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僕(女)、脱・ボスキャラを宣言します!  作者: 氷翠
第二章 十歳。就職三年目の受難。
21/34

21.そして足音が聞こえてきた。

 ジョルジュ様はお礼に、体魔術の研究を纏めた本を一冊下さった。ついでに講義もしようかと提案してくれたんだけど、そっちは断っておいた。本当は聞きたかったんだけど、もうすぐ夕食の時間だったからね。神殿では三食ともに自室でとらなきゃいけない。調理室はあっても食堂はないし。年四回、四大属性の象徴とされる聖霊を祭る日には大広間に集まって、皇帝陛下もお招きした会食なら開くけど。僕は当然端っこです。……期待、してるんだよね? まあ、何だかんだ言っても一番新参者だからだろうけど……。

 ちなみに、アーノルドだかフェルだかには未だに会話もさせてもらってない。早く確かめたいんだけどなぁ。そういや、この三年間師匠にも会えていない。師匠、あの日「野暮用で王都を離れる」とか言ってたくせに、拝命式の時にはあんなとこにいてた。多分、実技試験の時もあの男女一組の片割れとして見てたんだろう。師匠、何者? ゲームみたいにただの隠居魔術師じゃないでしょ、てのは分かるけどさ。

 何だかんだ、色々と僕は知らないことが多い。主に、ゲームでは描写されてなかった部分。その辺りをちゃんと拾っておきたい、んだけどなぁ……。どうも接触の機会がない。代わりに――


「失礼いたします、セス様。神官長がお呼びしております」

「承知いたしました。ご案内、お願いします」


 これだよ。ここ一年、アウグスティス様が月一ぐらいの間隔で呼びつけてくる。理由はもう分かってる。逆を言えば、そういうことだよ。本当、僕、アホの子化してたんだな。

 だから僕は大人しく、アウグスティス様付きの騎士さんの後ろに着いて行く。あ、着替え損ねた。ちゃんとスーツ相当の法衣ってのがあるんだけど。せっかく一人でも着れるようになったんだから。屋敷にいてた頃? お察しください。


 宮廷神官の居住スペースは、神殿の二階にある。一階部には大広間や中庭、集会場に礼拝堂。地下部には調理室に図書保存室がズラリ。アウグスティス様がいる執務室は二階にあるんだけど、僕に与えられた部屋とは真反対の位置にある。西宮殿も中央宮殿もだけど、この神殿もそこそこ大きい。もうね、皇宮自体のスペースが尋常じゃない。流石一大陸の五分の四を治める大国。


「到着しました。どうぞ」

「ありがとう。――失礼します。神官長、よろしいでしょうか」


 ここまで無表情で案内してくれた騎士さんに会釈してから、目の前の扉を二回ノックする。「お入りなさい」と聞こえた、ような気がするのでさっさと入室させていただいた。

 もう見慣れた執務室の壁には、何枚かの肖像画と本棚。それと、ステンドグラス。正面には、今はアウグスティス様が使用している執政卓。


「来ましたか、神官セス」

「はい」

「ふふ……。先月呼び立てた時とは、表情が変わりましたね?」

「そうでしょうか」

「ええ。今の貴女になら、十分出来ますわ」


 ジョルジュ様に教授させるだけじゃ足りない、ってことか。確かに、一人で教えられることには限度がある。それに確か、ジョルジュ様は神殿全域に作用する人工術式の管理っていう大仕事を抱えていたはず。あんまり僕にばかり目を向けさせるわけにもいかないだろうしね……。


「それでは、早速ですが。貴女に、使命を下します」

「何なりと」


 何だって来い。最早、行く末が皇帝陛下の右腕とか、そういう自分には過ぎているように思えるモノでも構わない。怪宗教の狂信者なんかより数万倍受け入れられる。


「貴女には明日、会ってもらいたい御方がいます。その御方と一緒に、より一層勉学に励んでもらいますわ。よろしくて?」


 否定は許さん、そんな雰囲気。ええ、そんなつもりは微塵もありません。


「かしこまりました、アウグスティス様」


 僕が一つも不満を言わず、あっけなく了承の言葉を出したことに少しばかり彼女は驚いたようだ。だけど、それを眉一筋、それも一瞬動かしただけで穏やかな微笑は全く変わらない。

 

「よくぞ言ってくれました。それでは明日は五時起床。六時には中央宮殿の夜明けの間へ向かいます。朝食以降は中央宮殿で過ごし、夕食後は神殿へ戻って夜の祈りに参加してもらいます」

「……しょ、承知しました」


 つまり、中央宮殿と神殿の往復生活が始まるのか。それにしても、「会ってもらいたい御方」って誰だろう。五大家……っていう口ぶりではない、かな。それなら皇族の誰かか。確か、皇族直系は色々と計算尽く(主に五大家)の婚姻を繰り返してきた結果、血が濃くなって生殖能力は落ちてしまったらしい。実際、現皇帝アーノルド・エヴァン・イヴェット・ヘーメレーが誕生するまで宮廷はやきもきしていたとか。それに対して傍系側はもう少し取り入れる血の幅を増やしたことで、三家存続していたはず。その内の誰かかな?

 どうも、僕は「御学友」ポジションも求められているみたいだな。行く末には本当に皇帝陛下の右腕? 宮廷神官は直属の部下だから、十分狙えるのが何とも言えない。それを僕に望まれている、というのも。


 だけど、僕はもう決意したんだ。転生四年目、就職三年目、十歳にして未来が決められつつあるとか、どうでも良い。例え示された道筋でも、知らずに乗ってしまうよりも自分でそれを選び取った、ってことの方が、ずっと大切だ。僕にとっては。


「神官セス。私たちは貴女が大成し、全ての神官たちの先頭となる存在へ育つことを願っています。ゆめゆめ、そのことを忘れないよう」


 なんか、随分念押ししてくるな。やっぱアホの子になってたからか……。すいません皆様、及びセス。この不肖は必ず治して来ます。

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