです。

 学校行ってた頃は転校が多くて……歳の近い遊び相手は、お互いしかいなかったんですよ」

「うむ、それも全く同じ言い分だった」


 宇津木はほんの少しだけ口の端を吊り上げ、手元の書類を覗き込む。普通の書類のはずだが、この男が持つとちり紙でもめくるようにみえた。気をつけねば指先で貫く、そう言われれば百人中百人が信じる。


「東雲隼人……砲園少尉の息子か」

「はい。父や日菜、一座のみんなが世話になってます。

 あの……父は大丈夫そうですか?」

「答えてやりたいところだが…….まずは君の確認が先だ。

 機操戦伎の役者、人形遣いとしての芸名は……なんと読むのかね、これは」

銃也(しゅうや)と申します。ぺーぺーの人形遣い、舞台に上がれる中では下っ端といったところです。

 少々違うかもしれませんがが、落語家に例えるなら、前座みたいなものかもしれません」


 日菜にとっての鉾蘭と同じ、芸名が隼人にもあった。機操戦伎に乗れなくなってから、名乗ることも呼ばれることもなくなった名前を名乗るのは、懐かしくもあり、古傷を毟られるようでもある。膿んでたはずの傷口は、いつの間にか瘡蓋になっていたのかもしれない。


「……個性的な名前だな」

「機操戦伎の……少なくとも榊浦流の名前は、どこかに一文字武器を入れるのが慣習です。

 機操戦伎は、元が兵器なので」

「なるほど、以前は武芸であった名残りか。そういえば、鉾蘭一等兵を日菜と呼んでいたね、あれは本名かね?」

「ええ、本当は俺も鉾蘭と呼ぶべきなんですが……なんか、照れ臭くて」


 むず痒いはなしだったのか、ふふんと宇津木が小さく笑う。見た目こそ木彫りの巨大な仁王像であるが、内側には血の通った人間であるのだと判る。


「砲園少尉も別に名前が?」

「ええ、東雲幸吉です。さらっと出てくるのは多分、俺くらいだと思います」

「……君のご母堂は?」

「物心つく前に病気で亡くなったとだけ。顔も覚えちゃいません。

 今日みたいなことがあるなら、本当は聞いておいた方がいいのかもですね」


 このご時世、死というものは存外すぐそばにある。片親の早逝は珍しくもない話なのだ。やはり宇津木にも似たような話に心当たりはあるのだろう、大きく頷く。


「それが良い、今度聞いておきたまえ。

 それで、一座に連絡を取ったのだが、しばらく抜けていたようだな。今までどこにいた?」


 聞かれたくないことであったが、ここで渋っては不要の疑いを生みかねない。隼人はあっさり口を割ったつもりであったが、実際答えるのは口が重く、数分を要した。


「しばらくは広島のドヤ街に。

 最近は、手配師に住み込みの造船所を紹介してもらって、そこにいました」

「なるほど……間違いなく本人のようだ。八幡颯天が動かせていたしな」


 おそらく裏は取れていたのだろう、すり合わせというわけだ。もっとも、機操戦伎を乗り回して辛くも飛竜騎士を撃退し、日菜や砲園と接している現状、実質証明は済んでいるとも言える。


「そりゃそうですよ。

 八幡颯天は機械人形の中でもデリケートです。マトモに動かせる人形遣いは、砲園と俺、あとは爪十郎さんくらいのはずです。刃衛門さんだって自由自在とはいかないはずです。

 まだ疑ってるんですか?俺が替え玉じゃないかって?」

「念には念を入れるのだよ、軍を不確かな情報で動かすのは、時に危険が伴う。少し臆病なくらいが丁度いいのだ。流石に腕を見れば替え玉の線は消えたが……解せないな。

 鉾蘭一等兵や刃衛門上等兵から、君は二年以上機械人形の操演から離れていたと聞いている。そんな君が、どうして飛竜騎士を撃退出来た?」


 ここで隼人はやっと気づいた。会話の温度こそ世間話の延長であるが、その内容はもはや尋問ではないか。宇津木の不思議な話やすさが、大きく重い筈なのに何処か柔らかい存在感が、警戒心を薄れさせているのだ。

 構うものか。隼人は開き直った。もはや失うものはないのだ、いくらでも探ればいいではないか。


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