第17話 犯罪、ダメ、ゼッタイ
Side:Mikage
やあやあ、はじめまして、かな。月夜クンのお友達をやっている天霧深影だよ。今回はボクの視点で進めるみたいだからよろしく! え? メタいって? 気にしない気にしない!
じゃあまず現在に至るまでの経緯から話そうか。
王城を離れることを決めたボクらは、取り敢えず月夜クンを探すことにした。文野サンは月夜クンに会いたがっていたし、ボクもそれに異論はなかったしね。
彼に会うためにどこへ向かうべきか、ボクらが出した結論は公国だった。
公国は王国から独立した国だ。しかも最近。やっぱり王国の異変との関係は疑うよね。確かに外部は関係なく、国王サマがご乱心なだけって可能性もなくはないんだけど、その可能性はないと思ってた。ボクの勘が、そう告げていたから。
そしてそれは、月夜クンも同じだと思う。彼の場合は勘じゃなく理路整然とした理由に基づいてなんだろうけどね。決定打に欠けてなんとも不安だらけだったけど、そうしてボクらは公国に向かった。則ち、南へ。
さて、方針は決まったわけだけれど、それだけでこの世界を生きていくことはできない。なぜなら……
お金がない☆
………まあ当然だよね。食費、宿泊費、消耗した武具の調達などなど、出費は上げてたらキリがないのに、稼ぎはろくにないんだから。
そんなわけで、ボクらは冒険者として生計を立てることにした。一ヶ月の間にボクは何回か依頼を受けたこともあったし、慣れている仕事のほうがいいじゃない? 一箇所でずっと働くわけにもいかないしね。
ただ、問題は文野サンだった。彼女のスキルはお世辞にも戦闘向けとは言えない。確かに他のクラスメートたちにも戦闘系スキルを持たない人は大勢いた。けれど彼らは一ヶ月という時間をかけて訓練を行い、戦闘慣れしている。
冒険者にとって戦闘能力は重要なファクターだ。それがないということはただの欠陥に他ならない。
ボクは、そのことを包み隠さず彼女に告げた。1人くらいなら守りながら旅はできるとも。足手まといになるくらいならと別れるか、ボクの提案に乗るか。普通ならその2択だろう。誰も好んで自分から命の危険にさらされるようなことはしないはずだ。加えて、彼女は擬似的であるにしろ人が目の前で死ぬ様を見ている。まともな人間ならトラウマものだ。
そんな予想をしていたわけだけど、彼女はそれを裏切った。彼女は戦うことを選んだのだ。何でも、守られるだけは嫌なんだそうだ。……実に男らしいよね。惚れちまうぜー(棒
「天霧君、こっちは殲滅終了しましたが……どこの誰と話していたんですか? ついに頭がおかしくなったんですか?」
「あぁ、うん。画面の向こうのお友達とね」
「は?」
「いや、何でもないですそんな憐れみの目で見ないでください。
せっかくの美人が台無しだぞ☆」
という訳で始めた冒険者稼業。ショボいのも合わせたらかれこれ20回くらい依頼を受けたかな。今は行商人の護衛依頼の真っ最中。移動ついでにお金も稼げるから結構便利なんだよね。
まあ、今回の依頼人は正直三流以下の商人だから、そこまで報酬は弾まないんだけど。無いよりはマシかな、と。
たんこぶをつくったボクに依頼主が話しかけてきた。これは暴力じゃなくて愛のムチ……ごめんなさい、だからそんな目で見ないで!
