美容室へ 1
実は俺がイケメンだったことに気づき、髪を切ることを決めた日から数日が経過する。
今日の俺は髪を切ることとなっており、涼宮さんイチオシの店に向かっている途中だ。
ちなみに髪を切ることに関しては社長から了承をもらっている。
「ごめんな、涼宮さん。こんな時間に付き合わせてしまって」
「そんなこと気にしなくていいよ!」
俺は涼宮さんに謝りつつ、涼宮さんと夜の街を歩く。
「今日は凄腕の美容師にお願いしてるんだ!その人はテレビにも出てて予約しても1年は待たなきゃいけないくらいの美容師なんだよ!だから営業時間外の夜にお願いするしかなくて、こんな時間になってしまったけど」
「そんな人に急遽お願いできるものなんだな」
「私、その美容師と長い付き合いになるからね。なんとかお願いすることができたよ」
「そうなのか。ありがと涼宮さん」
「いえいえ!では、美容室へレッツゴー!」
そんな会話をしながら歩くと、美容室に到着する。
“カランカラン”と音を立てながらドアを開け、俺たちは店に入る。
「すみませーん。店長はいますかー?」
「あ、香織ちゃん、お疲れー!」
涼宮さんが声をかけると、店の奥から20代後半くらいの綺麗な女性が現れる。
「お久しぶりです、店長」
「うん。久しぶりだね!」
そんな感じで簡単な挨拶を終えた後、店長が俺を見る。
「今日はある人をお願いしますって聞いてたけど、もしかしてこの人?」
「はい!」
涼宮さんの返答を聞いて、何故か店長の表情が曇る。
「そ、そっか。かわいい女の子と思ったんだけどなぁ」
「それはすみません。でも男の子って伝えてたら引き受けてくれなかったですよね?」
「もちろん。私はかわいい女の子相手にしか仕事しないからね。私のお眼鏡にかなわない子は他のスタッフにお願いしてるし」
(かわいい女の子しか仕事しない人が店長で大丈夫かよ)
そう本気で思う。
「店長の趣味は知ってますけど、どうしてもお願いしたくて」
「えー、気分が乗らないなぁ。だから帰ってほしい――」
「ちなみに今回の報酬はシロ様の秘蔵写真です」
「この凄腕美容師の私に任せなさい!彼をカッコいい男に仕立てるよ!」
「よろしくお願いします!店長!」
何故か突然やる気を出す店長。
(待って?涼宮さんって俺の秘蔵写真を持ってんの?)
涼宮さんに驚きを隠せない。
「――?何やら驚いてるようだけど、さっそく始めるよ!この椅子に座って!」
俺の表情は軽くスルーした店長が鏡の前にある椅子に誘導する。
涼宮さんは端の方にある椅子に座って待機するようだ。
「君、髪が伸びまくってるね。なんでここまで伸ばしてたの?」
「えーっと。俺って目つきが悪くて自分の顔に自信がなかったんです。だから顔を隠すように髪の毛を伸ばしてたんですよ」
「へー」
そんな話をしながら、手際よく霧吹きで髪の毛を濡らし、俺の後ろ髪をカットしていく。
その間…
「報酬はシロ様の秘蔵写真♪」
とか…
「シロ様の秘蔵写真ってどんなのかなー」
とか言っている。
「じゃあ前髪を切るから目を閉じててね」
そう言って今度は前髪をチョキチョキと軽快に切っていく。
すると徐々に切るペースが遅くなり、やがて止まる。
そして…
「あ、あの。も、もしかしてシロ様――ですか?」
「はい、そうですけど」
「きゃぁぁっ!!!」
耳元で叫ぶ店長。
「あ、やっと気づいたんだね」
店長の叫び声を聞いて涼宮さんが俺たちの下に来る。
「ちょっと!香織ちゃん!なんで最初にシロ様って紹介しないの!?私がシロ様のファンって知ってたでしょ!?」
「サプライズの方が店長にとっては良い体験かなって」
「そんな親切心いらないよ!」
「私に怒ってるところをシロくんが見てるよ?」
「シロ様!違うんです!今のは香織ちゃんがイジワルしてきたから怒っただけなんです!私は怒りっぽい女じゃないですから!」
「だ、大丈夫です。営業時間外であるにも関わらず、店長は髪を切ってくれました。そんな女性が怒りっぽい女性なはずないですから」
「グハッ!シロ様が優しい、優しすぎる。私、一生シロ様のファンになるよ」
なぜか店長が心臓部を抑えてうずくまる。
「だ、大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫。ちょっとシロ様の優しさにやられただけだから」
そう言って店長が立ち上がる。
そして何度か深呼吸をして、仕事を再開する。
「では、気を取り直して。今からシロ様をいつも以上にカッコいい男にしてみせますよ!」
「よ、よろしくお願いします」
(この人で大丈夫かなぁ)
そんなことを思った。
「シロ様、希望の髪型とかありますか?」
「そうですね。前が見えやすいようにしていただければ、あとはお任せします」
「わかりました!」
(こんな簡単なお願いで大丈夫かな?)
そう思っていたが…
「両サイドはブロックで前髪を上げる形にした方がいいのか?いやいや――」
等々、どのような髪型が似合うのか、ブツブツと呟く。
そして…
「よし!さっそく切りますね!」
俺の髪型を決めたようで、迷いなく髪の毛を切る。
俺はその手際の良さに感嘆する。
(おぉ、凄腕美容師と言われる所以がわかるぞ。頭の中で完成図みたいなのが出来上がってるんだろうな)
しばらく店長の手際の良さに見惚れていると、数十分後にはカットが終わっていた。
「終わりました!前髪はご希望通り短めにして、両サイドにはブロックを入れてます!お任せとのことでしたので、爽やかなイケメン風に仕上げてみました!いかがでしょうか?」
「そうですね。カッコいいかはわかりませんが、すごくいいと思います」
「ありがとうございます!これで私の人生に悔いは――グハッ!」
またもや突然倒れる店長。
しかも今度は鼻血まで出して。
「だ、大丈夫ですか!?」
「だ、大丈夫……シロ様を直視しすぎただけだか……ら」
そこまで言って力尽きる店長。
「あ、シロくん。髪を切り終わったん……だ」
すると俺たちのやり取りを聞き、今度は涼宮さんが俺の下に近づいたが、途中で固まってしまう。
「ど、どした?」
不思議に思った俺が聞き返すと、涼宮さんは真っ赤にした顔を俺から逸らす。
(あれ?あんまり似合ってない?)
そう思い、不安になってしまうが…
「ヤバいよ、シロくんがカッコ良すぎて顔が見れないよ」
との言葉が聞こえる。
(ど、どうやらカッコいい髪型にしてくれたようだが……なんか恥ずかしいな)
涼宮さんからカッコ良いと言われ、俺は顔を赤くする。
その後、しばらくお互いに顔を赤くする時間が続いた。




