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戦神子と六人の彼  作者: 火渡ユウ
二ノ彼 ライヤ
28/47

四話 断悪の剣

 背負った矢筒から矢を手に取り、再び照準を合わせる。


「俺は、国王となる。お前さんには、無理じゃ」

「無力な貴様が戯言をほざくな。余は、必ずや貴様を殺し、王位を確実なものとする」


 弓を引く力が強まる。

 矢先を、ライヤの左胸部、心臓に向ける。


「母上は、余の為に多大なる苦労をしてきた。その恩を返す時が来たのだ!」

「……そうか。ミリアが敷いたレールの上を歩き続け、人としてやってはならないことを犯し、何も思わないんか」


 ピンと張りつめた弦が、緩んだ。

 同時に、様々な出来事が想起される。

 胸の深く奥に閉ざしていた罪悪感が、ライヤの言葉によって湧いてきそうになる。


「は、母上を侮辱するでないぞ! 貴様も、貴様もそうではないか!」

「あぁ、そうじゃよ。俺たちは母さんのせいで、こんなことになったんじゃ」

「奴と一緒にするでない!」


 柚葉は激昂したラシールを睨みながら、二人のやりとりを聞いていた。

 だが、ライヤの過去について知らなければ、この話の意味もわからない。


「奴、か」

「奴が国王の正妻、王妃になったせいで母上は――!」

「財産と権力に目の眩んだミリアは、さぞ悔しかったじゃろうな」


 ハッと口を開いた柚葉は、思いもよらない事実にライヤを見つめた。

 王位継承者とはわかっていたが、まさか国王の直子だとは思わなかった。

 彼には悪いかもしれないが、王族を思わせる振る舞いがなければ、雰囲気もない。

 いや、もしかしたら隠していたのかもしれない。

 ライヤの心情が読めないように、正体もばれないよう隠していたのだろう。


「じゃが、王位の為に人を殺めてきたお前らの方がよっぽど性質(タチ)が悪いじゃろ!」

「証拠もなく、よくそんなことが言えたものだな。これ以上の侮辱は、許さん!」


 溢れんばかりの怒りに、ラシールは矢を放った。

 心臓を射抜かんとばかりに真っ直ぐに向かってくる矢を、柚葉が魔法で弾く。


「【水の気:水流粋護(アクアシールド)】」

「……ちっ」


 唾を吐き捨て、ラシールは諦めたように弓を下ろした。 

 物理攻撃が効かない防御魔法に太刀打ちできないことを悟った。


「証拠は、レオンじゃ。レオンが言っておった」

「だ、誰だ! その名は、知らん!」

「動揺するんじゃなか、昔は父親好きな子どもじゃったろ」


 首が取れそうなくらい横にブンブンと振り、ライヤの言葉を拒否する。


「父親など、そんなものは存在しない!」


 ぎゅっと目を瞑り、過去を振り払うかのように拒否する姿勢を崩さない。


「毒殺に使われた薬草が、置いてあったんじゃと。ミリアの部屋にな」

「くっ……くそがああああああ! あんなのは父親ではない! 貴様を殺したら次に奴を殺してくれる!」

「大丈夫じゃ、お前さんの代わりに俺がレオンを殺しておいた」


 悪どい笑みを浮かべながら、ラシールに告げた。

 先程まで後悔していた様子など微塵もなく、どんな意図でこんなことをしているのか柚葉にはわからなかった。

 だが、ラシールは明らかに顔色が変わった。

 驚きながらも、悲しい事実を知った時のような、そんな表情だ。


「なっ……なんだと……?」

「復讐じゃよ。いくら憎くとも、お前さんたちに母親を殺されたんでな。そうしてミリアが、王妃に成り変わったんじゃ。それくらいのことはして当然なんじゃろ、ミリアがそう教えたんじゃなか?」


