六話 遊び人の騎士
「うわ、すごーい!」
マール王国より領地の広いロセリア王国では、陽気な音楽が流れ、国の中央にある噴水広場では、路上ライブが開かれている。
リズムに乗って体を揺する人もいれば、踊る人もいる。
その中に紛れ、子供たちは、快晴の空に無数のシャボン玉を飛ばして楽しんでいる。
とても活気のある城下町だ。
「王の人柄が、こんな町を作ったのかな」
「そうかもしれないですね」
王族守衛隊の騎士でも、他国に出掛けることは今までなかったため、町人が笑顔に満ちたこの光景に、感動していた。アゼーレ超大国もまた、王の優しい人柄が国内の様々な町に出ており、例えば、国の資金を使って国民が自ら運動会を開いたりしていた。
アゼーレ超大国は広大な領地を持ちながらも、マール王国に近い場所で王城を築いたため、一日という短い日数で来れた。
ロセリア帝国の領地に入れば、道の途中に小さな規模の宿が点在していたので、利用した。だがそれまでは、宿はなかったため野宿せざるを得なかった。
そうすること五日かけて、やっと辿り着いたのだ。疲労が溜まっている一行は、早めに宿を探すことにした。
「今回も、先に四護神を探しましょう」
「だが、どうやって見つける?」
レイを探したときは、柚葉の勘で当たった。
ならば、今回も柚葉の勘に任せようと思ったとき、隣にいた柚葉がいなかった。
辺りを見回し、彼女の姿を探すルシト。
「柚葉なら、あそこだ」
レイが指した先には、出店で商品を物色している柚葉がいた。食糧が豊かなロセリア王国では、野菜から肉まで、何もかもが直送のため新鮮である。そのため、隣国のマール王国やセシール王国に住む人々は、労をかけてやって来たりする。
トマトを手に取り、品定めしている彼女に安心したのも束の間、柚葉の隣に長身でウルフショートの男がやって来た。
馴れ馴れしく肩に手をかけられた柚葉が、男に振り返る。
「行きましょう!」
ルシトより先に、レイが走り出した。
柚葉に向かって満面の笑みを浮かべる男は、レイによって引き離される。
「彼女に触れるな」
「なんじゃ、男がいたんか」
柚葉と男の間に割って入るレイとルシトに、一瞬拍子抜けするも、何を思ったのかにやけだした。
「大丈夫、私何もされてないから」
「そうそう、これからしようとしていたんじゃよ」
「貴様っ――」
ククク、と怪しい笑みを浮かべると、遠くにいる女性二人組がやって来た。ハイヒールにミニスカート、レース生地でできた露出の高い服装をまとった女性の目当ては、この男のようだ。
「ライヤ見っけ! 一緒に遊びましょ」
ライヤと呼ばれる男の腕を取り、「行こう」と引っ張っている。
「わかったぜよ。それじゃあ、またの」
「失せろ」
レイはキッと睨み付けるも、手をひらひらと振り、女性たちと共に町の人混みに消えていった。
「随分手慣れた遊び人ですね」
「そうだね」
怒りを覚えつつも、レイは、彼が見覚えのある顔に似ていると考えていた。
だが、誰なのかは思い出せない。
眉間にシワを寄せるレイに「どうしたの?」と心配する柚葉。
「いや、何でもない。四護神を探そう」
「そうですね。柚葉、何か感じますか?」
前回は目についたものを口にしただけだったが、それが偶然にも当たってしまったのだ。
ルシトはきっと、戦神子にしか四護神の気配がわからないと思っているが、そんなものは柚葉もわからなかった。というか、そもそも四護神の気配なんて、隣にいるルシトやレイにさえ感じないのだ。
だが、黙っているわけにもいかず、とりあえず思いついたことを言ってみることにした。
「ライヤが、気になる」
二人は思わず口を開けた。
気になるというのは、恋愛感情などではなく、ただ単に気になったのだ。
「……そうですか」
ルシトは腕を組み、悩み始める。だが、思考は八百屋の店主によって強制に停止された。
「店の前で止めてくれないか、他の客の迷惑だ」
「あ、すみませんでした」
柚葉が謝ると、レイとルシトも頭を下げる。それもそうだと、宿屋に場所を移すことにした。八百屋から歩いて十五分の場所にある宿は、城から徒歩一分圏内にあるので、三人には好都合だった。
二つの部屋をとり、金はルシトが払う。
早速、男子部屋でミーティングが始まった。
「本当に、あの男なのか」
「た、たぶんだけどね」
「遊び歩いていそうですね。ここは二手に別れて探しますか」
ルシトの案以外に良さそうな案はなく、レイが賛成したとき、柚葉がストップをかけた。
「待って、私が一人で歩くよ」
「馬鹿なことを言うな」
「ダメですよ。またあの男に――」
言いかけて、二人は気づいた。
柚葉が一人でいれば、さっきのように話しかけてくるかもしれない。
効率が良いのかはわからないが、この方がライヤを捕まえやすいと思った。
だが、レイはそれでも反対した。
「だが、柚葉を一人にすることはできない」
「……柚葉、お願いします」
「ルシト、何言って」
「危険な目には絶対に合わせません。俺は四護神の名に懸けて、誓います」
覚悟を決めたように、ルシトは柚葉を見つめた。 その真剣な眼差しに、なぜか胸が高鳴るが、それを気づかれないように「よろしくね」とだけ言った。
「……わかった、俺も誓う。柚葉を守る、絶対に」
「ありがとう」
平然を装いながらも、イケメン二人に「守る」と言われ、思わずにやけてしまいそうになる。櫂人が好きな気持ちは確かにあるのに、どうして、ときめいてしまうのだろう。けれどやはり、恋愛感情にはならないだろうと、柚葉は思った。
彼を思う気持ちがある限り、絶対にないと。
初スマホで投稿!
今回は短くなってしまい、すみません( ̄▽ ̄;)
そして段落の部分空いてなかったりして、読みにくいかもですが、家に帰ったらすぐに修正しますので、よろしくお願いします。