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僕(女)、脱・ボスキャラを宣言します!  作者: 氷翠
第二章 十歳。就職三年目の受難。
27/34

27.現在、移動中でございます。

 ソフィアさんと別れた後、図書室で色々探してみたけど、結局それっぽいのは見当たらなかった。その代り新聞がストックされていたから、幾つか記事を見て纏めてみた。出てきますねぇ、色々と。大量殺人とか黒ミサとか。でも、ゲーム中で行われていたこととそう変わらない。目的は一緒でも手段が違う感じではあるけど。ゲーム中の方が巧妙かな。複数の偽情報流したり、ダミーと本番を二か所同時にやったりとかで。


 まあ、それは良いんだ。そういう事件があったら警戒すれば良い、ってことで。ただ、今発生している問題はそれじゃない。


「大丈夫か、セス。顔色が良くないぞ。水でも持って来させるか?」

「……いいえ。大丈夫ですわ、フェ……「アーノルド」様。お気遣いなさらず」


 フェル様の気遣いに感謝しながらも、僕はぎこちなく笑いながらお断りさせてもらう。いや、本当はお尻が痛いから立ったりしたいところなんだけどね……。座席自体は現代の電車の椅子より座り心地が良いぐらいで、流石は上流貴族御用達の一等車両だけある。座ってる時間が異常なだけ。


 現在、双児宮の月四日。黒蛇旅団の起こした騒動の数々を調べた日から、二か月は経ってるのかな。すっかり日常になった御学友生活の中で、オフィーリア様がやらかしてくださったことを切っ掛けとして、僕はマナの聖殿に出立するフェル様の付き添いをすることになりました。

 即ち、


『心して聞くが良い、神官セス! 君は豊穣の祈願へ赴くフェリクスに従者として着いて行くのだ! 安心すると良い、神官長達には了承をもらっているからな』


 とか言う鶴の一言によって。流石は先代皇帝代理、凄まじい影響力を有してらっしゃる。深い考えがあってのことだ、と思っておこう。

 実際、悪いことではない。豊穣の祈願に関しては、宮廷神官ならば必ず一度は携わらなければならないもの。いつかの通り、僕は一度も赴いたことがない。もちろん、祭祀自体は聖殿側の巫女達が主導になって行われるものだから、僕自身はあまり大した手伝いは出来ないだろうし、きっと望まれてもいない。社会勉強、として今は割り切ろう。


 そういうわけで、僕は今、フェル様と護衛の師匠、クリスさんと共に汽車に乗り込んで揺られている。当然のように個室車両。寝台も食卓も完備の贅沢設計。快適、快適。ゲームでも確かに、移動手段は汽車中心だった。ファンタジーモノのRPGとしては珍しいけれど、現実であるここでは当然らしく、戸惑う人なんか一人もいません。あ、いや、汽車自体はほんの十年ほど前らしいんだけどね、定着したの。


「クリス。グラスゴーには何時着くんだ?」

「本日の夕方五時になります。今は四時半ですから、もう直ぐです」

「アクシデントがなけりゃ、な」


 例えばマナ切れとか、ハイジャックとか? あ、フラグじゃないから、これ。

 皇都からマナの聖殿へのルートは、まず汽車(もちろん、動力源は人工術式)に乗って、マナの聖殿に最も近い宿場町グラスゴーへ。そこで馬車を調達し、山道をせっせと乗り越えて到着。こう書き出すと楽そうだ(ただ、汽車の中で一泊、宿場町で一泊。合計三日掛かるぐらいには遠い)。魔物の心配はないのかな、って最初思ったけど、クリスさん曰く「魔物は深い森林や山岳地帯、もしくは未探索の洞穴にしか生息していません。鉄道はそういった地帯を避けて通しているから大丈夫」らしい。確かに、外の景色を見ていると、丘陵地の大部分は農場や牧場になってるから、既に対策済みなんだろう。あ、ゲームの不満点に「フィールド移動がない」ってのがあったけな、そういえば……。

 

 それにしても、後三十分か。何しようかな。


「そういや、フェリクス。さっきから何を読んでんだ?」


 流石は師匠。今は皇帝陛下の影武者を遂行中のフェル様の本名を、一切の躊躇いなく呼び捨て。せめて敬称は付けてくださいよ。

 そんなぶしつけな質問に、フェル様は少し視線を上げて、


「暁の乙女伝説」


 それだけ言うと、また文面に視線を戻す。ふーん、ちょっと意外。この三か月で、彼が読書好きなのは分かったんだけど、そういうのも読むんだ。


 暁の乙女伝説。アルケイディア全土で最も有名なおとぎ話だ。内容は……英雄伝、っていうの? 約千年前、世界中に魔物の大群が押し寄せ、人類滅亡の危機が訪れた時。何処からともなく颯爽と現れ、数人の仲間と共に世界を駆けずり回り、人類を一つに纏め、自身は先頭に立って勝利を呼び寄せたという救世主、「暁の乙女」の活躍を伝えたもの。

 このお話はゲーム中でも割と関わってくる。特に主人公。なんせ、主人公の長い旅のきっかけは、これにあるといっても過言ではないぐらい。と言うのも。


「ああ……そういや、「暁の乙女の生まれ変わりだ」とか何とか言われてるヤツが、お貴族様の中にいるらしーな。戻ったら一回探してみるか?」

「その手の噂を鵜呑みにすると、肩透かしを受けますよ」

「良いじゃねぇか、別に。夢見るぐらいだったら許されんよ。なぁ、我が愛弟子よ」

「そ、……そう、ですねぇ……」


 うん、まあ。伝説の真実も生まれ変わり云々も大体把握してますよ。ゲーム中でも資料集でもバッチリ解説されますから……。ん、答えを求めるのに心の中覗こうとするのは止めてくれませんかねぇ。バッチリ感じてますよ、師匠の音魔術。させませんから! バリアー!


 僕たちがそんな風に話している間に、次の駅が近付いて来ている合図のベルが聞こえてきた。あー、師匠になんか構ってられません、僕は下車準備をさせてもらいます。

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