第18話 神童の名が廃る
過去最長です。
短かったので繋げてしまったのですが……しくった?
Side:Tsukiyo
あのあと、暫くの間試合を続けていた俺たちだったが、シェリーさんに[念話]で呼び出されたらしく、お開きとなった。この『らしく』というのは、[念話]の対象に俺が含まれていなかったためだ。
『1度会話したことのある相手と思念のやり取りができる』というスキルだが、他にも条件があるのだろう。鑑定系スキルで見れる情報も、結構重要なことが抜けてたりするんだよな……。まあ今のままでも十分便利なんだけど。これ以上は高望みしすぎか。
そして2人揃って応接間に行くと、ツヤツヤのシェリーさんとげっそりしたエドガーがすでに座っていた。何をシていたんですかね。ツキヨ、ワカンナイ。
まあどんな話をしたか、要点だけをかいつまんで話すと
・シェリーさんの敵対意志がなくなったよ
・協力してくれるよ
・代わりに情報提供してね
・情報整理が終わったら、少人数で王国に行くよ
・ついて来ても良いよ
みたいな感じ。紆余曲折あったけど、無事行動に移す段階まできた。ただ、いきなり押し掛けるわけにもいかないから、表向きに親書をあらかじめ王国に送って、出発はその後になるらしい。大体2週間って話だったけど、もう1週間近く経ってるから残りあと1週間。俺には自由が許されたわけだ。
そんな感じで時間を貰った俺だったが、その時間のほとんどをスキルの習得に費やした。公国に来るまでにもいくつか戦闘系・生活系関係なく習得したけれど、手札は多いに越したことはない。あの国王や、その裏にいるかもしれないやつとの戦闘になる可能性だってあるんだから、何をしてもやり過ぎということはないはずだ。多分。
魔法やスキルを使う魔物の調べは既についていた。というか、王城で調べてみんなに配ったガイドブックにも載せたし。その中でこの周辺に生息するものだけを狩りに行った。他の冒険者の戦闘を盗み見たりもして、スキルを乱獲した。自重無しで。
その上、ユリアとの訓練も相まって、ステータスはこうなった。
―――――――――――――――
名前:進藤月夜
種族:普人族
性別:男
年齢:16歳
状態:良好
Lv. 23
HP. 1390/1390(+1000)
MP. 1130/1130(+800)
STR 686(+500)
VIT 716(+500)
INT 1358(+1000)
MIN 955(+700)
AGI 963(+700)
称号 : 【神童】
【情報通】
【偽りの仮面】
【異世界人】
【Sophia】
【闇神の加護】
固有スキル:[天賦の才]
特殊スキル:[神格]
[高速思考Lv.2]
[並列思考Lv.3]
[解析]
[完全記憶]
スキル : [万里眼Lv.6]
[遠聴Lv.4]
[言語理解]
[偽装ⅡLv.7]
[表情操作Lv.3]
[人族語理解]
[闇属性魔法Lv.19]
[複写Lv.11]
[読唇術Lv.3]
[魔力感知Lv.23]
[魔力回復Lv.11]
[魔力操作Lv.16]
[詠唱省略]
[短剣術Lv.6]
[罠発見Lv.3]
[罠解除Lv.3]
[威嚇Lv.2]
[土属性魔術Lv.18]
[気配遮断Lv.9]
[料理Lv.32]
[硬化Lv.4]
[身体強化ⅡLv.11]
[結界Lv.16]
[見切りLv.10]
[盾術Lv.3]
[受流Lv.7]
[槍術Lv.4]
[小剣術Lv.6]
[長剣術Lv.12]
[斧術Lv.3]
[瞬動Lv.10]
[火属性魔術Lv.14]
[風属性魔術Lv.13]
[体力回復Lv.2]
[軽業Lv.6]
[棍術Lv.3]
[水属性魔術Lv.11]
[気配察知Lv.4]
―――――――――――――――
うん、なんか恒例になりそうだけど言わせてほしい。
混 沌 !!!!!