「おぉ、ありがとうございます冒険者様。おかげで助かりました。私だけでは魔物はどうにもなりませんからな」
「いえいえ、仕事ですし」
仕事じゃなきゃやりませんし。
「それにしても、お二人とも若いのにお強いですな。お嬢さんの方は魔物どもを軽々と蹴散らしてますし、あなたは気づけば終わらせているようで。かなりの手練れとお見受けしますぞ。頼もしい限りですな」
そりゃあそうだ。これでも勇者の一人だし。
「ありがとうございます。まあ、護衛は任せて下さい。この辺の魔物にはそうそう負けませんから」
ちなみに、文野サンの得物はメイスである。剣とかの刃物は向きを気にしなきゃいけないから使いにくい、とは本人の談だ。ボクはどちらかと言えば後衛だから、バランスはとれてると思う。前衛として鈍器を振り回す姿はかなり頼もしい。
前より逆らえなくなったけどね☆
「さて、では進みましょうか。そろそろ着くはずですよ。公国一の都、スピカに」
◇◆◇
「では、ありがとうございました。おかげさまで無事、スピカへ戻って来ることができました。
何か入用でしたら、是非とも我がトーマス商会へ」
「えぇ、機会があれば今度伺わせていただきます。それでは」
嘘だけど。
依頼主と社交辞令を交わすと、報酬を受け取りに冒険者ギルドへ向かう。
すると、今まで黙っていた文野サンが口を開いた。
「……まったく空虚な会話でしたね。そんなだから三流のままなんですよ」
「アハハッ、手厳しいね。まあ、そう言わないでもいいんじゃない? 商人なんて嘘ついてナンボでしょ?」
偏見かもしれないけど。
「誰があの商人だけのことなんて言ったのですか? 天霧君も同じでしょう。
正直、聞いてるこっちとしては気持ち悪くて仕方ありませんでした」
「本当に手厳しいなぁ……」
そうして話しているうちにギルドにつく。要件を済ませるために受付に足を向けるけど、間にゴロツキのような身なりの男が数人割り入って来た。はぁ……
「よぉ、ガキ共。ここはテメエらみたいなのが来る場所じゃねえぞ。さっさと帰ってママのおっぱいでも飲んでな!」
リーダー風の男がそう言うとどっと笑い声が上がる。前言撤回。ような、じゃなくてゴロツキそのものだ。ここの治安はどうなっているんだろうか。ちょっとスタッフ? ギルド内での騒ぎはご法度なはずなんだけどな。
よく見ると彼らの顔は赤く、息も酒臭い。真っ昼間からいい大人がお酒なんて……
文野サンはそいつらを無視して受付に向かおうとした。けれど、彼らはそれがお気に召さなかったみたいだ。
「おい! 何無視してやがんだ! ちょっと待てよ!」
そう言った男は彼女の首元を掴みにかかる。すると、目深にかぶっていたフードが脱げ、彼女の素顔が顕わになった。
フードを被っていた理由は、今回のような面倒を回避するためだ。彼女は控え目に言っても可愛い、美しいと言えるだけの容姿を持っている。この世界ではイタリア人もびっくりするくらい簡単にナンパする。いや、イタリア行ったことないから適当言った。
まあそんなことが過去実際にあったりもしたから、文野サンは顔をできるだけ隠すようにしている。元々男性が得意じゃないしね。え? ボクは当然例外だよ! なんて言ったって一緒に旅する仲間だからね! ほら、仲良しな間柄ってこと! 2人はソウルメイトなのさ~!