 ラシールは、母親であるミリアの卑劣な行為を目の前にし、それを言われるがままに手伝っていた。

 王妃であったライヤの母、国王だけでなく、邪魔とあらば容赦なく人を殺めてきた。

 自分に逆らう者、邪魔者は殺せ、そう言われ続けてきた。


「……」

「ミリアが教えたことは、お前にとって正しいんじゃろ?」


 最初は、罪悪感でいっぱいだった。

 いくら母の命令とはいえ、何度も後悔をした。

 ミリアがバートン家を嫌っていたとはいえ、自分と同い年の少年(ライヤ)に申し訳ない気持ちがあった。 

 もし自分が彼の立場ならと考えたら、とてつもなく腹が立ったからだ。

 それだけじゃない、両親を失くした彼の寂しさ、悲しさは幼いとは言え、思っただけで涙が出た。

 そんな感情も大人になるにつれ消えていったけれど、それまでは心に秘めていた、決して口にできない思いもあった。


『母さんは、悪いことをしているんじゃないか』


 それが、王となった今になって、ようやくわかった。

 過去とは言え大好きだった大切な人をライヤに殺され、自分の今までの行為の愚かさを知った。

 目が覚めたように、ラシールは天に顔を向け、その場に崩れ落ちた。


「……」 


 戦闘態勢を解いたラシールに、ライヤは一つ頷くと、シールドから出ていった。


「ライヤ、戻って!」

「大丈夫じゃよ」


 ライヤの身を案じるも、本人が大丈夫というのだから、大丈夫なのだろう。

 柚葉には理解できないラシールの気持ちは、ライヤにはわかっているだろうから。

 拳を握り、頬に涙を流すラシールは、視界にライヤが入ってくると、逸らすように俯いた。


「俺が、憎いじゃろ」

「憎い、とてつもなく憎い!……だが、余には貴様の命を奪う権利などない」


 人として犯してはいけない行為を行ってきたラシールは、負の感情を理性で抑える。

 自分に「何が正しいのか」を気づかせてくれたこともあるが、この思いを抱き続けたであろうライヤのことを思えば、人を殺めようだなんて気持ちはもはや湧いてこなかった。

 それに彼の性格を考えれば、復讐のために殺したというのは嘘なのだろう。

 戦いを避けられなかった何らかの理由があるのだと、そう考えていた。


「ラシールなら、わかってくれると思っておった」

「……ふん」


 鼻で笑いながら、ラシールは煌びやかな赤一色のマントを外した。

 それは、国王だけが身に纏うことを許される物。


「俺には、国王は務まらない。貴様にくれてやる」

「後悔はしないんか」

「後悔ばかりだ、今までの行いのな」


 惜しげもなくそれを渡すと、ライヤは大切そうに両手で受け取った。

 幼少の頃からラシールと仲良くなりたいと思っていただけあって、王位を譲り受けたことよりも分かりあえたことが嬉しかった。

 柔和な笑みを見せるライヤに対し、力のない笑みを浮かべたラシールが続けた。


「だから俺たちを、刑に処してくれ」 


 国王は国を統治し、経済を活性化させる策を考えるだけでなく、法においていかなる民の罪も罰しなくてはならない。

 それは例外なく、ラシールとミリアも対象だ。


「あぁ。もちろんじゃ」


 ライヤは頷くと、ラシールに手を差し伸べた。

 そのとき、崩れてできた氷柱の山から、声が聞こえた。

 うめき声のような、か細く、男の声であった。


「……ラシール」

「――!?」


 久しぶりに聞いた声に、ラシールは立ちあがるとすぐに声のする方へ駆け出した。

 ライヤも、すぐにその後を追う。


「待ってください、今――」

「……使うな」


 柚葉が手を当て、回復魔法を詠唱する前に止めると、氷柱に刺されたレオンは薄く目を開き、ラシールの姿を探した。

 駆けつけてきたラシールの頬には未だ涙が流れるも、それは悲しみではなく、父親が生きていたことに嬉しいと思う想いから生まれた涙だった。


「と、父さんっ!」

「レオン! 今すぐこの氷柱を――」

「よかった……最後に、会えて」

 

