一 呉へ②
夢を絶たれた隼人であるが、それでも人生は続く。
隼人も、日菜も。
そんな中、彼らは新たな土地へといくのであった。
「うーわ……ちょっと待て、これどこの町だ?」
「アメリカのヒラデルヒアとかいう町らしい。壊滅だってよ。
なんだろね、日本人が死に物狂いになっても出来なかったアメリカ本土攻撃を、化け物はあっさりやっちまいやがった。
帝国軍は拍子抜けだろうな」
「バケモノってどれ?」
「これらしい」
隼人の指が写真の一角を突いた。
巨大な丘。
巨大な盆。
あるいは穴。
そういった得体の知れない大きなものがひとつ、大きく映っている。対峙している戦車隊からして、直径百メートルを優に超えているだろう。
「え、デカくね?」
「デカいな、軍艦くらいあるらしい。横幅あるからもっとデカく見えるよな」
隼人がさらりと返すものだから、日菜の困惑は深まっていく。キュッと吊り上がった眉根と、深い縦皺が実に雄弁であった。
「……結果、なにこれ?」
「さあね?誰も判ってない。だから新聞でも化け物って書かれてるんだろうさ」
「こっちは?」
壊滅した町の上空を舞う翼。
羽毛の翼ではない。
鋼の翼でもない。
皮膜の翼である。
「……コウモリじゃね?」
「いやいやなに言ってんすか隼人さん。横に映ってるのは戦闘機だろ?
戦闘機って十メートルくらいあるでしょ?どう見ても空中戦してんじゃん……なんなら戦闘機よりでかいぞコレ。
それともなに、アメリカ人がデカいんだ、コウモリもデカい、とでも言うつもり?何倍あんだよ限度あるだろ限度」
下の歯を突き出して煽る日菜に対し、隼人は眉毛すら動かさない。これをまともに取り合うと、話の筋が芯から狂う。
「新聞にはそこまで書いてねえよ、俺だって知りたい」
「ん……でもさ、化け物は一匹とは書いてないよな?」
「んん?……ああ、そういやそうだな」
「どんだけの化け物か知らないけどさ、百メートルの化け物一匹が現れて、町一つ壊滅したからって、それでアメリカが停戦なんて言い出すかぁ?
アメリカは赤城とか空母四隻まとめて沈めてるんでしょ?そっちの方がデカくない?」
日菜は新聞も読まないくせに、こういう感覚は鋭い。バカなのか聡いのか。多分両方だと隼人は踏んでいる。
「じゃあなんだよ日菜、このお盆の化け物が、コウモリの化け物を引き連れてるってのか?アメリカのど真ん中で?
そんなことあり得るのか?」
「隼人よぉ、今質問してんのはアタシだろうが。質問を質問で返したらぶん殴られるぞ?あれだろ……大方、まーた新聞がなんか隠してんじゃないの?」
日菜のあまりの言い草に、隼人や周りの人間はギョッとした。新聞はほぼ全てが国の検閲を通っている。それをここまで露骨に疑うのは危ない。以前程ではないが、憲兵の耳に入ればタダでは済まない。
「それ言い出したら何にも信じられねえよ」
諦めたような隼人の口調に、日菜はすっと目の光を消してぼそりと返した。
「じゃあアタシ、なに信じたらいいのさ」
「っ……」
仕方のないこととはいえ、隼人は一度、日菜との約束を破ってしまった。やはりあの出来事は、日菜の精神に深く刻み込まれていた。
それは地雷であった。広間の全員が一斉に口をつぐみ、温度まで下げる、空気を徹底的に殺す兵器。
しかし日菜当人はケロリとしている。ちらりと空を見上げると、あっけらかんとした口調で切り出した。
「ほら隼人、雨が止みそうな気配になってきたよ。とりあえずいっぺん見てよ、稲若丸の動き」
地獄のような空気に耐えられず、隼人は頷いた。その空気を作ったのは日菜本人なのだ。もしかしたら、いいように操られたのかもしれない。
「わかったよ、ちよっと見てみよう」
新聞を畳んで立ち上がった。また少し、日菜との身長差が開いていた。
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