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序文 ――これは、その旅が始まる前のことから、語る
影が、形を持っていた。
峡谷の壁から滲み出るように現れた影は、人の形に似ていたが、輪郭が定まらない。集まっては散り、散っては集まる。その影が、一つの方向に向かって動いていた。
アウラ、と、ノアは叫ぼうとした。声が出なかった。
代わりに、体が動いた。影の前に立ちはだかった。手を伸ばした。影に触れた瞬間、手が触れた場所から波紋のように歪みが広がり、影が後退した。
――これが、俺にできることだ。
ノアは思った。大きくはない。正しいかどうかもわからない。でも、今できることをするしかない。
カルノを出た日から、四十日が経っていた。
――これは、その旅が始まる前のことから、語る。




