第八話 サンプル
スレイヴァを討ち倒したカイリ。しかしその前にもう一人の魔族トレスが現れる。強い気配を放つトレスを前に、今度はセイエンが立ち向かうのだった。
くっ……、一撃一撃が重い……。ただの体術だけで圧倒されてる。またも吹き飛ばされ地に伏せているセイエンは打開策を考えていた。
「足止めさえなければスレイヴァを失わずに済んだものを……。何なのだあいつは……」
何やら独り言をいっているらしい。こっちにとっては好都合だ。相手はフーマやスレイヴァよりも格上。焼却で隙をつくれたとしてもおそらく一瞬だ。そこから剣で致命傷を……、いや無理だ……。僕にカイリのような腕前はない。傷をつけられたとしても致命には届かない。
「私に対抗するための策はまとまったか?」
「焼却」
火が音を立てて燃え上がる。その刹那にセイエンは剣を構えていた。
(斬れる!)
ギィィィンッッ──
金属同士がぶつかるような音とともに振るった刃が止まった。
「この程度の子供騙しで私を殺れるとでも思ったか」
剣がトレスの腕で止まっている……?一体どうやって……。
「全てにおいて生ぬるい。その貧弱な天力では私の肉体を斬れるわけがないだろう」
こいつの身体、天力を纏っている……!それも分厚い天力を!刹那、飛んできた拳を剣で防ぐも勢いが止まらない。受けきれず、またもや後方へ飛ばされた。
(先程から殺す気で拳を振るっているがどうも力が入らん。まさかあの時に……)
「にしてもこの程度とは。杞憂だったか」
まだだ……!生半可な天力じゃ斬れない。けどやるしかない。僕がやらなきゃみんな死ぬんだ。
「お前は僕が……、僕が倒す!」
「その状態で何ができる?黙って殺された方がましではないか?」
あの夜、僕は誓ったんだ。絶対に王都へ辿り着くって……。先生が何を言おうとしてたのか、その答え合わせをするために!セイエンの剣を握る力がより強まった。立ち上がったその身体に震えはない。セイエンは今一度トレスに視線を向けた。
「……!!」
(この目……、追い詰められた者がするこの目……!人間は限界に達するとそれまで以上の力を発揮する。肌で感じる。こいつが脅威であることを!)
「やはりお前たちは危険だ。ここで全員死んでもらう!」
殺意の籠った一撃はセイエンを穿つことなく空を切った。
(こいつ別人のような動きを──)
トレスを斬らんとするその剣は火を纏っていた。
「焼刃!」
金剛石のように思えたトレスの天力を破り、一撃が入った。これが……、今の僕にできる限界だ……!力を使い果たしたセイエンは前のめりになって膝をついた。
「逃げてセイエン!」
エリスの叫ぶような声で咄嗟に前を向いたときには刃が迫っていた。
パキィンッッ──
なっ……、剣が折られて──
直後、セイエンを刃が袈裟にとらえ、その衝撃で後方に弾き飛ばされた。嘘だろ……。傷が再生している……全力を振り絞っても届かないのか……。
「致命傷を外したか、やはり人間というのは侮れんな。死に際にこんな力をみせるのだから。なによりこの成長速度……、万全ではないとはいえ私の刃に反応するとは大したものだ」
僕たちは生きて王都に行かなきゃいけないんだ。先生との最後の約束なんだ……!先生……、先生……!
ジジジジッッ──
「オォォッッ!!」
セイエンが雄叫びを上げながら震える足で立った。こんなところで止まってられないんだ…!さらに勢いのまま折れた剣をトレスへと振り下ろした。
バリリィィッッ!
「貴様ッ!何故出しきったはずの天力をもっている!?」
腕で受け止めているその刃には天力が込められていた。
(何なのだこの力は……。ここまでのものなのか人間というのは……!)
天力のぶつかり合う音ともに刃の重みが増していく。
「僕は、僕たちは負けられないんだ!」
ザンッッッ!
いっそう力の入ったその剣がトレスの腕を落とした。
しかし、それすら意に介さずトレスは即座にセイエンを蹴り飛ばした。
「がはっ……」立とうとするも足に力が入らない。
「いやはや侮っていた。まさか人間の力がこれほどとは……。ここまで私に抗ったセイエン、お前に敬意を表してその腕はくれてやる」
地に転がっている腕が宙に浮き回転し始めた。
なにか来る……!立て、立って防御を……。
直後腕が斬撃と化して満身創痍のセイエンに襲いかかった。
ダメだ……、間に合わな──
ゴオオッッッ──
寸前で一人の青年が間に入り、斬撃を焔で燃やし尽くした。朱に染まる空の下、風の如く現れたその青年は何よりも──
赫だった──
トレスは指先を刃に変化できる刃化というイルミナを持っています。




