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機操戦伎グレニアヴァール  作者: そのえもん


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三 軍靴の音⑥

飛竜騎士による新京の蹂躙はすさまじかった。

日、米、露、どの兵器も等しく役に立たない。そんな映像を見せて、軍は何をさせようというのか?

「……勝負にならないじゃないか」


 呟いてから日菜がはっ、と口を塞いだ。軍人の前でそんなことを言ったら、どんな大騒ぎになるか判ったものではない。

 闇の向こうで若い士官がきっとこちらを向いたのが判ったが、宇津木は掌でそれを制した。


「左様、勝負にならんのです。

 機銃程度では牽制にしかなりません。

 高度は飛行機よりずっと低いが、生き物なので動きが読みにくい。ああも細かく動かれては、高射砲でも当てるのが難しい。それこそ野砲や戦車砲では、不意を突くか長距離からの狙い撃ちか……まあ、一筋縄ではいかんのです。

 榴散弾や艦砲の三式弾……まあ、広範囲に炸裂する砲弾と思ってください。ならば効果はありますが、元々それらは目の前を飛び回るバケモノを狙うものではない。数うちゃ当たると言った程度の話です。

 更に相手は生き物だ、血を見ると興奮して凶暴性が増す。流石に今回は切りましたが……食い殺された者も少なくない。

 幸いというか、我らの赤い血には反応しないのが救いだ。連中の血は、青い」


 映像の中では、榴散弾に巻き込まれたかズタボロになった飛竜が怒り狂って咆哮していた。なるほど、白黒ではあるが全身の傷から垂らしている血は、言われてみれば色合いが違う気がする。

 飛竜は怒り狂って建物を蹴り倒し、長大な尻尾の薙ぎ払いで戦車を弾き飛ばしている。まったく、恐るべきバケモノである。


「狙って当てられないなら広範囲ごと叩くべきだと、アラスカ海やベーリング海、ソビエト沿岸部では絨毯爆撃もしかけました。

 飛竜騎士には一定の効果がありましたが、どうやらバクダ自体には効果がみられませんでした。

 そもそもバクダには、艦砲を打ち込んでも効いている様子がない。おそらく、背中の門を通じて向こう側へ逃がしているのでしょう。

 その証拠に、大規模爆撃を仕掛けると、その後倍に増えた飛竜騎士が現れて暴れ狂うのです。まるで部隊全体が手負いの獣のようだ。我々が想定している戦争とは、余りに違い過ぎる。相手にするのが、実に厄介だ。

 流石に今は、新京に爆撃はできませんがね。流石の我らも、その程度の理性は残っているつもりだ」


 そこでフィルムが終わった。薄闇の向こうで、仁王像のような宇津木が苦々しい顔を作ったのが見えた気がした。


「宇津木特務大佐殿」


 口を開いたのは剣楼であった。いつも通りの穏やかだが、どこかとぼけたような口調であるが、その下の裏には刃が隠れている。


「貴重な映像を拝見させていただき、ありがとうございました。

 いやはや、戦地で戦う軍の皆様には、これからも足を向けて寝れませぬ。私共も、これからもお国の為、一層この大事な鎮守府のお膝元で戦意高揚に務めねばなりませぬ」


 ――うめえな。

 隼人は舌を巻きながらひやりとした。おそらく「新京へ慰問へ行け」と言われるのだろう。冗談ではない、バクダがいるなら、新京は今地球上でもっとも危険な街だ。

 だが、まともに断ればただ事では済まない。だからこそ剣楼は先手を打って「呉での戦意高揚」を大きく持ち上げたのだ。我らの役目はここであり、それは大変立派で身に余る光栄だと、引き続きこれに励むと誇示して見せたのだ。

 下手に断れば首が飛ぶ、これが精一杯の抵抗であった。


「ああ、慰問の依頼かと思われましたか?そうではありません」


 宇津木が薄闇の向こうに飛ばした指示により、映写機はフィルムを交換し、もう一度回りだした。


「本題はこれからなのです。

 今までのは、お話を聞いていただく大前提。なればこそ、我らの不甲斐なさを晒したのです。

 こちらの映像を見て下さい」


 ずらり、と太刀を解き放ったのが聞こえた気がした。

 身の丈ほどもある巨大な刃を振り回すのは、全身を美麗な甲冑で包んだ巨大な人影であった。

 頭上から迫る飛竜騎士を叩き落とし、首の骨を踏み砕いて息の根を止める。


「なっ……!」


 誰かが息を飲んだ。隼人は開いた口が塞がらず、日菜は何度も目を擦った。

 ビルの影に飛び込んで飛竜の吐く炎をやり過ごしたーーと思えば次の瞬間、人影はすでに屋上にいた。頭上から飛び降りざま、渾身の一撃を叩き込んで飛竜の首を叩き折る。反動で放り出された騎士を空中で蹴り飛ばしてバラバラにした。

 今の一撃に太刀は砕けていたが、それでも戦いは終わらない。次々と襲い来る飛竜騎士に、乗り捨てられた車を拾い上げて次々と投げつける。

 更には手近な電柱を引き抜いた。火花を散らして電線を引きちぎると、今度はこれを両手に構えて振り回し、互角以上の大乱闘を繰り広げていた。

 もちろん、映像の甲冑姿は人間ではない。全長およそ二〇メートル、機操戦伎の機械人形に他ならない。


「うそだろ……」


 隼人の呟きを耳聡く拾ったか、宇津木が頷いた。


「左様。この様な光景、どれだけ喋っても誰も信じぬでしょう。だからお見せしたのです、事実として」


 一座の誰もが映像に目を奪われ、貪るように見入っていた。

 知っていたはずなのに、機操戦伎の起源は攻城兵器であると。泰平の時代に芸事に作り変えられ、幕末に押された『時代遅れ』という烙印は、この芸術が再び戦場に返り咲く日を、一ミリも予想していなかったのだ。


ここまでお読みいただきありがとうございます、感謝感激でございます。

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機操戦伎が戦場に返り咲く日が近づいてきました。

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