ただそんなことしてもバレるときはバレるわけで。男たちは一瞬驚いた(というか見惚れた)みたいだったけど、すぐに下卑た顔になる。
「なぁんだ、かなりの別嬪じゃねえか。
なぁ嬢ちゃん。そんなつまんねえ男より、俺らと遊ばねえか? そうすりゃさっきのは許してやるよ」
下卑た顔でそう告げる男。つまらない人間とは失敬な。これでも一応エンターテイナーとしての誇りはあるんだよ? 今ここで自慢の手品を披露してやろうかとも思ったけどやめておいた。残念ながら、そこまでKYにはなれない。
酔っぱらいの男たちは、勢いに任せて冗談では済まされない段階まで来ていた。質問の形式ではあるものの、男の中でそれは決定事項であるらしく、文野サンの方に腕を伸ばして―――
「触らないで下さい。汚れます」
パシン、と。すげなくあしらわれた。
最初はポカンとしていたけど、即断られた上に貶されたのだと気付くと、男は顔を真っ赤にして拳を振り上げた。
「このクソアマが!! ナメやがって!!」
男は逆上して文野サンに掴みかかろうとする。こんな少女に力で負けることはないと判断したんだろう。
事実、普通だったら成人男性が少女に力で負けるはずはないし、日本で同じことが起きても文野サンは暴漢にロクに抵抗することすらできないだろう。
けれど今、ボクらはこれでも異世界から来た勇者の一人だし、ここは地球じゃなくパルティアだ。
ならば、この結果。
―――文野サンが男を軽く殴り飛ばすという結果も、当然と言えるだろう。
「ちょ、ちょっと! 何の騒ぎですか!?」
周囲の人たちが固まっていると、タイミングを見計らったかのようにギルドの職員と思われる少女が現れた。
よく言うよね。さっきから様子を伺ってたくせにさ。
あーあ。けどまたやっちゃったなぁ。次の街でこそ問題を起こさないようにしようと密かに決意してたのに。何がダメだったかなぁ……次はフルフェイスメットでも装備してもらおうか。
おっと、そろそろフォローに入らないとマズいかな。
「ええと、すみません。ボクの連れが少しばかり過剰に自己防衛を働いてしまったみたいです」
「自己防衛?」
「はい。あの男がいきなりキレて、彼女に襲いかかったんですよ。おそらく酒でも入っていたんでしょうね。
あ、嘘だと思ってます? 今見てた人に聞いてみて下さいよ。全部ホントのことですから」
そう言ってボクは野次馬の方を向く。野次馬は顔を引き攣らせながらコクコクと頷いた。
ま、自分でも見てたから知ってたんだろうね。少女はろくに調べたりもせず、判決を下した。
「うーん……そうですね。今回は不問にします。
但し、次にこういったことがあればこうはいきませんので」
「分かりました。ありがとうございます」
よかったー。毎回毎回文野サンは売られたケンカを買うからね。不器用というか意図的にやってる節があるからな……取り調べとか他の街で受け飽きちゃったからね。後処理、フォローは慣れたものだ。
今までのやり取り・行動からこの子が面倒事を増やさないように努めているこのは理解できた。演技とか建前とかも利用している辺り、かなり強かだよね……。こういうのを世渡りが上手いって言うのかね。現代の女子相手でも上手くやれそうだ。文野サンにも是非見習ってほしいよ。
「ところで、本日はどのようなご用で?」
「あぁ、依頼完了の報告に来たんですよ。これが、その証明書です」
「えーと、ポリマからスピカまでの護衛依頼ですか。……はあ。なるほど、あなたたちがあの。
まあ、いいです。ちょっと待っていただけますか……はい、確かに依頼の完了を確認しました。Dランクパーティ『影踏み』様。こちらが報酬の50,000Gになります」
あのって何だあのって。
「うーん、結構長めの依頼だったし疲れたね。今日明日くらいは休みにしようと思うんだけど、どうする?」
「私は構いません。武器も新調しなければならないようですので。」
「あぁ、確かにね。じゃあ早速行こうか」
「……一人で行くつもりだったのですが……」
「どうしたの? 早く行こうよ」
「そうですね」
僕には聞こえてないと思ってるのかな。実際は丸聞こえだけど。
彼女は他人との関わりをあまり持たないようにしている。それが意識してのことなのか、そうじゃないのかは分からない。
ただ、僕は彼女を独りにするつもりはない。決して逃がさないよ。決して、ね………
◇◆◇
歩き始めたボクら。自分で言うのも何だけど、ボクらは二人とも容姿は整っている方だ。だから、街を歩くとかなり注目を集める。
「ねえ、見て見て! あの二人。何かすごいお似合いじゃない?!」
「ホントだ! いいなぁ~あたしもあんな彼氏がいたらな……」
「リア充爆発リア充爆発リア充爆発リア充爆発リア充爆発――」
まあそういう風に見られるよね。
文野サンもこれで恥じらうくらいなら良かったのになぁ……
「私がこれと付き合ってるとか……最高の侮辱ですね。あの人たち殴ってきていいですか? 至極不愉快です」
こんなだもんね。あと『これ』呼ばわりは止めてもらえませんかね……
「ちょ、ダメだからね? あの人たちも悪意があるわけじゃないんだから」
「分かっています。冗談です」
「はあ。よかった……」
文野サンならやりかねないからなぁ……
それにしても良かった。冗談が言えるくらい心を許してくれてるってことだよね。この調子で仲良くなるぞー。
「あ、不愉快極まりないのは本当ですので。」
………。……好感度、上がってるんだよね?