レオンは何十年ぶりに見る息子の姿に涙を流すも、視界は既に歪み、ラシールの顔の輪郭が定まらない。


「父さん、やっと気付いたんだ、俺はこれから母さんと共に罪を償って、生きていくから」

「……あぁ……ミリアを、頼む」


 ラシールに目を向けた後、視線をゆっくりとライヤに向ける。


「……息子を……頼ん、だ」


 黒に染まっていく視界の中心にいたライヤが、死を惜しむように唇を噛みしめながら頷く。

 それに安堵したレオンは、柔和な笑みを浮かべながら逝った。


「父、さん……」

「……」


 涙を見せぬよう、必死に堪えるライヤが、三人に背を向ける。

 幼少期から会っていなくとも一目見て父親だとわかったラシールは、その冷たい体にしがみつく。


「……柚葉、行くぜよ」


 城門の中へと歩みを進めるライヤの後に、柚葉が続いて行く。

 その複雑な胸中は、表に出さずに。















 激闘の末、パルテノン帝国の王、アーネストを捕えた一行はアゼーレ超大国を救った。

 地下牢から国王も救出し、荒廃した国は再び、緑豊かな国となるよう復興を始めた。

 王族守衛隊のルシト、行く宛てのないレイはそれに参加し、ロッカスは故郷に帰った。

 柚葉はライヤと共にいることを望み、ラシール、遺体となったレオンと共にロセリア王国に帰郷した。

 王の証であるマントを身に付けたライヤが街に戻ると、人々は歓喜した。

 その中には、ライヤがお世話になった露天の女店主もいた。

 トマトがどっさり入った袋を持たせ「おめでとう」と頬を緩ませ、心から喜んでくれた。

 貧しい民から高い税を絞りとり、容赦なく人を殺してきたラシールは、人目から逃れるように裏門から城へと入った。


「……レオンを、よろしく頼むぜよ」

「あぁ」

「誰も、入れるんじゃなかよ」


 謁見の間の前にいる兵士が「承知いたしました」と一言告げると、ラシールたちと共に階下へと降りて行った。

 後は、この中にいる王妃を捕えるのみ。


「柚葉も、二人と一緒に行ってもよかよ」

「……知ってるでしょ? 私の答え」


 にっと笑って見せる柚葉が、自ら進んで重い扉を開けた。

 その先には、鋭い睨みを利かせた后、ミリアが座っていた。


「皆が私の命を聞かないのは、そういうことだったのね」

「そう、これからは俺が国王となる。ラシールは、今までの悪事を認めたぜよ」


 赤い絨毯の上を歩く二人に動揺することもなく、ミリアは高笑いした。


「ハッハッハ! 笑わせないでほしいわ、あなたがやったのでしょう?」


 相変わらず気味の悪い笑みを浮かべながら、どこからか取りだした小瓶を目の前に晒す。

 毒々しい紫色の液体が、ミリアの動きに合わせて揺れている。


「どうして、どうしてそんな簡単に人を殺せることができるの!? どうして、息子であるラシールを利用したの!?」

「……戯言をほざいてんじゃないわよ、小娘が!」


 瓶の蓋を投げ捨て、その液体を一呑みした。

 すると、華奢な身体が隆々とした筋肉をつけ、肌色は紫色に染まっていく。

 体長は段々と巨大化し、天井の高い謁見の間でも頭がついてしまう程の大きさになった。

 爪は鋭く、牙は口内に収まらず、外へと突き出ていた。

 充血した眼は二人を捕え、もはや人ではなくなった。


「あ、あれは……」

「変身草を粉にし、筋肉増強剤を混ぜたんじゃろうが、元には戻らんぞ」

「いいのさ、私は憎きバートン家を滅し、この国も滅ぼしてやる!」


 次の瞬間、鋭い爪を二人めがけて突き刺す。

 ライヤが柚葉を抱え、端の方へと駆け転がりこむ。

 すると爪は床を貫き、めりめりと音を立てて、その場が崩れていく。


「ありがとう」

「守ると、言ったじゃろ」


 柚葉を下ろし、怪物化したミリアを見つめる。

 絶対に殺しはしないと、そう心に誓ったライヤは、他の方法を考える。

 まずは弱体化させるしかない。

 しかしここでは、唯一の攻撃魔法も使えない。

 あれは、氷流粋護(アイスシールド)が作られた上で成り立つ魔法だった。


「……ライヤ、手を貸して!」


 何をするのかと思うも、迷っている時間などない。


「ちょこまかとこざかしいわ! 殺してくれる!」


 柚葉を信じて手を差し伸べると、ぎゅっと強く握られ、目を瞑った彼女は、魔法を唱えた。


「死ねええええええ!!」

「悪を燃やし、弱きを助ける――【水炎の気:大波聖炎剣(タイダルセイクリッド)】!」


 爪が勢いよく振り下ろされた瞬間、その場にいた二人の姿は消えていた。

 どこに行ったのかと探せば、中央で柚葉だけが床に倒れていた。


「何を唱えたかと思えば、ただ倒れただけか――ハッハッハ! 殺してや――」


 その後の言葉は、縦に蒼、横が紅に染まった十字架に身体を刻まれ、続かなかった。

 柚葉の前に立っていたのは、蒼と紅の双剣を手にしたライヤだった。


「悪の根源は、断ち切った」


 声にならない声で叫びながら崩れ落ちるミリアは、元の大きさへと縮小していった。

 双剣は役目を果たしたことを知ったのか、自然と消えていく。

 気を失いかけた柚葉を起こし、抱き上げた。


「ん、よかった」

「柚葉、ありがとな」


 戦神子(メイデン)の気を全てライヤに送り、火の気と水の気が融合した魔法は剣となり、ライヤへと託された。

 戦いは終わり、ライヤは彼女を抱えたまま、謁見の間を出た。

 完全に気を失ったミリアは、床に伏している。

 

「これで、終わったんだよね」


 その温かい腕の中で、瞼が下りそうになるのを堪えながら聞いた。

 すると柚葉と視線を合わせ、いつものように余裕ある笑みを見せたライヤが答えた。


「いや、これから始まるんじゃよ」


次回、ニノ彼 ライヤ編 最終話です♪

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