うーん……やっぱ俺自身のレベルの上がりが小さいか。もうちょい上のランクの魔物を狩った方が良いか。人に見られなきゃそう面倒も起きないかね? あ、でもギルドカードに記録残っちゃうか。うーん……ま、後回しだな。
ま、それは置いといて。本日は、俺の装備を、整えたいと思います。今までは武器防具なんて、外面を誤魔化すためだけのショボいやつ(ひのきのぼうではない)だったけど、さっきも言ったように、万全を期して臨むためにもガチ装備は必要だろう。
では、良い武具を手に入れるにはどうすればいいだろうか。方法は大きく分けて三つある。
一つ 誰かから盗む
うん、ただの外道だな。犯罪、ダメ、ゼッタイ。
二つ ダンジョンで手に入れる
ダンジョンでは、稀に武具や価値のあるお宝が手に入ることがある。難易度の高いダンジョンほど良いモノが出やすいのだが、この周辺にそんな危険なダンジョンはない。つまり手に入ってもどこにでもあるような武具ってことだ。あと1週間で帰ってこれないだろうから遠くのダンジョンも不可。今回は却下だな。
三つ 武具屋で買う
これが今一番堅実で現実的な方法だ。ただ、問題が一つ。今まで金を稼ぐことを目的にしてなかったせいで、俺の所持金はそんなに多くない。今は会議場の部屋を貸してもらって寝泊まりしてて宿泊費と食費はかなり浮いてるけど、精々200,000Gくらいだ。それなりにいいヤツを買おうとすれば値も張るのだろう。今後の生活のことも考えると、これだけでは足りなくなる可能性もある。
働かなきゃ(使命感
で、今は冒険者ギルドに来ている。一応今の俺の本業だし。とりあえず危険度は度外視、報酬の多さだけで依頼を見ていくと、俺のランクで報酬が多いのはこの三つだった。あ、俺は今Dランクだから、Cランクの依頼は受けられます。
***
ノトア湿地の調査【 C 】
内容
・ノトア湿地に向かったEランク冒険者パーティの消息が絶たれた。彼らの無事と原因の確認を頼みたいとのこと。
・生存が確認され、救助に成功した場合、更に追加で報酬が支払われるとのこと。
依頼主
・パーティ『鉄の拳』所属 ロイ氏
期間
・一ヶ月以内
報酬
・100,000G
***
武具屋の調査【 D 】
内容
・商業区、西門付近にある武具屋『アルマティス』が詐欺まがいの商売をしているという噂が流れている。その真偽の程を確かめてほしい。
・本当に詐欺を働いているようなら、店主を憲兵に引き渡した時点で依頼完了とする。
依頼主
・冒険者ギルド スピカ支部
期間
・二週間以内
報酬
・50,000G
・『アルマティス』の武具数点※
※噂が真実であった場合のみ
***
盗賊団掃討【 C 】
内容
・近々、公国の騎士団を中心として『ゼルガ盗賊団』の大掛かりな掃討が行われる。そこに冒険者も参加してほしいとのこと。
依頼主
・ヴィガーズ公国騎士団長 ルドルフ氏
期間
・3日後に募集を終了、出発する
・凡そ一週間かけて盗賊団の掃討を行う
報酬
・80,000G
・働きによっては騎士団に入る試験を受け、その結果次第で入団可能
***
うーん……微妙……まず、盗賊団掃討はキツいよなぁ。日付的に。んで、ノトア湿地の調査もタイミングが悪かったら終わる。タイミングっていうのも、あそこ、不定期で霧が出るんだよ。そうなれば一週間で依頼完遂は不可能。決して近くはないし。
となると……
「……こいつかな」
武器が無料でもらえるかもしれないし。
剥がした依頼用紙を受け付けまで持っていく。受け付けにはこの一週間で知り合いと呼べる程度の仲になった少女、ティファニーがニコニコしながら座っていた。
「こんにちは、カマルさん。依頼を受けるんですか?」
「あぁ、これを」
「あれ? これでいいんですか? 盗賊団掃討じゃなくて」
「ん? なんで?」
「なんでって……冒険者が騎士団に入れるチャンスなんですよ? こんなの滅多に無いですから!
