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機操戦伎グレニアヴァール  作者: そのえもん


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簡単なとこ⑥

「私は隼人を殺してしまうかもしれなかった」

とんでもないことを口走る日菜は、そのくせ暢気に羊羹を食っているから腹立たしい。

自分があと十年若かったらぶん殴っていたかもしれない。

簡単なとこ⑥是非ご覧ください。

「父の死は……確かにがーんと来ましたけど、今時珍しくもありめせん。一座には父をアリューシャンで亡くした者もいますから。その子なんてすごいですよ、酷い時は軍艦の写真見るだけで過呼吸起こしてましたから。

 そういう、めちゃくちゃ刺さってる子を見てたら、なんか逆に冷静になっちゃいましてね。親不孝者かもしれませんが」


 宇津木が僅かに首を左右に振った。仁王像の巨大な胸の内には、存外それに比例した巨大な感情があるらしい。


「まぁ、そういうわけで……私は多分、そういう志とか理由とか、ちょっと弱い……いや、弱くはないんですよ。今でも金色をぶっ殺してやりたいのは変わりません。

 ただなんて言うか……えらく個人的なんです。お国のためにとか、みんなを守りたいとか、そういうのはもちろんありますけど……父を殺された恨みに比べるとどうしても二番手……あ、いけね。大佐の前で言うのはマズいっすね、忘れてください」


 日菜はカラカラと笑い飛ばすと、茶を啜って誤魔化した。さっきの羊羹の後味が溶け出すのが心地良く、心を落ち着ける。


「構わない、茶飲み話だ。私が聞き逃すことも多々ある」


 なんとも寛容な艦隊かと、宇津木密かに吹き出しそうになっていた。こんなことを将校に面と向かって言えた兵卒なんて、本来存在するはずもない。無暗に縛りつけるのと、上下関係をしっかり分けるのは、似ているようで違うのだ。


「そういうわけで戦う理由がえらく個人的なせいか、もしかしたら火がつきやすいのかもしれません。

 我を失って戦いがちというか……今までは指示役だから表に出なかっただけで、今回は単座のブシドー・ストライカーに載ってたから、表に噴き出しやすかったのかもしれません。

 多分それが、特務大佐殿が言うところの、暴なんでしょうね」


 ついさっきまで日菜はこんなこと考えてもいなかった。宇津木と向き合い、自分の胸の内を吐き出しつつあるからこそ、喋ると同時に胸の中で整理が進んでいるのだ。断じて、羊羹食って気が大きくなったわけではない。


「暴が金色だけに、百歩譲って飛竜騎士相手だけに暴れるなら本望なんですが、この前はそれが隼人に向いてしまった。それがマズイ。組手だって知ってるのに、周りを巻き込んでしまった。

 もしもあの時、止めてもらえなかったら……隼人を殺していたかもしれません。勿論その逆だってあり得るんですが」

「勘弁してくれ」

「私だって嫌です。もしもを隼人を殺したらなんて……この羊羹の味がしなくなるくらいに落ち込む自信があります」


 自分が殺してしまうとは、なんとも物騒な娘である。宇津木は若い娘を前線に立たせることを内心悔いていたはずなのだが……この娘はどうだ、こいつが世間にいたら、それはそれでいつか怪我人を出していたかもしれない。誰かこの爆弾のような娘に、力の制御法を教える者はいなかったのだろうか?そこまで考えてから宇津木は思い当たった。

 それこそが、舞台だったのだろう。力を振るうのは殺し合い、壊し合い、命の取り合いではなく、芝居であるというのが一種の制約だったのだろう。それはもはや個人ではなく、機操戦伎そのものによってかけられていた巨大な安全装置である。

 だとすれは宇津木は、それを外して戦場に持ち込んだことになる。今のうちにどうにかしてやらねば、いつか取り返しのつかない過ちを犯す未来が本当にあり得る。どうしたものかと宇津木が頭を抱えている間にも、日菜は呑気に羊羹に舌鼓を打っていやがる。ああ、流石に宇津木があと十年若かったら殴っていたかもしれない。


ここまでお読みいただきありがとうございます、感謝感激でございます。

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