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機操戦伎グレニアヴァール  作者: そのえもん


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ドヤ街から這い出せ⑥

隼人にとって、この瞬間も戦う日菜と父はよすがであり、誇りであった。

だからこそ、隼人にはその言葉が耐えれてなかった。


是非ご覧ください。

 そうしてリベット打ちの補助にも慣れてきたある日のこと。いつも通り午前中の仕事で疲れ果てていた隼人は、昼飯を胃袋に詰め込むと日影で横になった。


「……あっちだな、日影の気配がする」


 五月の終わりが近づき、少しずつ蒸し暑くなってきた。しかし隼人は、なんとなく涼しい日陰のを嗅ぎつける、どうでもいい特技を身に着けていた。

 思惑通り涼しいところで横になり、うとうとしていると、遠くで誰かの笑い声がした。聞き覚えのある声は、リベット打ちの誰かだ。


「なんかいたな、あんなひと」


 これといった自己紹介もしていないぶん、仕事仲間はうろ覚えである。

 その男は身長こそ隼人と大差ないが、体の厚みが二回りほど違った。手足ばかり長い隼人が、体の使い方やら重心の取り方といった技術で仕事に順応するのに対し、腕力と体重で押さえ込むという、粗暴にして単純明快な答えを出していた男である。

 その選択が普通だ。古武術の理屈から体の使い方を考える隼人の方が変わり者に違いない。

 それはいい。それは良いのだが面倒なことに、そういう連中は大概声がデカい。どこの店のメシが美味いだの不味いだの、女中が美人だのなんだのと、顔と名前の一致しない奴の四方山話なんて騒音に他ならない。明日の昼寝は別の場所にしようと心に決めていると、デカい声が続けて聞こえた。


「戦線、南下してるらしいな」

「らしいな。この前対馬が突破されて、今度は本土じゃないかって言われてる」

「本土で戦争かぁ、たまったもんじゃねえなあ」

「せっかくアメリカとの戦争が終わったのに、今度は化け物相手とはなぁ」

「いっとき堪えてたじゃん?でっかい人形の、キソーなんたらってやつ。あいつら、実際どうなんかね。新聞じゃ活躍してるって書いてるけどさ」


 話題が機操戦伎に移ると、うとうとしていた純の意識は無意識に耳を傾けていた。この瞬間も、遠い戦場では日菜や父が戦っているはずだ。そう思うと不安であり、どこか誇りでもあった。


「どうだかな、新聞もアテにならねえよ。

 あのガラクタどもだってどこまで期待できるんだか……本当に戦えてるのかねえ」


 そう聞こえた瞬間、隼人はぱちりと目を開き、静かに立ち上がった。騒音の出所は、すぐ近くの物陰で屯してタバコを吸っている数人である。


「だって戦車じゃ倒せないらしいじゃないか、飛竜騎士」

「お前そんなの信じてるのか?竜だかなんだか知らねえけどよ、弾が当たれば死ぬだろ、生き物は。

 それをわざわざあんな人形風情に……何がしたいんだかわからねえよ。

 バカなことしてねえでとっとと終わらせてくれりゃいいのによ」


 気づけば隼人は、いい気になって喋るその男の背後に立っていた。爪が手のひらに食い込むほど強く握りしめて。


「おい、今お前なんて言ったよ」


 自分でもびっくりした。自分にこんなに低くて冷たい声が出せるだなんて、知らなかったのだ。


「あ?」

「もう一回言ってみろ、機操戦伎がなんだって?」

「なんだよ新入り。あのガラクタ部隊の肩を持つのか?」


 男が軽口を叩いた瞬間、隼人は男の胸ぐらを掴んでいた。頭の中で弾けた怒りに目の前が真っ白になって、自分では止められなかったのだ。否、どれだけ冷静でもやめない。この男は、日菜や父を侮辱したのだ。見逃すわけにはいかない。


「こ……の野郎!いきなりなにしやがる!」

「こっちのセリフだ馬鹿野郎!」


 そこからはもう掴み合いの喧嘩だった。互いに互いを掴んで振り回す。体幹と重心操作には自信がある、そう簡単には崩れない。一瞬の隙をついて、握りしめた拳を横っ面に叩き込む。男は近くに積んであった空き箱の山へ突っ込み、騒音を撒き散らした。


「どうかしてるぞ、こいつ」


 しかし、相手もこの造船所で長いことやってる連中だ、一発殴られた程度でへこたれるほど軟弱ではない。むくりと起き上がると、床に赤いつばを吐いた。


「……何のつもりだ?」

「こっちの台詞だ!何も知らないくせに!」


 そこまで怒鳴ったところで、背骨を衝撃が貫いた。連中の一人が、手ごろな角材で隼人の背中を打ち据えたのだ。


「がっ……!」


 反射的に身を捩ったところを横合いから蹴り飛ばされ、壁にぶつかってずるりと崩れ落ちる。


「……よくもやってくれたな」


 そこからは多勢に無勢であった。立ち上がろうとしたが、腿の裏に安全靴のつま先が腹にめり込んですっ転がされる。もんどりうってもがいているところに。嵐のように靴底が叩き込まれれば、多少身のこなしに自身があろうと手も足も出ない。

 結局、騒ぎを聞きつけた者が人を呼んでくるまでの間に、隼人は袋叩きにされて白目をむいていた。

 ここまでお読みいただきありがとうございます、感謝感激でございます。

気に入っていただけたら、お気に入りやブックマークで応援してもらえると本当に励みになります。

あなたの一言が、次の物語を紡ぐ燃料になります。


 折角立ち直りかけた隼人でしたが……いや立ち直りかけた隼人だからこそ、それには耐えられなかったのでしょう。果たして隼人はどうなってしまうのでしょうか。

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