現にランクD、Cくらいの人たちはみんなそれを受けてます!」
なるほどね。確かにその日暮らしの冒険者よりも騎士団に入った方が収入も安定するし、社会的立場も高い。冒険がしたいとかじゃなく、仕方なく冒険者やってるようなやつらには格好のエサってことか。
「別に騎士団に興味がないわけじゃないんだけどな。ただ、一週間後には大事な用事があってさ。日付的にどうしてもダメなんだ」
「あぁ、なるほど。そういうことだったんですか。それなら納得ですね。あ、すみません。変な口出しして」
「いや、それは別にいいよ。けどまあ、これも十分破格だと思うんだけどな。ただの調査にしては」
「あ、そのことなんですけど……」
そう言ってティファニーは口もとを手で隠し、手招きをした。あざとい。耳を寄せろということだろうか。
その解釈で合っていたようで、俺が耳を寄せるとティファニーは小声で話し始めた。恥ずかしい。
「……実は件の武具屋の店主さん、昔はBランクの冒険者だったらしいです。でも、ギルド側はそこまで高い報酬を払う理由はないって、この依頼をDランクにしたんだとか」
ゥワオ。冒険者ギルドもそんな下衆いことするのか。世も末ですな……
「どうしますか? 今なら断ることもできますけど……」
「いや、受けるよ。受理、よろしく頼む」
「……はあ。まったく……。難易度の高い依頼を受けることにもう少し躊躇ったらどうですか? カマルさんのことだから今回も大丈夫なんでしょうけど。依頼失敗したらシワ寄せはこっちに来るんですからね? そこのところ、もう少し考えてください」
「ハハハ……善処します」
「はぁ……とりあえず、依頼の受託を確認しました。武具屋『アルマティス』の調査、よろしくお願いします」
「あぁ、行ってくる」
◇◆◇
確かにね。言われたよ?
『武具屋の店主は元Bランク冒険者かもしれない』って。
だから予想はしてたよ?
『もしかしたら、逆上して襲ってくるかもしれない』って。
だけどさ、こんなの誰が予想できる?
「再会していきなり「げっ」はないんじゃない?
ねえ、月夜クン?」
まさかこいつらがいるなんて。
「いやぁ~久しぶりだね、月夜クン」
「あぁ久しぶり。天霧、と文野も」
「えぇ、久しぶりです」
会話、終了。
……ナニコレ? こいつらと会話すんのこんな気まずかったっけ。
今いるのはギルドに隣接している酒場だ。と言っても酒は飲んでないが。
この世界では酒やタバコに年齢制限はない。だがこの世界に来て、武田先生に釘を刺されているのだ。そういった類いのものの使用は日本の法律に従うように、と。
確かに、本気で日本に帰ろうと思っているのなら正しい選択だろう。習慣というのはそう簡単に矯正できるものじゃない。だから俺らも戦闘に慣れることに苦労したわけだし。
あのあと、気絶状態の店主を憲兵に引き渡し、[武具鑑定]を持ったギルド職員に証拠となる武器を数点提出して依頼は無事完了となった。ちなみに、文野が店主を殴ったことに関しては相手が犯罪者だったため特に問題にならなかった。
報酬である武具の見定めは後回しにして、俺はこいつらと話すことにした……のだが、失敗だったか?
何か話題あったかなーと考えていると、珍しく文野が口を開いた。
「……突然で申し訳ないのですが、進藤君に頼みがあります」
ほう。これまた珍しい。文野が俺に頼み事とは。
「何だ? あんまり面倒なのはなしだぞ」
「安心して下さい。すぐ終わります。
―――一発殴らせて下さい」
うん…………。……うん?
「Why? 何故急に? 理由教えてもらわないと意味分からんぞ」
「あぁ、すみません。急ぎすぎました。
まずですね、私が王城を出てきた理由の半分はあなたを殴るためなんですよ。」
……………あ、ああ! 冗談か。なんだよ……
「……HAHAHA! 文野も冗談を言うようになったのか! だけど今のは正直微妙だったぞ。ギャグのセンスはまだまだだな!」
「………」
……え、マ?
