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戦神子と六人の彼  作者: 火渡ユウ
一章 四護神《ガーディアン》集めの旅
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七話 逢瀬の時

 早速宿を出ると、柚葉は人通りの多い噴水広場へと向かった。距離を置き、その後をついていくのはレイである。

 建物の影を上手く利用しながら、柚葉を見守っている。

 噴水広場に出ると、ウクレレを弾き、シンバルを叩き、統一されていない音楽が流れていたにも関わらず、町人は楽しそうに踊っていた。

 その中にライヤの姿はないが、丁度ベンチがあったので腰をかけることにする。

 柚葉の位置から、二人の姿が見えていた。噴水を隔てた向こう側の家の影に溶け込むように、壁に背を預けるレイと、新聞を読みながら噴水の周りを歩くルシト。


 柚葉は、空を見上げた。

 そよ風に乗って流れる雲を見ていると、心が穏やかになり、疲れも影響し、眠気が襲ってくるのを感じた。


(早く来るといいんだけどな)


 一瞬、眠気に負けた柚葉はがくん、と首を垂らす。だが、ここで寝てはダメだと自分を奮い立たせ、ふと顔を上げる柚葉の視界には、ある人物が映った。走って来た子供とぶつかると、その子の頭を撫で、優しい笑みを浮かべる男は、全身を紺色のコートで隠すように羽織り、フードを被っている人混みの中 でも、とても目立っていた。

 そして、子供との衝突時に少しだけ見えた横顔に、見覚えがあった。

 その瞬間、過去の記憶が走馬灯のように蘇る。柚葉が長年求めていた、あの姿が今、目の前にいる。


(――櫂人っ!)


 眠気は一気に吹き飛び、町の奥の方へと消えて行く男を追いかけるため、勢いよく駆け出した。

 だが、噴水広場で踊り、また行き交う人々が邪魔で、まるで人垣のように立ちはだかる。

 わずかな隙間を強引に進みながら歩くが、その間にも彼は遠くへ行き、距離はぐんぐんと離れていく。

 作戦外の行動をとる柚葉に、二人は驚き焦りながらも、マークはしっかり行っていた。


「櫂人!」


 呼べば、立ち止まってくれるだろうと思った。だが、柚葉の叫びは町を流れる音楽に掻き消される。

 ついに、男の姿は見えなくなった。


(まだ近くにいるはず)


 人だかりのある噴水広場を抜けると、柚葉は男の姿を求めて走り出す。

 道の端には露店が並び、そこにもまだらに人がいるが、男はいなかった。

 そうして走っていると、T字路にさしかかった。男の行方を人に聞くため、T字路の角の露店にいた、体格のいい中年の女店主に聞くも、「知らない」と言われた。また、「そんな男は通っていない」とも言っていた。

