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僕(女)、脱・ボスキャラを宣言します!  作者: 氷翠
第二章 十歳。就職三年目の受難。
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24.先代皇帝代理様がログインしました。

 話をしている間に教師の方がやって来て、早速授業が始まった。ジョルジュ様からはジャンルばらばら、万遍なく教えてもらってたけど、こっちでは一科目につき一人、専任の方が来てくれるとのことで。ハイレベル。思ってたより数学の解明が進んでるんだね、この世界。まだ二次方程式とかで留まってた点では幸いしたけど。


「十二になったら、アーニーは社会勉強として学舎に入ることになっている。合わせるなら更にレベルが上がるだろうな」

「は、はあ……」


 涼しい顔で言いなさる。僕文系です、数学キツイ。物理とかもしんどい。だが見込まれている以上、努力を絶やしてはならない。幸い、コツさえつかめば何とかなるジャンルだ。


 そんなこんなで午前中は何とか乗り切って、現在昼食タイム。クリスさんは当然のようにアーノルド様の方に着いているため、給仕は別のメイドさんがやってくれるらしい。確か、先代皇帝代理、オフィーリア様付きの人の内の一人だとか。どんな人なんだろう。そういえば、カリンは元気かな。手紙は定期的に届いているんだけど、お兄様のお世話が大変だとか何とか、ロレッタちゃんに手紙を出せなくて寂しいとか。元気にはしてるみたいだ。


「そういえば、オフィーリア様はどのような方なのですか?」

「ああ……。何と言うか……何を考えているのか、掴めない。趣味人というか」

「ほう。君は私をそう見ていたのか」


 ……はい?


「さあ、昼食を持って来てやったぞ。存分に食うが良い」


 えーっと。


「……伯母上。何をしていらっしゃるのですか」


 伯母上、ってことは、確か……先代皇帝代理、オフィーリア様? え、いや、だって。白い帽子に黒地のエプロンドレス。給仕用のワゴンとそこにモリモリ乗せられたローストビーフに葉野菜のサラダ、信頼と安心のライスプディング。どっからどう見ても三十代半ばのメイドさんです。てか、どっから入って来たんですか? 扉の開いた音どころか、足音一つ有りませんでしたよ?


「ふふん。表だって君に会いに行くわけにはいかないからな。変装した上で転移魔術を使ったのだ。どうだ、中々のものだろう?」

「好きにしてください」


 転移魔術って、何気にかなり高度な魔術なんだけどなぁ。風魔術をベースに、土魔術をあれやこれやと組み込んだ複合属性魔術らしいんだけど、マナ配分がとんでもなく難しいそうで。こんなところに使い手がいたとは。

 オフィーリア様は淡い菫色の緩い巻き毛を軽く掻き上げると、妙に手慣れた様子で食卓を整えていく。ちょくちょくメイドさんに扮してるみたいだな。それで良いのか皇族。


「そちらがフェリクスの友人予定の神官か?」

「は、はい。セス・カタリナ・ジェラードと申します」

「ほほう。前魔術相副官の娘か。余り似ていないな」

「母に似た、とはよく言われます」

「良きことじゃないか。君の母君も結構な人材だしね。いやはや、君のお兄さんもそうだが、ジェラード家には面白いヒトがたくさん集まるのだな」


 うちのお兄様も把握済みですか。まさか、この人も僕の正体を把握してるわけじゃないよね?


「ああ、名乗り遅れたな。私はオフィーリアと言うもの。ほんの五年前までは皇帝の繋ぎ役をさせてもらっていた。今は隠居して悠悠自適に過ごさせてもらっている」

「いささか自由にし過ぎだと思うんですがね」

「豪遊はしていないぞ。日々慎ましく、政治にも口を挟まず。時折君たちにアドバイスをしているだけじゃないか。いやはや、三十代も半ばを過ぎると心配性になってきて困ってしまうよ」


 そう言いながら、彼女はやっぱり手慣れた様子で配膳していく。聞けば、本当に結構な頻度でメイドさんの中に紛れ込んでいるそうだ。「趣味の一環だ、あまり気にしないでくれたまえ」と言いなさる。無理、と言いたいところだけど、何だか意見しにくい雰囲気……。


「ところで、フェリクス。そろそろマナの聖殿で豊穣の祈願を執り行う頃だろう? アーノルドが行くのかい?」

「……いいえ。神官長が診たところ、それまでに遠出を行えるほど復調するのは難しいとのことです」

「そうか。ならば、今年は君が赴くことになるのだな」


 豊穣の祈願かあ。ヘーメレー皇国の主産業は農業だから、結構どころでなく重要視されている神事。ただし、祈願対象はエオス神ではなく、豊穣を司る土の聖霊。だから、正しくは祭祀か。

 マナの聖殿は、土の聖霊が存在している、と伝えられている巨大な水晶柱を祀るために建造された神殿的代物。見た目や構造はギリシャのパンテオンさん。ゲームでも、ヘーメレー皇国中で一、二を争う重要施設としてちょくちょく訪れることになっていた。ただ、土の聖霊とやらはそこまで重要視されてなかったけど……。

 とにかく、皇国では、日本で言う六月一日に当たる双児宮の月十二日に、皇帝陛下がマナの聖殿にて一年の豊作を祈ることになっているのだ。宮廷神官も二人ほど着いて行くことになっているらしい。あ、僕は一回も行ってません。


「ふむ。同行者は決まっているのか?」

「まだですね」

「ほっほう。ならば……」


 ……何だろう、嫌な予感。オフィーリア様が僕を見ながらうんうん頷いていらっしゃる。フラグ建設中? だったらまた一つ、覚悟を決めた方が良さそう、かな……。

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