「進藤君、あなたは自分が死んだことになっていることを覚えていますか?」
「いや、そりゃあ覚えてるけど。それがどうした?」
「はぁ……覚えていてそれですか……
問題はですね、あなたがその行動の責任を取っていないということですよ。多くの生徒があの件で精神的に参ってしまいました。自分のことに目が行き過ぎて、クラスへのフォローが行き届いてなかったのではないですか?」
「いや、その辺は天霧に任せたはずなんだが」
「そのフォローが不適切だったせいで私は大変不快な思いをしました。監督不届きです」
何その超理論!? いや言ってることは分かるけれども!
「いやいや、そいつは責任転嫁だろ。しかも私怨! てか、それなら殴るべきは天霧じゃねえの?」
「それが、そうでもないんですよ。
王城の書庫で、進藤君は過去を語ってくれました。しかし、その中に一つ嘘が紛れていたのです」
おっと……? そういえば、そんなことをした気がしなくもないぞ……
「私に気を使ったのか、本当のことを話すことが憚られたのかは知りませんが、進藤君は私に虚偽のステータスを伝えましたよね?」
そうだった。嘘を吐いた理由は文野の言った両方とも間違ってない。……しかし、なぜそれが文野に不快な思いをさせることになるのかが理解できない。
「私が……私が、どれほど罪悪感を感じて……心配したと思っているのですか………!!」
………俺は、言葉を返すことができなかった。
そうだ。自惚れるわけではないが、俺は文野からしたら始めてできた、数少ない友人だ。そんな相手が死んでいつも通りいられるなんて、どうしてそう思っていたんだろう。
天霧がいたから?
どうせ俺のことを思ってくれる人はいないと思っていたから?
どちらにしても、俺は文野のことを侮辱したに等しい。代わりの人間がいれば死んだ人間のことは忘れるだろう。俺のことなんて想ってくれる人はいないんだから、文野も気にすることはないだろう。
文野はそんな冷酷な人間じゃない。それは知っていたはずだ。なら、なんであんな行動をした?決まっている。結局のところ、俺はまた傷つくのを怖がったのだ。自分の価値を高く見積もって裏切られることが怖い。力を示して周りから人が離れていくことが怖い。
エドガーと会ったときと同じだ。自分から踏み出さないと始まらない。傷つく覚悟を固めないといけない、か。まったくその通りだよ。一体何度同じ間違いをすればいいんだ。冷静に、客観的に。感情に素直なのは決して悪いことじゃないけど、恐怖に負けて保守的になるのはダメだ。
……よし。反省終わり!!
「あー、それについては本当に悪かった。この通り」
「別に、頭なんか下げなくてもいいですよ」
ほっ。許してもらえるみたいだ。良かった……
「殴られてくれればそれで」
「あ、なるほど」
そんな風に話がつながるのか。
「いや、でも流石にただ殴られるのは抵抗があるよ? 痛いのは嫌だしさあ。天霧殴って満足しておこうぜ。な?」
「えーと、何を言っているんですか?」
あれ? 俺何か変なこと言ったかな……? 暴力反対とか?
「天霧君は既に何回も殴ってますよ」
「そっちかよ!」
「ほら、王城での借りを返せますよ」
「あれは取引だったろ。[言語理解]の件でチャラだ」
「チッ。
仕方ありませんね。この手段は取りたくなかったのですが……
天霧君、お願いします」
舌打ちって……女子こわい。
何故天霧? と思っていたが、とある可能性に思い当たる。あれ、嫌な予感がするぞ。天霧の方を見るとニヤニヤと小憎たらしい笑みを浮かべている。
「月夜クン、覚えてるかな? キミはボクに借りがあることを。大人しく殴られてくれればチャラにしてあげてもいいんだけどなぁ~
大人しくしてれば平気だよ。痛いのは一瞬だから。大丈夫、すぐ終わるよ。申し訳なく思っているなら、大人しく殴られて……キミも道連れだ」
「うっさい。黙れ」
やはりそうきたか。てか最後本音隠せてないし。
べつに俺が文野の言いなりになって殴られる必要はない。ただ、これを断った場合、今後文野が力を貸してくれることはなくなるだろう。今のところは何もないが、いつか調べてもらいたいことが出てくるかもしれない。そうなると、ここで断るのはあまりよろしくない。
ついでに言えば、俺にだって人並みに罪の意識を感じることはある。
それに、よくよく考えてみると条件は悪くないんじゃないかと思う。下手に天霧に貸しを作っとくと、何を頼まれるのか分かったものじゃないし。こっちの方が断然マシじゃないか? 死ぬわけじゃあるまいし。それに、俺とあいつのステータス差も大きいから、痛くもないだろう。
文野はストレスを発散できて、俺は天霧の借りをチャラにできる。……あれ? win-winじゃん。断る理由なくね?