そうこうしてるうちに『アルマティス』とかいう武器屋に着いた。外装はかなり派手で建物自体も大きい。看板には『豊富な品揃えと手頃なお値段!!』とか書いてある。あんまりお金も持ってないし、ここでいいかな。ホントは身を守るものだから妥協はしない方が良いんだけどね。今以上の装備を整えるには圧倒的にお金が足りない。
店内に入ると、言い争うような声と野次馬が見えた。人だかりのせいでよくは見えないけど、近づくと声がはっきりと聞こえてくる。
クレーマーかな?どこの世界にもいるものだね。
「この剣が50000G? おたくふざけてんの? どこからどう見てもただの鉄剣じゃん。精々5000Gが良いとこでしょ」
「ですから、その剣には精霊の加護が付与されていまして……」
「精霊の加護? じゃあ何か? この剣が魔剣だとでも?
おいおい、冗談はやめてくれよ。魔剣ってのは『スキル無しで魔術を撃ち出せる剣』のことを言うんだぜ?この剣がそうだとは到底思えないがなぁ~」
「いえ、精霊の加護と一口に言いましてもその効果は様々でしてね。この剣は火の精霊の力により火属性の攻撃を無効化できるのです。あまりに強力なものは流石に無理ですがね。初級魔術程度なら問題なく無効化できます」
「へえ、人が撃った魔法も?」
「もちろんでございます」
「じゃあ試させてもらおうか。今、この場でね」
人混みの中心にいる人物はそう言うと、掌を剣に翳して唱えた。
「火の御力よ、今ここに顕現し之を焼き討て。“小火”」
詠唱が終わった途端、勢いを持った火が飛び出した。下級魔法にしてはやけに威力の高いその火は、鉄製らしい剣をいとも簡単に燃やしてしまった。
つまるところ、店主は詐欺行為をしていたのだ。大方、こんな有名でも何でもない武器屋に、詐欺行為を見破れるだけの実力を持った人間がやって来るはずはない、とたかをくくっていたんだろうね。あるいは、剣士が魔法の知識を蓄えているとは思わなかったのかな。
まあなんにせよ、相手が悪かったね。
下級魔術で剣を燃やすという信じがたい光景を見た店主は絶句していたが、何が起きたか理解すると一目散に入り口へ逃げだした。つまり、ボクらのいる方へ。
「ジャマだ! どけぇぇぇええ!!」
「こちらの台詞ですが」
文野サンはそう言うと、ヤンキーに勝るとも劣らない腹パンを繰りだした。STR100超えに殴られた一般人が無事でいられるわけもなく、店主は敢え無く気絶した。
あーあ。またやっちゃった。さっき注意されたばっかなのに……これはもう彼に責任を取ってもらうしかないかな。
「おーい、あんたら大丈b……げっ」
「再会していきなり「げっ」はないんじゃない?」
そう。店主を追い詰めていたその人は……
「ねえ、月夜クン?」
Vocablary
・魔剣
魔法を撃ち出すことができる剣、とされているが、稀に魔法でない能力を持つものも存在する。
1振りの剣には1つの能力しか付与できない。魔法を撃つ剣の場合、剣に魔力を溜め込むわけではなく、持ち主の魔力を用いて魔法を発動する。
剣である必用はなく、魔槍、魔斧、魔鎚など様々な武器が存在する。
人工的に魔剣をつくる技術はエルフのみが有している。
Spell
・“小火”
本来はチャッカマンほどの大きさの火を出す呪文。
月夜は込める魔力を多くし、その広がりを工夫したため、鉄剣を燃やせるだけの出力を持つ呪文になった。
通常、呪文に対して送る魔力が多すぎると暴発し、術者の命に関わる。この現象は魔力暴発と呼ばれる。




