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血癒島  作者: 野良クリ
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第六話「模擬戦4」

 作業部屋に突入する。大将が問題児と評価していた、体つきが良く見惚れてしまうほどの大人の魅力ありありの三十代後半の美女がコーヒーとクッキーを美味しそうに飲食している。


「いいご身分」

 ヴィーシャがムッとしながらトリガーを引き一発射出する。弾丸は吸い込まれるように問題児の額へと進んでいき空中分解する。近衛が「マジかよ」と呟く。


「嘘!? っ」

 ヴィーシャが動揺する。弾丸をナイフを使ってまっ二つに切断したのだから動揺するのは当たり前だ。物理的にはナイフを使って弾丸をまっ二つにすることは可能だが速さに反射神経が追いつかないため不可能に近い。発砲されてから行動しても遅いと言うことだ。


 つまりこの問題児はヴィーシャの発砲タイミングと弾道を予想して額にナイフを構え弾丸を空中分解させたということになる。


「化け物だな」

「三匹の子豚ちゃんはどんな風に悶え苦しむのかしらぁ」


 問題児は机を蹴り飛ばす。机の影に姿を隠した問題児が小鳥に接近する。小鳥がSIG P228を構えダンダンと発砲する。それをしゃがんで避けた問題児がSIG P228を奪い小鳥を盾にしながら連射する。


 ヴィーシャが腹部に強烈な一撃を食らった。ゲボッと口から汚物を吐き出しながら膝を落とし悶える。


「て、てめぇ!」

 近衛が吠える。HK416を構えた、だが撃つことができない。 


「仲間に当たっちゃうから撃てないか。優しさは時に自分の首を絞めるのよぉ」


 問題児が小鳥を近衛めがけて蹴り飛ばすと、だんっ! と床を蹴り接近する。そして近衛の顎に掌底打ちをすると喉頭と頸動脈の間のやわらかい部分にジャブを打ち込む。「がっがぁ」近衛が一時的に呼吸困難に陥る。


 小鳥が問題児を背後からガシっとつかむが足指を力強く踏みつけられ手を放してしまう。腹部を横蹴りされた小鳥が突き飛ばされる。


 壁に頭をぶつけた小鳥が膝を落として気絶するかしないかの瀬戸際を往来する。


「あぁ私の乙女心が満たされていくのが分かる」

 問題児が近衛を押し倒す。

「がはっ乙女心? ババアのくせに女の子ぶってんじゃねぇよ!」

「その勇ましい顔がくしゃくしゃに歪む姿を想像するだけでいちゃいそう」

「このイカレ女がっ」


 戦場には抵抗できない人間に肉体的精神的苦痛を与えることに性的興奮を覚えるサイコパスが稀にだが存在する。目の前のイカレ女もそのうちの一人だろう。


「あがぁああああああああ」

 近衛の人差し指がへし折られる。近衛を熱い、痛い、様々な感覚が襲う。

「大丈夫、命だけは奪わないから」


 近衛の頬を優しくなでる問題児が中指も折る。二本の指があり得ない方向を向きジンジンと痛みが近衛に伝わる。右手の指は三本しか動かない。

 近衛の利き手が壊れた。


「うふふ、Mの素質があるのかしら――ここが膨らんできているのだけれど」


 男という生命体は死に直面したとき子孫を残そうと本能が働きある部分が興奮していなくても大きくなることがある。本当にままならないものだと近衛は思った。


 こいつはどうしてここを踏みたがるのだろうか? 最大限の屈辱を与えることが出来るからだろうか? と思考する近衛はふみふみに恐怖する。 


「可愛い工場を見ると壊してしまいたくて、たまらなくなってしまうのだけれど」


 圧力がじわじわとじわじわとかけられていく。


「じごぐに゛お゛ぢろ゛」


 怒りと苦痛が入れ混じる表情をしながら近衛が悶える。


 トマトのようにブチュと潰れてしまう寸前――


「せ、んぱい」


 ――もうろうとする小鳥が拳銃を構える。照準が定まらないままトリガーを引く。


 弾丸は運よく被弾コースに入った。問題児が近衛から足を離し両腕を盾のように構える。実弾なら腕を貫通して胸部に当たっていたがゴム弾のため貫通はしない。


 だが両腕に深刻なダメージが生まれる。


 近衛が問題児の足首を蹴る。問題児がバランスを崩す。倒れ込む問題児の右と左の襟を腕を交差させて掴み力一杯引いて首を絞める。ラペル・チョークという技だ。を近衛が仕掛ける。


「あぐぐぐぐ」

 わずか数秒で問題児が気絶する。脅威を排除した近衛がヴィーシャを心配する。

「大丈夫ですか!?」

「私のことは後回しで良い小鳥の介抱を頼む……」


 近衛が折られた指を無理矢理戻す。そして小鳥の介抱に向かった。





「いいもんみっけ」


 倉庫に米軍が持ち込んだと思われる品々があった。近衛がアメリカ軍御用達のレーション(MRE)を発見する。改良後のバージョンなら喜んだのだが、これは改良前のやつだ。近衛はちょっと絶望。改良前のMREは世界一まずいレーションと評判の一品。とにかく栄養の補給と保存が出来れば味なんて関係ないよね! という開発者の笑顔が透けて見える。


 その他に水が五リットル、コーヒーとココアの粉末とこれは……


 シュールストレミング世界一臭い缶詰がクーラーボックスの中にぎゅぎゅっと敷き詰められている。シュールストレミングはくさやの六倍臭い! 味はかなりしょっぱい! スウェーデンではウォッカで身を洗いパンに乗せて食べられている、魚の発酵食品だ。


「結構旨いんだよな。洗えば臭いもそんなに気にならないし」


 模擬戦は終了しているが、職員による損害の調査それが終わるまではその場で待機することになったため近衛は暇を持て余していた。

 小腹が空いていたヴィーシャたちは眉をひそめながらMREをもぐもぐする。海上保安庁のものだが美味しいやきとりの缶詰もあった。勝手に食べるわけにはいかないためヴィーシャは我慢する。


「お腹が空いたのだけれど」

 部屋の隅で、体育座りをしている問題児が喋る。気絶から目を覚ましたようだ。


「ほら、ここに座って一緒に食べないか?」

 近衛は問題児を誘導する。椅子に座った問題児をロープでぐるぐる巻きにする。


「ガスマスクの着用をおすすめします。お前の食事はこれだ」


 指を折られた仕返しを近衛が敢行する。クーラーボックスからシュールストレミングを一つ取り出すと問題児の鼻の近くに持っていきゆっくりと開けていく。部屋内に臭い匂いが充満する。


 問題児が顔を真っ青にしながらガタンガタンと暴れる。


「美味しそうだろ。食べたいだろ? もっともっと臭いを楽しみたいだろ?」

「こらっ鬼畜過ぎる」

 ヴィーシャが近衛の頭をハリセンで叩く。小鳥がロープを切り問題児を解放する。問題児が小鳥の後ろに隠れた。


「近衛ガスマスクを脱いで、えっと……名前は?」

 近衛はちゃっかりガスマスクを着用していた。


「ルーシー・バークレイ」

「ルーシーさんに渡せ。これは命令だ」


 近衛がガスマスクを脱ぐ。目がしょぼしょぼして鼻が発酵臭に侵食され吐き気を催してしまう。近衛がガスマスクをルーシーに手渡す。近衛が作業部屋の窓をぶち破って脱出する。



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