「オーケー、その条件を飲もう。ただ殴られればいいんだろ?」
「えぇ、その通りです。では早速いいですか」
「あ、ちょっと待って二人とも。せっかくだから月夜クンと模擬戦をやりたいんだけどさ。訓練場借りてそこでいっぺんにやらない?
それに、ここじゃ周りの目があるしね」
天霧の言う訓練場とは、おそらく冒険者ギルドにある方を指すんだろう。ある程度大きい冒険者ギルドならどこでもあり、主に今みたいな模擬戦や昇格試験で使われる。確かに往来でいきなり殴られるというのは、周りの目が気になる。
しかし模擬戦か。たまにはユリアじゃなくて他の相手とやるのもいいかもしれない。天霧の実力も気にならないと言えば嘘になる。
「俺はいいぞ」
「構いません」
「じゃあそういうことで。訓練場借りる申請してくるよ」
◇◆◇
というわけで来た訓練場。広さは学校のグラウンドくらいか。結構広いし、頑丈な造りになっている。ここならある程度は暴れても平気というわけだ。さすがに帝級呪文なんかうったらやばそうだが。
「では、進藤君。そこに立ってもらえますか」
「おう。これでいいか?」
「はい。大丈夫です。では、いきますね」
そう言って文野は拳を構える。
……何気、さまになってるのが恐い。やっぱ実戦で魔物相手に戦う方が安全圏で訓練するより効率いいのかな。養殖と天然みたいな。
そして放たれるグーパン。狙いは鳩尾か。
あの教室で大人しくしてた文野からは考えられない程速い。が、それは文野にしてはだ。実際、速さはユリアの剣閃よりもはるかに遅い。これなら大したダメージを食らうこともないか。
そう思い、俺は身体から力を抜いてしまった。完全な慢心だ。言い訳の余地もない程に。ここで油断していなければ、と後悔してももう遅い。
文野のパンチが鳩尾に入る。瞬間、俺の身体には激痛が走った。
「グァ"ッ!!」
痛い。
立っていられない程に。
鋭い痛みではなく、殴られたことによる鈍い痛みだ。俺はすぐに地面に倒れこむ。
何をされた? あいつは非戦闘系スキルしか持ってなかったはず。いやここまでの旅で何かしらの手段は手に入れたのか。ダメだ、痛みで思考が纏まらない。
そうだ、HPは? こんだけ痛いんだからかなり減ってるはずだ。そう思い確認したが、HPは3しか減ってなかった。
「ありがとうございました。スッキリしました。
どうですか、進藤君? 久しぶりの痛みなんじゃないですか?」
「ッ……あぁ、その通りだよ……ッテェな……[痛撃]か。効いたぞ」
スキル[痛撃]。その名の通り、攻撃による痛みを増加させるスキルだ。痛みを増加させるだけなので与えるダメージは変わらないが、その特徴を利用して拷問に使われたりする。
「寧ろ進藤君が何も警戒していないことに驚きでしたけどね。私はあなたのことを知っているのですから、策は練るに決まってるじゃないですか。【神童】の名が泣きますね。相手になる者がいなくてボケてしまいましたか?」
「月夜クンに一泡吹かせるために、ボクたちなりにいろいろと考えたんだよ。ねえねえ、今どんな気持ち? ねえどんな気持ち?」
クッソ、天霧のウザさがとどまることを知らない! ここぞとばかりに煽りのテンプレを使ってきやがる!!
