第九話 「暁」
トレスに一矢報いようと反撃に出たセイエンだったが、トレスの圧倒的な力を前に窮地に追い込まれてしまった。絶体絶命のこの状況で、颯爽と現れた一人の青年がセイエンの前に立つのだった。
「大丈夫かい?」
颯爽と現れセイエンの前に立ったその青年はいった。
「あなたは……」
夕暮れよりも緋く、燃えるような色をしたその長髪が風に揺れていた。セイエンの固まっている姿を見て微笑んだその青年はトレスに向き合った。
(この男何者だ?私の斬撃を容易く……)
「話は後にしよう。君達のその傷の具合だと悠長にしている時間はなさそうだしね」
トレスを前に刀を抜いた。その刃に焔が伝わっていく。この人、先生と同じくらい天力がある……。
「何者だお前は!」
「人を傷つける者に名乗る名前は持ち合わせていない。ましてや君は彼らを殺そうとした」
その答えを聞いたトレスの天力がさらに大きくなった。まだあんなに余力があったのか……!
「もういい。こうなれば全員切り刻むまでよ!」
左腕に天力を集中させている。まさか全方位に斬撃を放つつもりなのか……!?トレスが力を暴発させようとした時には、その腕は焼き斬られていた。速すぎる……!目で追えなかった。
(なんだと……、この男まさか──)
「烈火万焼」
トレスの身体は完全に断ち切られ、焔の中で灰となって消えていった。
キンッ……
気がつけば僕は刀を納める男の人のその背に釘付けになっていた。ゆらゆらと揺れる羽織、頼もしい背中。なんだか懐かしい気分だ。前にもこんなことがあったような気がする……。
「『暁』隊長ーっ!!」
遠くから紺色の軍服をまとった騎兵隊がやってくるのが見えた。
「ご無事でしたか!しかし一体何故急に馬を降りて走り出したのです?」
「危険に晒されていた彼らを救けるためだよ。それよりも医療班を頼む。彼ら3人の内2人が重症だ。早急に手当てをしてあげてくれ」
そんなやり取りをうつろになる意識の中聞いていた。
「少年?おい、少年!セイエン……!」
その男の人の声を最後に僕は意識を失った。
ガタンッガタンッ……
「……っ!ここはっ!?」
僕はどうなった?ここは……?なにか揺れた感じがして目を覚ました。トレスに斬られた胸のあたりに手を当てる。傷が回復してる……。
「落ち着いて、ここは馬車の中よ」
そうだ、僕たちはあの人に救けられて……。横を見るとカイリが横たわっていた。エリスも目をつぶっていた。多分僕たちの回復に加わってくれたんだろう。ほっと息をつき、身体をまた横にした。
「あなたは?」
「私はアイリス。『暁』隊長の副官の1人よ」
隊長?副官?色々わからないことはあるけど、悪い人たちじゃないのは間違いない。
「今はどこに向かってるの?」
「プリメソリオよ。今回の件の報告と君たちの療養があるからね。にしても、よく魔族相手にやり合えたわね。君たちはあくまで冒険者なんでしょ?相当腕が立つのね」
僕たちもここまで戦ってきて成長したってことなのかな。旅立った直後の僕たちじゃ魔族相手に手も出なかっただろう。
「エリスちゃんから王都を目指してた理由を聞いたけど、君たちの先生が伝えたかったことは代わりに隊長が話してくれるわ。それと、セイエンくんって隊長と知り合い?」
「うーん、どこかで見たことがある気がするんだけど思い出せないんだ」
「そう。あ、そろそろ着くわね」
馬車の窓から外を覗くと前方に大きな門が見えた。あれが王都か。僕たちはようやく真相に近づけたのか。
「うぅん……」
僕たちの話し声でエリスも目を覚ました。
門を潜り抜け、馬車がとまった。降りる時にカイリも起こして、僕たちは『暁』隊長の部下たちに連れられ宿に着いた。
そこからしばらくの間、アイリスさんが僕たちの側にいてくれた。
コンコンコンッ
ドアのノックとともに『暁』隊長が部屋に入ってきた。
「お疲れ様です隊長。報告は終わりましたか?」
「ああちょうどしてきたところだよ。君たちも回復して良かった。長旅ご苦労だったね」
隊長は持っていた刀を壁に立てかけ、椅子に腰を下ろした。
「挨拶はこれくらいにして……、本題に入ろうか」
隊長の表情が真剣な顔へと変わった。本題、先生の伝えたかったことだ……!
「僕はシャクレン。君たちは先生に導かれてプリメソリオを目指してきたんだろ?」
「先生って……。もしかして先生と知り合いなの?」
「知り合いもなにも、僕も先生のもとで教わったからね。先生は先生だよ」
どういうことだ……?僕の目がおかしいのかな?この人二十代前半に見える。先生もこの人より少し上くらいの年齢に見えてたけど、それじゃあ年齢が合わない。いや、あの人一体何歳だったんだよ!
「先生が伝えたかったのはこの世界の実情だ。今この世界では人間・魔族・堕天族という三種族が対立している。魔族に関しては君たちもわかるだろう」
そうだ。僕たちは道中でやつらと戦っている。奴らに共生の意思がないのは確かだった。エリスも聞き覚えのない種族を耳にして疑問に思っているようだった。
「コラプス……?ってどういう種族なんですか?」
「コラプスは、はるか昔に下界へと降りてきた神の使いたちのことらしい。僕にも詳しいことはわからないんだ。というのも、ここ数百年コラプスとの争いが起こっていないそうでね」
神の使いだなんてまるでお伽話みたいな話だ。話を聞く限り魔族のように危険な種族ではないのかも……。
「そのコラプスたちも今どこにいるのかがわからない。恐らく対立を避けるために潜伏しているんだろうね。彼らを見つけ出して和平を結びたいところなんだけど、今はそうはいかないんだ。君たちも体験した通り魔族との対立がここ最近激化している。王都周辺の小国や村が次々に襲撃を受けているんだ」
僕たちが救ったあの村みたいなことが多方面で起きてるのか。
「そしてその魔族たちを統制してるのが魔王だ。やつは強力な魔族たちを従えている。やつらによって多くの死者も出てるんだ。はやく決着をつけないといけない」
フーマ、スレイヴァ、トレス……。全員手強い相手だった。あんなのがまだまだいるのか……。
「とまあ、ひとまずはこんな感じだね。もう夜だし、今日はゆっくり休んでくれ。明日また迎えに来るよ」
待って!と部屋から出ていこうとしたシャクレンとアイリスを呼び止めた。言っておかないといけないことがあるんだ……。
「あの……、先生は……」
「……うん、わかってるよ。とにかく、お疲れ様」
微笑みながら、また明日、といってシャクレンは扉を閉めた。僕にはその笑みが哀しみを含んでいるようにみえた。




