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とある男子高校生の魔王な日常  作者: 沢森 岳
18/20

18.魔王は破滅をもたらさない

魔王にとっては、姿かたちなど、どうとでもなるのですよ。

勇者もだけれど。

荷物だっていくらでも小さくできるのです。

便利でうらやましいですね。

 俺たちは、前回と同じようにシュタイアの町の郊外にある丘の上に転移(帰還)した。

 この丘は魔力を集めやすくて、俺にとっては都合が良い。

「バーゼリッツ司恊様はどこにいるんだ?」

「枢密院は王都にあるわ。道案内は不要でしょ?」


 まあ俺でも王都の位置はわかる。遠くからでも目立つから飛んで行っても迷う事はないだろう。だけど王都の中では迷う自信があるぞ。枢密院にたどり着ける気がしない。

「じゃあ、先生を見失わないように、ちゃんとついて来てくださいね~」

「はーい」


 俺たちは烏に姿を変えて風に乗り、空から王都を目指したが。

「おい、なんで烏が白いんだよ?」

「だってこの方がかわいーじゃない」


 白と黒の烏は仲が良いのか悪いのか、しきりに鳴きながらお互いを牽制しているようにも見えたが、やがて競争するように高度と速度を上げて見えなくなっていった。


 §


 王都の城壁を飛び越える白黒の烏を見た者が数人いて、ちょっとした話題にはなったが、その後見かけた者はいなくて、すぐに忘れ去られた。目撃者はほら吹きの嫌疑を掛けられて、いささか迷惑を被ったらしい。


 フジサワ先生は少しも迷わず協会本部に隣接した区画の枢密院に向かい、堂々と正面から尋ねた。

「ブライアン・バーゼリッツ枢機恊への面会をお願いします」

 そして、本日は予約のない方との面会は困難です、との返答を受け付けの方から頂いた。


 俺たちはあっさりと引き下がったが、枢密院内にいることは確認できた。

「それじゃ、執務室に入らせてもらいましょう」

「案内ヨロシク」


 二人は揃って蜜蜂に姿を変え、換気窓から枢機恊の執務室へと難なく侵入した。蜜蜂へ姿を変える魔法は俺からエリーに教えたが、体格の大きく違う姿に変えるのは、それが小さかろうと魔力をたくさん使う。枢機恊本人が部屋にいないことを確認すると俺たちはすぐに元の姿に戻り、勝手に机の周りを調べ始めた。


「机一つとっても広くて豪勢だな」

「以前は、むしろ誇らしいとさえ思えたんだけどね……」

 本来の姿を晒したエリーが、ある書類に目を通して声を上げた。

「これ……小さな子供の調査票だわ。三枚、三人分ある」


「次の手駒を物色中ってか。こっちに凄いのあるぜ、見せてやるよ」

 そう言って俺からエリーに見せたのは、勇者エリーの葬儀に関する計画書だ。予定は半月後。なんだよ、もう死んだことになってるじゃないか。


「殉協者として、立派な肖像画は程なく出来あがる、となってるな」

「そんな……」


 ある程度覚悟をしていたとはいえ、やはりショックはあるのだろう。俯いて様々な思いが巡るのを抑えていると、ドアの向こうから音が聞こえた。足音、次に鍵を開ける短い呪文、そしてドアが開く蝶番の音。俺たちは書類を戻して入室者を迎えた。



「む、誰だね、……君は、エリーじゃないか」


 入ってきたのはこの部屋の主、バーゼリッツ枢機恊だ。驚きつつも、後ろ手にドアをしっかりと閉じて毛足の長い絨毯を踏みしめた。

「エリーなんだね、本当に。ああ、よくぞ無事に」

「バーゼリッツ様。わたし、あの……」


「そちらの者は?」

 と、俺に視線を送る枢機恊。俺は目を閉じて深く頭を下げた。

「か、彼は、私の従者です」

「ああ、そうですか。では二人とも、立ち話もなんですから、こちらにいらっしゃい」


 枢機卿は、隣の部屋へと続くドアを開けて手招きする。その振る舞いと笑顔は至って紳士的だ。エリーが枢機恊に肩を抱かれておとなしく導かれていくので、俺もそれに従って隣室へ入ろうとしたら目の前でひとりでにドアが閉まった。