しかし、まったく文野の言う通りだ。最近、というより今まで自分より弱い相手としか戦ったことがなかったせいで、気が抜けていたのだろう。負傷という負傷もなく、痛みへの耐性がなかったのもいけなかった。いやまぁ自業自得なんですけどね。
今回は罰ゲーム的なものだったから良かったものの、もしこれが実戦だったら俺が痛みに悶えてる間にろくに戦うこともできずに殺されていたかもしれない。
しかし俺はさっきの文野の言葉が気になっていた。『私はあなたのことを知っている』。こいつは俺のことを【神童】だと最近知ったやつだ。
過去の経験から、俺は周りにそれを知らせることを避けてきた。そのせいでステータスを偽ったし。だが文野は、俺に対するスタンスをまったく変えてない。まあ腹パン一撃という代償はあったのだが……
その事実を噛み締めるたび、トラウマを塗り替えてくれる安堵感と、今までの葛藤は何だったのかというやるせなさに苛まれる。中学のときにこいつと会っていたら、何かが変わっていたのかもしれないな。
「……あぁ、その通りだな。文野、サンキューな。おかげで目が覚めた」
この世界はゲームでも、フィクションでもない。紛れもない現実だ。レベルやスキルといった要素があるものの、結局のところは使う人間次第なのだ。脆弱な精神の持ち主が強力なステータスを得たところで強者たり得ない。この話は、元はといえば俺が天霧と明上にしたのと同じじゃないか。まさか自分がそれを忘れてしまうとは。同レベル以上の相手と戦ってなくて慢心してたのかな。
「え、殴られて感謝するとか進藤君はマゾなんですか?」
「違えよ!!」
「お疲れ様、二人とも。どう?文野サンは満足した?」
「はい。溜飲は下がりました。」
いや、「下がった」じゃなくて「下げた」と言うべきだろ。言わないけど。
「それなら良かった。じゃあ月夜クン、ダメージ受けてすぐで悪いけど付き合ってもらっていいかな?」
「痛みももう引いたし、いいぞ。こっちこそよろしく頼む」
「うん、よろしく。
あ、こっちハンデもらっていい?ステータス差があれだけあるんだからいいよね?」
「まあ、ある程度なら」
「じゃあ、月夜クンは攻撃禁止、ボクの攻撃が少しでも届いたらボクの勝ち。5分経っても月夜クンに掠りもしなかったら月夜クンの勝ち。どう?」
アホか。何その無理ゲー。
「『どう?』じゃねぇよ。ある程度って言ったのが聞こえなかったのか? せめて迎撃はありにしてくれ」
「オッケー、じゃあそんな感じで」
かなり不利なルールになった。ま、いくらでもやりようはあるか。こんぐらいはできなきゃ、まさに【神童】の名が廃る。慢心はもう二度としない。
「では、私は見学しています。審判とかできそうにありませんし」
「あ、じゃあ始めの合図だけお願いしてもいいかな」
「まあ、それくらいなら構いませんが」
文野はそう言うと入り口のすぐ側まで遠ざかる。そこまで離れる必要ないと思うんだけどなぁ。もしかしたら天霧が範囲攻撃の手段を? いやでも1対1の模擬戦でそんなことしても無駄だしな……いや、単に邪魔しないように――
「では、始めますよ。いいですか?」
――どうやら、時間切れみたいだ。俺は少し離れたところにいる天霧に意識を集中する。
「始め!」
Skill
・[痛撃]
自身の攻撃が与える痛みを増幅させる。しかし与えるダメージは変わらないという性質ゆえに魔物との戦闘には向かず、決闘で使用しようにも他の能動スキル(身体強化など)と同時に発動はできないため、自らこのスキルを取ろうと思う人は少ない。
もし無意識でこのスキルを習得してしまったのなら、加虐趣味の気があるかもしれない。
・[万里眼]
[千里眼]の上位スキル。より遠くまで視ることが可能になる。
・[遠聴]
[聞き耳]の上位スキル。離れた位置の音、より小さな音も拾うことが可能になる。
・[硬化]
身体の一部の硬度を高めることができる。ただし、一度に全身を硬化するようなことは不可能。
硬度はスキルレベルと使用者のVIT値に依存する。
・[結界]
魔力を断絶する障壁を生み出すことができる。ただし、物理的なものは遮断できない。
強度はスキルレベルと使用者のMIN値に依存する。
・[瞬動]
目にも留まらぬ速度で移動できる。
・[軽業]
自身の質量を無視した行動を可能にする。




