第三話 また逢う時まで
先生との修行を行い、昼休憩をとっていたセイエン一行。先生が世界の状況を伝えようとした矢先、突如轟音が鳴り響くのだった。
「なんだこの音……」
地震?いや違う。自然の音じゃない。なにか禍々しい気配を憶えるような──
「黒の断片……」
断片?なんのことを言ってるんだ?先生は一体何を知ってるんだ?
そんなことを聞く暇もなく、
「近くの廃村からです。着いてきてください」
とその一言だけで先生は走り始めた。なにかとてつもなく嫌な予感がする。
「カイリ、エリス、警戒を怠らないようにしよう。先生の様子からすると只事じゃない」
一応ふたりにも警戒を促した。ふたりもこっちを向いて頷いた。ただ、僕達はそれ以上言葉を交わさなかった。
何も言わずただ走る先生に僕達は着いていった。そして、先生はいきなり立ち止まり手で僕達を制止した。
なんだこれは……
僕達の目の前に現れたのは真っ黒な闇だった。闇があたり一帯を呑み込み侵食し続けていた。
僕達よりだいぶ前まで進んだ先生は目の前の光景を前に立ち止まっていた。
(どういうことだ?誰かがこれを起こしたのは間違いないのに、誰の気配もない。まさか──)
「みなさん!今すぐここから離れてください!これは──」
ドッ
先生が僕達に何か叫ぼうとしたとき、背後から先生を銀閃が貫いた。
「かはっ……」
先生はすぐに刺さった剣を抜き、後ろを振り返った。
なにが起きた?刺されたのか?先生……?
「先生ーっ!!」
僕達は一斉に駆け出した。嘘だ……、先生が……先生を助けなきゃ──
「来るな!!」
先生の力強い言葉が響き渡り、僕達の足も止まる。
「全員そこから一歩も動くな!」
血を吐きながら先生は再度強く僕達を制止した。
先生の目線の先にいたのは白い人型のなにかだった。人でも魔獣の気配でもない異質なもの。
「なに……あれ……」
エリスはそれに恐怖を抱いていた。カイリも僕も、あれに向かって行ったところで勝てないことが肌でわかっていた。
「みんな、聞いてください」
その緊張感の中、先生は静かに言った。
「以前も話した通り、ここから東に行けばプリメソリオという王都があります。生憎、今は時間がないので説明は省きますが、そこに行けば私があなた方に伝えようとしたことがわかります」
先生を置いて逃げられる訳がない。僕達はみんな同じ気持ちだった。
「ダメだ先生!俺は先生を置いて逃げるなんてできない!」
カイリは強く叫び、退こうとしない。
「私もそんなことできません!一緒に逃げましょう先生!」
一緒に逃げる、そんなこと無理だとわかっていても先生を死なせたくない一心でエリスは叫んだ。
僕たちの退こうとしない姿勢を見て先生は笑った。
「ありがとうみんな。ですが私もあなた方を死なせる訳にはいかない。ここでお別れです……」
先生が手から眩い光を僕達に向けて放った。直後、僕たちの周りをベールが覆った。
「先生!」
僕はそこから出ようとベールを叩いたが、びくともしなかった。
「先生ーっ!!」
僕もエリスもカイリもみんな叫んだ。手の届くところに先生がいるのに。手を伸ばせば助けられるのに。届きそうで届かなかった……
「みんな、また逢いましょう──」
先生がそう言うと、球が輝き辺りが見えなくなった。
「ほう、師としての選択というやつか?」
はじめて白いなにかが口を開く。しかし人間の声ではなく、情を感じない。
「貴様は私を奇襲してきたな。最初からこれが狙いだったのか?」
なにかの問いには貸す耳もなく、先生は逆に問いかける。
「断片を使って奇襲しろ、それがあの方の命令だ。あの三人は命令外、どうでもよかった」
冷淡な口調で答える。
「あの三人は強くなる。お前たちを倒すのは彼らだ」
その言葉を受けても無反応を貫き、動きすらしなかった。
「死人に口無し。永遠に眠るといい"王剣"アルドバルト」
その言葉とともにあたりが闇につつまれ、それは闇の中に消えていった。
光に包まれた僕達は気がつくとあの村から遠く離れた平原にいた。そして遠方で闇が一帯を埋め尽くし、黒色の柱が天に昇るのを目にした。
「先生……」
先生はもういない。僕達を庇って……
みんな泣いた。苦しかった。先生の助けになれなかったことが。悲しかった。先生が死んでしまったことが。
けど、泣いたってもうなにも還らない。前に進むしかないんだ。
「行こう、カイリ、エリス」
ふたりにも呼びかけて僕は涙を拭った。そして先生のいた場所に背を向け、王都プリメソリオへと歩き始めた。
先生がセイエンたちに使ったのは空間移動というイルミナです。半径3kmまで、指定した人や物を移動させることが可能。移動させる量が多ければ多いほど、移動させるために時間がかかります。