 そして、かわりに廊下へと通じるドアが開いて、警備員らしき男が二人ほど入ってきた。


 §


「あ、あのう、アキラは?」

「アキラ? ああ、従者君には隣室で控えておいてもらうよ。私達には大事な話があるからね」

 ついさっき自分で言ったこととも違っているが、気にする様子はない。その隣室からは、どたばたとした大きな足音が聞こえてきたが、すぐに静かになった。


 執務室と同じくらいの広さの、こちらは応接室ということになるだろうか。それにしては天井付近に明かり取りの小さな窓があるのみで、少々薄暗い。

「さすがは勇者エリーだねえ。魔王にとどめを刺してきたのだろう? 奴の最後はどんな様子だったのか、私に聞かせてくれないか?」


 これまではちっともそうは思わなかったのに、今は枢機恊の話し方が妙に鼻につく。両肩を掴まれるのにも、これまでにない嫌悪感のようなものを感じる。

「あの、枢機恊様。私は魔王の転生者を見つけました。ですが、あの世界には魔法がないのです。そもそも魔力がほとんど存在せず、何もできない存在でした」


「ほう、魔力がないか。それは面白い。……で、殺したのだろう? どうだった? 泣いて許しを乞うたか?」

「い、いえ。あの者は放っておけば何も出来ず死にます。だから放置しました」


 すると目の前の男は、少し考え、解せぬ、腑に落ちぬという様子で視線を泳がせた。

「なんだと? 何を言っているのだ、エリー。あの者は、この私を侮辱したのだぞ。この私を、弱き者と見下し、蔑んだのだ。それがのうのうと、新たな生を全うするなど許されん!」


 目を見開いて、エリーの肩を掴んだ手に力がこもる。

「バーゼリッツ様、い、痛いです」

「それをキサマは見逃して戻って来たというのか? この役立たずが。転移魔術にどれだけの手間暇をかけたと思っているんだ!」


 怒鳴り散らした後にバーゼリッツはやっと手を離したが、エリーは身体が動かなかった。

「ちいっ、腹が立つ。であるならばエリー、オマエに贖ってもらうぞ」

「ど、どういうことですか……」

 声は出せるが、エリーの体は動かない。いや、動かせない。


 自分を押さえつける魔力を感じるが、それを振り払う、或いは抵抗する力が出せない。

「ふん。動けまい? この部屋には私以外の魔力を抑制する結界がある。魔王を屠った勇者といえど、この私には逆らえんのだよ。ふふふふふ」


 バーゼリッツは壁際の棚から黒革のベルトを取り出すと、動けないエリーの首に巻きつけた。

「隷従の首輪だ。今後一切、私の命令には逆らえんから、しっかり奉仕するのだぞ」

 そう言うと、エリーの体を押さえつけていた力が不意に消えて、よろめいた。


 首輪はぴったりと首に張り付いていて、指を差し入れる隙間もない。

「ひざまずけ」

 バーゼリッツが一言告げると、エリーにはどうしても跪かなければならない強烈な衝動が沸き上がった。

「ううっ……」


「ふふふ。そうだ、素直でよろしい。これからしっかりと躾けてやるからな」

 人の精神に直接作用して操る類の魔術は、もちろん公には禁止されている。隷従の首輪などとは、これまた禁忌に触れるアーティファクトだろう。しかし、バーゼリッツにはその使用を躊躇う気配などない。


「誠に残念ながら、勇者エリーは魔王と刺し違えて亡くなられた。偉業を讃え、盛大に葬儀を執り行おう。よもや戻ってくるとはいささか驚いたが、ここにいる小娘は、もはや従順なる奴隷でしかない。私を(おびや)かすものは、もういないのだ。はーっはっは!」


 両ひざを床につき正座のような姿勢のエリーの前で、タガが外れたようにバーゼリッツは声を荒げた。

「わ、私はバーゼリッツ様を(おびや)かそうなどとは……」

「戯言を! その類まれなる素質が、力が、私の障害にならぬという保証などない!」


「そんな……」

 エリーは相変わらず、己の体を自由に動かすことができずにいた。


みんなに愛された勇者エリーは死んだ! なぜだ!

とかなんとか言うつもりでしょうかね。


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