 もしかして見落としたのだろうか、ならばと来た道を戻ろうとしたとき、勢いよく人とぶつかった。

 よろけて倒れそうになる柚葉の背に手を回し、ぐっと引き寄せる男は、「大丈夫か?」と声をかける。


「だ、大丈夫で――!?」

「柚葉っ」


 彼女を追いかけてきたルシトとレイは、柚葉とぶつかり、よろけた彼女を抱きよせるように支えている男を見る。

 その瞬間、レイは男に近づき、彼女を奪い返すように男の手から柚葉を逃れさせた。


「なんじゃ、またお前さんらか」

「今度は何をした?」

「違うの、レイ。私がぶつかったの、ごめんなさい」


 頭を下げると、柚葉は後を追いかけてきた二人にコートの男のことを聞こうとしたが、本来の目的を思い出し、その口を閉ざした。


「お前さん、苦しそうじゃの。俺が楽にしてやるぜよ」

「触れるな!」

「レイ、落ち着いてください」


 そう言われて、初めて気付いた。久々に走り、肩で息をしている柚葉に、どっと疲れが押し寄せる。

 ライヤが手を差し伸べるも、レイによって叩き下ろされる。


「唐突ですが、体に異変はありませんか?」

「お前さんは男の体に興味があるんか。すまんが、俺はそんな趣味はないんでな」

「……」


 穏やかな笑みではあるが、ルシトのこめかみに青筋が浮かび上がる。

 それに気付いた柚葉が、代わりに聞く。


「真剣に聞いています。本当に、ありませんか」

「あったら、治してくれるんか」


 にやりと笑みを浮かべるライヤを見、体を強張らせる柚葉。

 そんな様子に、柚葉の前に立つレイが踵を返す。


「こいつは違うだろう。行こう」


 柚葉の背に手を回し、ルシトと目を合わせる。理解したのか「行きましょう」と言うと、三人はその場を後にした。途中、柚葉だけが何度か振り返ってライヤを見るも、彼が目を合わせることはなかった。

 ふぅ、と息をつくライヤは、何事もなかったように「いつもの」と頼んだ。


「あれのことじゃないのかい?」

「そうかもしれんが、面倒なことは嫌いなんでな」


「二人だけの秘密じゃよ」と言われると、女店主も仕方なく頷いた。常連の客であるライヤは、トマトが入った袋を貰うと、ポケットからお金を取り出し、女店主に渡した。


「そろそろこの町を出ようかの」

「セシール王国にでも行くのかい?」

「確かに、あそこは金さえあれば一生遊んで暮らせるぜよ。美女もいれば、嬉しいのう」


 本気なのか冗談なのか、言動では判断がつかない。

 だが、昔からライヤの相談役を担ってきた女店主は、彼の心の内を理解しているようだ。


「この国を出て、他の国を見るのもいいかもね。あんたは将来、この国を背負う――」

「その話は嫌いじゃ。釣りはいらんからの」


 手をパタパタと振り、店を出て行ったライヤの後ろ姿を見つめる女店主は、何かを考えるように腕を組んだ。


(あんたしか、いないのに)















「どうする?もうすぐで日が暮れる」

「仕方ありません。先にこの国の王に会いましょう」


 空が澄んだ青から橙に変わっていく。柚葉の勘が外れ、振り出しに戻った四護神(ガーディアン)探しは、明日行うことにした。

 宿を通り過ぎ、煉瓦が敷き詰められた道を歩く。少し急な坂道を登りながら、柚葉は未だに考えていた。そこで、思い切って聞いてみた。


「あのさ、二人が走ってきたとき、全身コートに身を包んだ男を見かけなかった?」

「いや、見ていないですね」

「俺もだ」


 二人は柚葉を追いかけるのに必死で、周りが見えていなかった。

「それなら、いいや」と言う柚葉ではあるが、どうしても気になっていた。あの男は櫂人だと、やはり 生きていたんじゃないかと考える。だが、これはいくら考えていても答えは見つからない。彼に会わない限り、真相はわからない。

 若干、暗い表情を浮かべる柚葉に気付いたレイは、そんな彼女にかける言葉を見つけられずにいた。先程急に走り出したのは、コートの男が原因であることは察しがついたものの、そこでなぜ悲しそうな、寂しそうな表情を浮かべるのかわからなかった。この国に初めて来たのに、知り合いがいたのだろうか。

 ルシトも気付いてはいたが、あえて何も言わなかった。その男が四護神であるなら、探し出さなければならないが、そうではないだろうと思った。コートの男が、アゼ―レ超大国を救うのに必要がないなら、わざわざ触れる必要もない。

 人気も少なくなり、会話がないことに気付いたルシトは、立派な城門に辿り着くと、「あっ」とわざと声を漏らした。


「どうしたの?」


 柚葉が聞くと、ルシトの視線の先を追った。そこにはマール王国同様、兵士が二人立っていた。

 日が暮れかけている。入れるだろうか。


「すみません、王さまにお会いしたいのですが」

「どのようなご用件だ?」

「私たちは、アゼ―レ超大国からやって来た使者でございます。王様にお会いするため、やって来ました」

「そうか。そのような話は聞いていないが……入るがよい」


 兵士が了承すると、二人は端に避けた。三人はアーチ型の城門をくぐり、城を囲んだ深い堀の下を流れる川を眼下に、城門と城をつなぐ橋を渡る。


「やっぱり、知らなさそうだね」

「隣国のマール王国が知らなければ、この国が知らなくても仕方ないでしょう」


(……侵攻は事実なのか?)


