その6
「とりあえずまずは人化して見てください。」
「えーっと、人化!」
一瞬体が光ったと思ったら目線が高くなっていた。
「……ねえ、人化できてる?」
「………………えっ?あ、はい。その、出来てますよ。ですが、あの、そのー。」
なんだ?妙にヴィンセントの反応がおかしい。最初は固まっててそのあと俺から目をそらすように視線を彷徨わせる。
「どうした?」
何かおかしい所でもあっ……た…。
自分を見下ろして固まってしまった。
「いえ、口調から男だと判断しておりましたがまさか女性だったと…「いやいやいやいや!」」
自分でも認めたくなくてヴィンセントの言葉を遮るようにして叫んだ。
「なに!?なに!?なんで!!?」
取り敢えず裸の体を腕で隠した。
パニックを起こしてアワアワオロオロする。
「……………なんていうのは嘘です。(アワアワ)実はパフィンは………(オロオロ)パフィンは………「うわー!」……………………話を聞けぇ!!この、どあほーーーぅ!!!」
ゴチッ!
「いだーーーーーー!」
竜の鉄拳が頭にぶち当たり思わず両手で頭を抱え地面を転がった。
「痛い!痛いよ!バカになったらどうすんの!?」
「安心しろ。それ以上はバカにならないから。」
「なんか切れて口調変わってるよ!?」
「…………ゴホン。気のせいです。」
「いやもう遅いよ!?」
「ふう。で?パフィンがなんだって?」
まだ頭に痛みが残るが取り敢えず落ち着いて座った。
「パフィンには性別が無いのです。」
「え?無いの?男も女も?」
「はい。ですから性欲も無いのだそうです。」
「………それでどうやって増えてるの?」
「さあ?野生に向かないほどの弱体に子供も作れない。それに唯一の光属性を持つ生き物と謎の多き不思議な種族なんです。……………ってなんで私はパフィンに対してパフィンの説明をしてるんですか。」
「だって知らないんだもん。」
ヴィンセントはジト目で俺を見てくる。
「…………………まあ、いいです。では、お別れですね。」
「は?」
立ち上がって言ったヴィンセントの言葉に思わず聞き返す。
「人化も出来たし、そこそこ強くなったし、町でも生きていけるようになったし、服はあげるとしてもう私が関わる必要性はないですよね?」
「来てくれないの?」
先ほど届いた『ドラゴンを倒せ!』のメールを指差す。
「はい。なんか面倒そうだし氷とか嫌いだし面白そうだから鍛えたのになんか神の使いとか関わらない方が良さそうだし。」
「口調崩れてるよ。………まあ、自分でもめんどくさいと思う。けど俺のステータスで勝てると思う?」
「だからと言って私が力を貸す理由にはなりません。」
そう言ってヴィンセントは背を向けてしまった。
"チョットー?ひどいんじゃない?"
頭の中で声が聞こえた。
「お前らか。」
ヴィンセントはシャツの胸元から首に掛けていた大きなルビーのついたチェーンのネックレスを取り出した。ルビーの中心部分が光りヴィンセントを非難するようにチカチカする。
"あれはあんまりだな。"
今度は若い男の声。
"つまんなくなって捨てるとかサイテー"
さっきの女の声。
"………かわいそう。"
今度は幼い女の子の声。
"おい!お前ならドラゴンくらい朝飯前だろ。"
野太いおっさんの声。
「何を根拠に……」
"根拠なんてないけどあの子一人で戦わせるの?死んじゃうよ?"
"………まだ弱い。"
「ていうか、俺が倒していいのか?神からあいつへの依頼だぞ?」
"手伝いくらいしたっていいだろ!"
"二週間も一緒にいたのに情もわかないの?うわーマジないわー"
"………拾ったものは最後まで面倒をみましょう。"
"エリカ、あの子はペットじゃないからな。あーかわいそ。すっごい困ってる。"
ちろっと後ろを見るとスマホ?を握りしめうつむいている。
ぐむむと唸りながら自分のステータスを睨みつける。
無理だ。絶対勝てない。
スピードはドラゴンくらいあるけどドラゴンよりかはほんの少し遅い。その他のステータスもドラゴンと渡り合えるとは思えないほど少ない。
でもあのせっかち神は俺を使えると言った。今のステータスでも止められるから(・・・・・・・)…………………ん?止められる?
「あっ、そっか。」
もう一度メールを確認する。
『氷属性のドラゴンが暴れてるから止めて来て!』
倒せ!じゃなくて止めて!だ。
「止める。なんとかなるかな。」
ほんの少しだけ希望が見えた気がする。
これが俺のご都合解釈じゃないといいが。