22.出会いは再会だった。
さて。七時の鐘が盛大に鳴り響いている。僕は神殿の扉の前で、アウグスティス様と共に案内人の到着を待っていた。中央宮殿内で講義を受ける、というわけで僕は正装、勉強道具を詰めた革のトランクを持って準備は万端。さて、誰が来るんだろう。
期待している間に、三つの姿が見えて来た。全員男の人、かな。二人は鎧の形状からして、近衛騎士。残りの一人は――
「よお。久しぶりじゃねぇか、我が弟子よ」
え。
「……し、師匠?」
「おう。――宮廷魔術師ルーク・フォン・クロード、ただ今お迎えに上がりました」
マジか。いや、そりゃそうか。皇帝陛下の側にいる時点で。
師匠はやたらと優雅に礼をこなし、僕に着いて来るよう指示を出してきた。僕はそれに従い着いて行くことにする。アウグスティス様もだ。ただ、彼女が一緒に来てくれるのは今日だけとの事。紹介役、ってところかな。
「にしても、随分立派な立場になったじゃねぇか。めでたくエリートの道、ってか」
「からかわないでください。これでも、私なりに考えがあるのです」
「ふっふーん。ま、精々頑張りな」
師匠と軽口を叩き合っている間にも、僕たちの一行は中央宮殿に入殿する。何気に初めてかも。
僕たちが向かっているのは、どうやら皇族の居館らしい。構造としては、円状に見張り塔や回廊、中心部に謁見の間や政治機構がまとまって配置されている。僕たちが向かう夜明けの間は、皇族が宮廷内の人物と政治的な目的以外で接触する際に使用されるそうだ。
結構な螺旋階段を昇って、夜明けの間と廊下を隔てる重厚かつ威圧感溢れる樫の扉の前までたどり着く。おお、これは凄い。神殿や西宮殿もなかなかだったけど、ここはレベルが違う。装飾とかの。
「人払いは?」
「済んでおります」
「よし。それじゃあ、開けてくれ」
「かしこまりました」
……師匠、ホントとんでもな立場にいるんだな。もしかして、この人に教えられてたのって、僕が考えているよりも凄いこと?
僕がそう思っている間にも、扉がゆっくりと開かれていく。想像よりは狭いけど、神殿の大広間に匹敵する大きさだ。両方の壁際には等間隔に甲冑が並んでいる。総じて八体。床に敷かれているのは落ち着いた暗紅色を地に、金糸で様々な文様が縫い込まれた絨毯。そして、正面には玉座を彷彿させる豪奢な椅子に座る一人の少年と、その右側に立つ白銀のプレートメイルをピシリと着こなす女性騎士が一人。
確か、あの女の人はゲームにも出て来た。クリスティーンという名前のはず。国内外からの呼称は「白閃」。ヘーメレー皇国一大戦力である近衛騎士団の副団長であると同時に、皇帝陛下直属のメイドで護衛というハイスペックかつ、見目も麗しい。出自も五大家の一つ、ハイアット家という非の打ちどころのなさ。そんなこんなで国内人気も高いという、正真正銘のチート人物。この人のサブシナリオはそこそこ面白かった様な気がするんだけど、どんな内容だったっけ……?
そんでもって、少年の方は一目瞭然。あのおかっぱ頭に紅い瞳、どことなく不遜に上がった口角と逆ハの字眉。フェルだ。おーい、アーノルドはー?
「おい、連れて来たぞ」
「ご苦労、ルーク」
ちょっと師匠、フランク過ぎない!? せめて形だけでも敬語の方が良いんじゃ……いや、師匠の敬語って全然想像出来ないけど。
案の定、クリスさんの眉がピクリと動いた。背後のアウグスティス様からもなんか、変なオーラを感じる。全く気にしていないのは当の本人と、そして答えるフェル。ホント良いの、それで?
とにかく、相手は皇帝陛下。僕は臣下の礼を行う。手を組みながら跪いて、一礼。
「ああ、別に構わないんだが……そういう訳にもいかないか」
ええ、こっちからすれば、それをしないのは非礼もいいとこなんで。それに、貴方のお隣の騎士様が、その、怖いんで。視線が……。
「とりあえず、二人とも面を上げろ」
その声に従って、僕とアウグスティス様は頭を上げる。いつの間にやらフェルが近付いてきていた。三年前に見たあのローブではなく、濃い藍色のサーコートに白いダブレット、同じ色のズボンと、まあだいぶ雰囲気が違うスマートな衣服に身を包んだ彼は堂々と言う。
「神官長」
「はい。神官セスであれば、陛下の兄君である貴方様と共に学ぶに、相応しいかと」
……兄君?
ちょっと理解した。フェルはお兄様と同じ、「ゲームには存在しない人」か。アーノルドの兄弟なんてゲーム中でも資料集の中でも言及されていなかったから。明確に「一人っ子」と言われていた。なるほど、皇兄ね。
「紹介しますわ、神官セス。この御方は……」
「フェリクス。現皇帝アーノルド・エヴァン・イヴェット・ヘーメレーの兄だ。これから世話になる、セス・カタリナ・ジェラード神官」
「こ……こちらこそ、恐縮です」
現皇帝の実の兄と御学友って。<僕>だった頃じゃ考えられない。て言うか名乗らせて下さい、フェル……は流石にもう、マズいか。フェリクス様。先に言わないでください、そういうの気になるから。
「フェリクス様は、皇帝陛下の影武者もなされております。故に、その存在は公表しておりません。貴女は建前では先代皇帝代理、オフィーリア・ミッシェル・アイテール様と学び合うことになっております。よろしいですか?」
「承知いたしました、アウグスティス様」
さりげなく爆弾投下されたぞ、おい。こりゃますます気が抜けない。