 「アゼ―レ超大国」という単語を聞いても、兵士たちの変わらない態度に、残念な気持ちを抱くルシト。それに対し、レイの中ではルシトへの疑いが強まる。だが、それを態度や口には出さない。

 入口は解放されており、中に入ると、高級なシャンデリアと床一面に敷き詰められたレッドカーペット、広間の中央に、黄金色の手すりがついた幅の広い階段が上階へと続いている。


「王は上の階におられます」

「わかりました」


 入口にいた兵士に頭を下げ、一行は真っ直ぐ進んで階段を上っていく。


「マール王国と同じような内装だけど、やっぱりすごい」


 前の世界ではこのような施設に入る機会はなかった。実際、城は国内に存在しないし、かといって海外に行く時間も金もない。ましてや「城を見に行きたい」なんて思ったこともない。だが、実際に見てみると、思わず感嘆してしまう。豪華な内装だけでなく、ドレスや髪飾りなどをつけ、着飾った気品ある女性たちが談笑し、多くの兵士が剣を研ぎ、そういった雰囲気も含めてだ。

 この場に不釣り合いな格好をしている三人であるが、誰も嘲笑うことはない。視線が集まることもない。


 階段を上がった先には、頑丈で厚い扉が開かれており、王座に座る王の姿が見える。

王の間には他の兵士より強固で光沢のある、重々しい鎧を身に付けた兵士が、入口と王の両隣に二人ずつ配置されている。

 王の隣には、大臣らしき者がおり、王と話していた。

 そして隣には、王妃ではなく、若く20代後半位の男性が、その座に座っていた。

 足を組み、暇そうに手すりに頬づえをついている。


「あの人、誰だろう」


 柚葉の問いに、「王の息子だろう」と答えるレイ。だが、王の息子らしからぬ態度に、その答えが合っているのか自信がなくなる。

 兵士によるボディーチェックもなく、王の間に入った一行は、王の前まで来ると片膝をついた。

 深く頭を下げると、「アゼ―レ超大国からやって来ました、使者でございます」と自らルシトが名乗り出る。


「頭を上げなされ。ほら、ラシールもきちんとせぬか」

「……フン」


 鼻で笑うと、ラシールと呼ばれた男は王妃の座から降り、すたすたと王の間から出て行った。

 大臣が呆れながらも「ご無礼を失礼いたしました」と言うと、ラシールを追うため、王に一礼し、その場を去って行った。


「こんなところをお見せしてしまい、申し訳ない。そなたたちは、どのような用件で参ったのだ」


 王でありながらも、気さくに話しかける態度に、どこか親しみを覚える。ゆっくり立ち上がると、ルシトは王と目を合わせながら、発言した。ルシトの求める返答が、返ってくることを少なからずとも期待しながら。


「アゼ―レ超大国がパルテノン帝国に侵攻され、支配されたことはご存知でしょうか」

「いや、そのようなことは初めて聞いた」


 目を丸くし、明らかに驚いている王は、身を前に乗り出した。


「それは本当のことか」

「はい。事実でございます。その件で協力をお願いしたく、参りました」


 そう言われても、信じられずにいる国王は、背もたれに寄り掛かると、何かを考えるように腕を組み始めた。

 だが視線はルシトを捕らえたまま、外さない。


「アゼ―レ超大国から参ったと言うが、現状はどうなのだ」


 王の問いに対する答えを知りたいのは、柚葉とレイも同じだった。アゼ―レ超大国が侵攻され、支配されたことは何度もルシトから聞いているが、詳しい現状は聞いていない。

 皆の視線が、ルシトに集まる。


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