五月雨
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最近雨ばかりだ。そう、五月雨の季節なのである。
「宮、今帰ったよ。」
「おかえりなさいませ。殿。」
うちの殿(旦那)が帰ってきた。この様子じゃ、参内も大変だろう。労りを込めてほほ笑みかける。この夫だが、父の見込んだ通り忠実人で、宿直の日以外はまっすぐ家に帰ってくる。
「帝の物忌みが続いていて、退屈そうだよ。お文でも差し上げたら、どうかな。」
「まあ、そうなんですの。後で書かせていただきますわ。」
なんて気の利く。それていて、そんなに出世にも女人にも興味がないなんてすばらしい。一緒にモブとして埋没しておくれ。理想通りの夫に微笑みがこぼれる。
夫との穏やかな時間を過ごしながら考える。今、物忌みが続いているということはもうすぐ「雨夜の品定め」が行われるのだろう。
どうにかして、誰かにその話をしてもらえないだろうか。そうだ!兄を呼び寄せよう。
「おにいさまはどうされているのでしょうか。」
「光る君は、宿直が続いているようだよ。」
「まあ。おにいさまにもお文を書きたいわ。でもお仕事の邪魔になってしまうかしら。」
「それなら、宿直が終わりそうな頃に渡してあげるよ。君が気にしていたよということも伝えてくるね。」
「なんて頼りになる背の君(夫)・・・」
ほんと、なんていい人なんだ。ありがとう。会いに来るように促してね。私たちは今日も仲良くした。
次の日、夫に二通の文を託した。本来なら、夫のように身分の高い人に手紙を託すなんてしてはいけないのだが、今回は特別だ。
父には、自分の近況や、お会いできなくて寂しいことなど書いた。
兄の手紙には、会いたいことをほのめかした。
うん。これで兄は会いに来るだろう。
と思ったら、すぐに来た。父の返事を持って。
まあ、近衛中将だし、帝の手紙を届けるならギリギリセーフかな?
「久しぶり、僕の姫宮。」
「お久しぶりです。おにいさま。」
お互いの近況報告をする。
「おにいさま、北の方とはいかがですか?」
「うーん。かの方はまだ打ち解けてくれないんだ。」
「まあ。おにいさまが優しくされていないのではなくって
「そんなこと・・・。」
「お噂によると、左大臣家の方にはあまり通われていないとお聞きしてますわ。」
「宮には敵わないな。」
兄は苦笑している。光源氏の苦笑。たいへん美しい。
「うふふ。おにいさまにこんなこと言えるのはわたくしぐらいですもの。」
その時、廂の方から、笛の音が聞こえた。
「どなたかいらしていらしゃいますの?」
「頭中将だよ。こちらにお呼びしても?」
「ダメですわ。」
「どうして?」
「わたくし、徒人は苦手ですの。」
「そうか。そうだね。」
「なぜ、今日はご一緒ですの?」
「今日は、左大臣家に行くんだ。」
「まあ。北の方さまと仲良くお過ごしくださいませ。」
「努力するよ。」
「ところで、男の方ってどんな会話をなさいますの?」
「どんな・・・」
「女性の話とかなさいますの?」
「いや、したことないなあ。」
雨夜の品定めはまだみたいだ。ふうん。いつするんだろう。
「そうですの。またしたら、教えてくださいまし!」
「うん。そうするよ。」
笛の音がやんだ。まずい。こっちに誘われるのを待ってそうだ。
「じゃあ、これで失礼しようかな。」
「はい。またすぐにいらしてくださいませね。」
「ああ、すぐ来るよ。」
そう言って、兄は帰って行った。
頭中将、見たいけど、貞操の危機には合いたくない。
読んでくださってありがとうございます。




