家出少女の来訪 5
俺は今、リビングにある高級ソファーに腰掛けている。
簡単に自己紹介をしたが、想像通り先程出会った女性はミレーユのお母さんだった。
そのため、ミレーユに抱きつかれたところを1番見られてはいけない人に見られたということだ。
「ミレーユ。これはどういうことなの?友達の家に泊まるとは聞いたけど、シロ君と逢引してるなんて聞いてないけど?」
「あ、逢引っ!そ、そうですね。否定はしません」
「否定しろよ!」
ミレーユが照れながら返答する。
否定しなかった理由は理解できないが、今は相引きを否定することが先なので俺はミレーユのお母さんに視線を移す。
「待ってください!お母さん!」
「あなたに『お母さん』と呼ばれる筋合いはないわ」
「――すみません」
(このやり取り前にもしたー!ってミクさんパパか!)
昔、同じようなやり取りをしたことを思い出す。
「あ、あの。ミレーユのお母さん。俺とミレーユは恋人ではないんです。だから――」
「へぇ、恋人じゃないのにミレーユはシロ君に抱きついてたのね」
「――そうなりますね」
(ホント、最悪のタイミングで現れたな!)
心の中で運命を呪う。
「お母様!ウチはシロ様との写真集が撮りたいんです!なぜダメなんですか!」
「それはシロ君と仲が深まって恋人同士にならないようにするためよ。ミレーユが誰ともお付き合いをしなければ、私と同じような過ちを犯すこともないから」
「ウチはお母様と違います!シロ様と恋人同士になったら絶対にシロ様以外の男性と歩きません!」
「そんなこと言えるのは今だけよ。ミレーユはこれからどんどん人気が出る。そうなると断ることのできないことも必ず出てくる。私のように」
「で、でも、すぐ説明すれば――」
「余計なリスクを背負いたくないの!」
お母さんが語気を強める。
「確かに、私の場合は日本にいる時に問題が起こったから、気づくのも遅くなり、人気が地に落ちた。その時の絶望感は今でも覚えてる。私はミレーユに私のような想いをしてほしくない。私にできなかった輝きを手に入れてもらいたいの」
お母さんが懇願するように言う。
「だからミレーユが誰かと恋人になることを阻止しなければならない。どうか私の行動をわかってほしいわ」
「お母様」
お母さんの言葉にミレーユは反論できなくなる。
(お母さんの言いたいこともわかる。でもミレーユは泣いてたんだ。だから俺は、お母さんの選択が正しいとは思えない!)
そう結論付けた俺はお母さんの方を向く。
「ミレーユのお母さん。ミレーユは俺との仕事を引き受けることができず、悲しい想いをしてます。俺はそんなミレーユを見て、この選択は間違いだと思いました」
そこで一拍置き、俺は自分の考えを伝える。
「確かに、この仕事を引き受けたことで、俺とミレーユが恋人になるかもしれません。そして付き合っている間、お母さんと同じような問題が発生するかもしれません。でも、俺はその時、絶対ミレーユを見捨ません!俺が側に寄り添い、支えます!だから、今回の仕事を許可してください!お願いします!」
俺はお母さんに頭を下げる。
「シロ様っ」
隣からミレーユの声が聞こえる。
(そもそもミレーユと恋人同士になることなんかないからな。これくらい大口叩いても問題ないだろう。今はミレーユの身にお母さんと同じようなことが起きたとしても、問題ないことを説明することが大事だ)
しばらく頭を下げ続け、お母さんの反応を待つ。
「はぁ。さすがシロ君。噂通り、素晴らしい方ね」
そんな呟きが聞こえてくる。
「今後、シロ君との仕事なら断らず受けることにするわ」
「ホントですか!?」
俺は顔をあげてお母さんを見る。
「えぇ。だって私と同じようなことがミレーユの身に起きた時、責任を取って結婚し、ミレーユを養うって言ってるからね。だから写真集の件、引き受けることにするわ。今から間に合えばだけど」
「ありがとう!お母様!」
ミレーユが喜ぶ。
(許可してくれたことは嬉しいが――何故結婚することになってんの!?)
許してくれた空気を壊すわけにはいかないが、聞かないわけにはいかないので、思い切って聞いてみる。
「待ってください!なぜ責任を取って結婚することになるんですか!?」
「当たり前よ。シロ君はミレーユを見捨てず、側に寄り添い、支えますと言ったわ。つまり仕事のなくなったミレーユをシロ君が責任を持って幸せにするってことでしょ?」
「いや、そういうわけじゃ――」
「あら違うのね。なら依頼は断ろうかしら」
「あぅ……」
その言葉を聞いて、ミレーユが泣きそうな表情となる。
「うっ!そ、そうですね。そのようなことが起これば、俺が責任を取ります」
「さすがシロ君ね」
俺の返答にご満悦のお母さん。
(嘘だろ。なぜこんなことに。まぁ、落ち着け。そもそも俺とミレーユが恋人になった時に問題が発生したら責任を取るって話だ。俺とミレーユが恋人になることはあり得ないから問題ないな。うん)
そう結論づける。
そんなことを思っていたため…
「いい、ミレーユ。問題が起きたらシロ君が結婚してくれるって言ったから許可したの。あくまで保険よ。私はミレーユが誰かと恋人になることを許可したわけじゃ――って聞いてないね」
お母さんの呟きと、ミレーユからの熱い視線に気づかなかった。




