立ち会い
さようなら
次は運命のない命になれますように
あなたたちは、誰かの死にゆく様を見たことがあるだろうか。
私はある。眼前でもがき、事切れる瞬間まで。
彼は数日前から具合が悪かった。
最初は鼻水が出る程度だったが、徐々に悪化し、瞳は濁り、毛づやが悪くなっていった。
そして、座り込んで立たなくなった翌日に死亡した。
その様を、その瞬間を、私は側で見ていたのだ。
ゼエゼエと喉を鳴らし、頭を垂れたのを確認して、私は水を飲みに立ち上がった。
彼はもう長くないだろう。
水を飲み戻ると、弱々しく呼吸する彼を、他の兄弟が嘴で小突いていた。
何をするんだ、ひどいじゃないか! と、私が食って掛かると、兄弟はすぐに引き下がってどこかへ行ってしまった。
分かっている。あの兄弟に悪気はないのだ。
意地悪なことだと認識するほどの知能はないのだから。
ただ、様子がおかしい奴がいて、気になったからつついただけ。
庇ってやっても、もう虫の息。
彼を見下ろすと、目を固く閉じ、息が浅い。首筋の羽毛が逆立っている。
私は彼のすぐ隣に腰をおろした。またいじめる奴が出てくるかもしれないから。
それから1時間も経たないくらいだろう。
ほとんど呼吸音もしないほど静かだった彼が、突然小さく痙攣し始めた。ギョッとなって、右目で彼を凝視した(私たちは顔の横に目がついているので、凝視する時は顔を横に向けて片目で見る)。
それは凡そ2~3分しか続かなかったが、私は胸の辺りがスカスカになったような、頭から血液が全て抜けてしまったような気分でその様を見ていた。
痙攣が止まると同時に、グゥーっと背伸びをするように、足を後ろに、頭を前に伸ばした。
「死の瞬間」が来たのだと悟った。
背伸びしたまま、彼は動かなくなった。
周りの兄弟は、いつも通り何も変わらない。
体温がなくなって、固くなっていく彼を、誰も気にも留めない。
これが日常であり、なんてことはない現実なのだ。
しばらくすると、人間がやって来て、彼を連れていくだろう。
彼の最期を見ていた私自身が、彼が生きていた証になれたらいいのだが。
明日は我が身、身に染みて、足がすくんでしまったようだ。
少し羽毛が逆立つのを感じながら、頭を軽く振った。
さて、餌でも食べに行きましょうか。
生まれてから30日目。