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僕(女)、脱・ボスキャラを宣言します!  作者: 氷翠
第一章 七歳。転生ほやほや一年目。
15/34

15.束の間、平穏な日々を過ごせました。

 試験が終わって、ちょうど二週間たった。いやあ大変だった。たかだか三日離れてただけなのにお兄様が号泣しながら迎え入れたり、ベッタベタ触ってきたり。本当は毎日手紙を出したくて仕方なかったらしい。ああ、自分よりもお兄様の将来の方がよっぽど不安だわー。ていうか色々残念。見た目だけなら将来有望なのに、こんなんでお嫁さん貰えるのかな。

 それだけじゃない。お母様が「初心者向き」とかいう薬草の種を幾つか買ってきてくれていたから、部屋で育て始めたり、とか。これが促成とかいうレベルじゃないスピードで育ってて、もう花が咲いてるんだよね。その辺の雑草もビックリなこの薬草、ヨモギスミレは葉っぱが止血剤代わりになる便利な代物。その特徴は水さえやっとけばモリモリ育つ手間のかからなさと、知らない間にどんどん増殖していく生命力の強さ。……放っといたらダメってことですね。まあ今のところ鉢植えで済んでるけどさ。

 それから、カリンがお母様の許可を得て、ロレッタちゃんとの文通を始めた。エルドレッド家に怪しまれるとマズイから、僕の名前で出して、受取人はソフィアさん。ソフィアさんの番が終わった後、四人で話し合って決めたんだ。僕自身も、ソフィアさんと三回ぐらい手紙のやり取りをしている。どうも、エルドレッド家の当主、つまり彼女たちの父君は、僕の魔術を高く評価していたらしい。覚え目出度くとかなってたらどうしよう、そういうのはお望みじゃないんだよね。


 僕は日記に今までのことを書き入れる。日記は貴族のたしなみ、途中で変にぶつ切りになっているのを見られて怪しまれるのも嫌だし。ただ、字の違いだけはどうしようもなかった。セス嬢ってば、随分達筆。

 扉をたたく音が聞こえたのは、羽ペンの先から少し垂れてしまったインクを吸い取るための紙を、引き出しから取り出した時だった。


「入って」

「失礼します」


 結構な重さがあるはずの扉を開ける音も立てずに入って来たカリンが、恭しく銀の盆を捧げている。その上に乗っているのは一通の手紙。わーお、羊皮紙じゃないか。


「セス様に、宮廷からの手紙が届いております。どうぞ」


 やっぱり。見たくない。だってこれ、現代で言えば採用、もしくは非採用通知だよ? うう、嫌だ。


「ありがとう、カリン」


 あー、受け取っちゃった。カリンが興味津々で見てる。軽い公開処刑だ。仕方ない、読むか。

 閉じている紐を解く。やたら豪華な装丁のそれには、大変流麗な文字がビッシリ、と言うほどでもないけど、結構な密度で書き込まれていた。何々。


「えーっと……選定が終了したので、二日後に西宮殿に……?」


 おお、来ちゃった。皇帝陛下直々に拝命されるんだったよね、確か。気が重い。


「どうだったんですか?」

「まだ。西宮殿で拝命らしいわ」

「じゃあ、セス様……!」

「そうね、合格したみたい」


 まあ、流石に落とした人をまた宮殿に呼びつけることは、しない、よね……?


「そういえば、ソフィアさんはどうなったのかしら」


 彼女はあまり、自分のことを他人に伝えたくはないタイプみたいだ。手紙には基本、僕の印象とか当たり障りのない近況が書かれていただけ。傍から見たらメイド以外の何者でもなかったロレッタちゃんが、自分の姉妹であることを教えてくれたから、ほとんど初対面に等しい僕のことを信用してくれているのは確かだと思うんだけど。ただの自惚れかな。


「どうなんでしょうねー。ロレッタからも、ソフィア様のことはほとんど聞きませんし……、あ」

「どうしたの」

「ロレッタから一つ、頼まれごとがありまして。試験の時にセス様が使っていた人形が欲しいんだそうです。一体だけで良いから、ってあったんですけど」

「ああ……」


 あの時の人形か。針仕事の得意なカリンが一個一個丁寧に作ってくれたやつだけど、ずっと家に置いておくのもなんだから孤児院に寄付でもしよっかな、って考えてた。欲しいって言ってくれてる子にあげるのは構わないや。

 僕はコクリと頷いた。期待通りの反応だったのか、カリンが満足気に手を合わせる。


「ありがとうございます! さって、どれにしよっかな~」

「ラッピングもしてあげたら? きっと喜ぶわ」

「良いですね、それ。袋と箱、どっちが良いだろ」


 あらら、すっかりご機嫌になってるよ。本当にロレッタちゃんがお気に入りなんだな……ん、まさか、カリンって、そういう趣味? そんなことないよね、めくるめく百合の世界とかじゃないよね?

 とっても楽しそうな彼女を見ていると、そんな不安も湧き起こる。けど同時に、何となくうらやましくもあった。妹が出来た、みたいな気分なんだろうなぁ。今の僕が、その「妹」、って立場だけど。可愛がられるより可愛がりたいよ、僕も。お兄様は……ちょっと、どころじゃなく行き過ぎてるんで。


「あ、どうせならセス様、リボンの色決めてくださいよ」

「私が?」

「はい! 私は袋と人形を決めるんで。お願いしますね」


 言うだけ言って、カリンは部屋を出て行った。やれやれ、仕方ない。今日中に決めちゃうか、明日は色んな準備でてんてこ舞いになっちゃうだろうから。

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