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僕(女)、脱・ボスキャラを宣言します!  作者: 氷翠
第一章 七歳。転生ほやほや一年目。
13/34

13.試験とかの大トリはダークホース率高し。

「そこまで!」


 鋭く告げられた終わりの合図に、僕は人形たちに袋の中へ戻るよう手招きで誘導し、彼らが全員入り込んだところで魔術を解除する。いそいそとお兄様に仕込まれた手順で遠い貴賓席に礼をして、そそくさと控室に戻り――思わず床にへたり込んでしまった。

 そもそも、十分間休みなく魔術を行使し続ける、なんていうのは相当どころでない集中力と変換効率が求められる。体力も当然必要だ。五日間の内四日間は持久力を鍛えていた、というのが正しいかも。僕個人としては魔術の精度も高められて一石二鳥、って感覚でしかなかったけど、いざ本番になると、何か、違う。緊張してたから?


「セス様。お出迎えに来ましたよー」

「あ、来たのね……。ありが」


 僕の言葉は、光輝き過ぎていてかえって不気味でしかない笑顔のカリン、ではなく、その背後でオドオドと控える少女の姿によってせき止められた。あれ、この子。


「カリン、その子……?」

「昨日出来た生徒でっす。ねー」

「……えっ、と……そ、そうなってます」


 なんじゃそら。

 カリンが連れているのは、一昨日三つ編み美人さんに着いて来ていた女の子だった。多分、使用人にしか入れない作業場か何処かでバッタリ出くわしたんだろう。他家のメイド同士で仲良くなるのはさして珍しいことでもないし。ああでも、生徒って言うのはよく分かんない。


「あの……二日前にお会いした方、ですよね。ロレッタ・コニー、と申します。その……バセットさんには、お仕事のコツを、たくさん、教えてもらってます」

「あ、そうなの? 私はセス・カタリナ・ジェラード。カリンの主よ」


 正確には、雇い主の娘だけど。専属みたいなもんだし、これで良いよね。


「貴女の主人は、どなた?」

「それは……」


 口ごもっちゃった。使用人側から主の名をみだりに口にしてはならない、という教育を受けているんだろうか。それにしては、奇妙な違和感が漂ってるんだけど。何だろう、もどかしい、とかそんな感じ。

 僕が首を捻ろうとしたその時、控室から廊下に繋がる扉がゆっくりと開かれた。僕を案内した人とは違う騎士に誘導されているのは……あ、三つ編み美人さんだ。確か、あの人で最後だったかな。


「あら、そこにいたのね、ロレッタ」

「あ……す、すみませんっ!」


 おっとりと微笑む美人さんは、別に怒っているようには感じられない。そう見えるだけなのか、本当に怒っていないのかは残念ながら、人生経験の浅い僕には分からなかった。

 ただ分かるのは、その微笑みには、明確な困惑が滲んでいるということだけだ。


「良いのよ。ただ、貴女がこんな処にいるとは思わなかったから」


 ……普通の主人なら、メイドが無断で何処か目の届かないところに行ったら叱り付けるものだ。この子、もしかして、メイドでも何でもないのか? その割には、身に着けてるのはごわごわとしたプリント地のエプロンドレス。帽子もリボンも真っ白で、大して良い生地は使われていない。少なくとも、普遍的な貴族はこんな恰好をしない。さっき黙ってしまったことと言い、言えない事情があるんだろうか。

 

 まあ、そんな僕の疑問は、美人さんのあいさつによってすっ飛んでしまったのだけれど。


「すみません、この子が迷惑をおかけして。私は、ソフィア・ニコール・エルドレッドと申します。セス・カタリナ・ジェラードさん」

「え……」


 何で名前知ってんの!? お父様、もしくはお兄様? いやいや、容姿まではきっと出回ってないはず、写真とかの技術はあるっぽいけど……。それに、「エルドレッド」と言ったら五大家筆頭の超名門、<僕>は当然のこと、ジェラード家にとっても雲の上の存在だよ? ホント、どうなってんだ世の中。

 どうも、パニック状態に陥ってるのは僕だけじゃないみたい。さっきまでニコニコしてたカリンが栗色の目を大きく見開いている。顔面蒼白。僕も似たようなもんだろう。ロレッタちゃんも怯えてるし。


「わ、私如きの名を存じてらっしゃるなんて……」

「御謙遜なさらないで。私の弟が、貴女の兄君と親しくさせてもらっているの。貴女のことは、弟からよく聞かされていましたわ。何でも、「希少な体属性に長けた、数十年に一度の天才魔術師」だとか……」


 お兄様ぁぁぁぁっ! どんな誇大広告ですかそれぇぇ! 確かにセスって天才設定あるけどさぁ、多分リアルにそこまで持ち上げる必要はないと思うよ! というかどんだけ妹自慢したいんですか、真正のシスコン怖いよぉ……。


「そ、そのような存在ではありませんわ! 私はただ、ジェラード家の名に恥じぬよう、努力を惜しまなかっただけですもの。お兄様ったら……」

「年長の者は、みんなそんなものですわ。私だって、弟たちが何か素晴らしい才を秘めていたら喜びますもの。特に、殿方はそのような傾向の方が多いのです。余りそう目くじらを立てなくても、よろしいと思いますわ」


 うーん。うちのお兄様に限ってはそうでもないような。

 どうも、ソフィアさんは典型的なおっとり系お嬢様っぽい。ただ、こういったタイプに油断をしてはいけない。だってこの人目元が笑ってないし……。ずっと、僕を観察してる。多分、カリンにピタリと着いているロレッタちゃんと関係してるんだろう。

 そうだ。僕は、この「ロレッタ」という名前に聞き覚えがある。ついでに、この子の顔立ちも引っかかるものがある。僕の予想が外れていないのなら、彼女は……


「受験番号十三番、ソフィア・ニコール・エルドレッド。前へ」

「あら。……それでは、試験が終わりましたら、また」

「は、はい」


 ん、「また」?

 僕が首を傾げる間も与えず、ソフィアさんはゆっくりと、しかし堂々と歩き出す。


「……少しの間、妹をお頼みしますわね」


 すれ違い様、耳元にさらりと、そんな起爆剤を置いて行って。

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