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とある男子高校生の魔王な日常  作者: 沢森 岳
17/20

17.理科棟の不発弾

我が校の暖房はオイルヒーターです。

むき出しの、デ〇ンギみたいなやつ。

お弁当も温められるのが良いところ。

……とかなんとか誰かが言っていたかもしれません。消息筋の情報では。

 年度末が迫るともう伝統行事は無くて、三年生は進学に就職にとそれぞれ忙しい。という事にしておこう、うん。部活動に参加していれば引き継ぎなどがあったりするのだろうが、野外活動同好会はいまだ俺一人だ。


「ねえ、理科棟の隅にどう見ても砲弾らしきものが置いてあるんだけど、あれ何? ちゃんと重いんだけど」

 なかなか更新されない公立高校の建物群でも、理科棟は一番古くて薄暗い。半世紀以上はゆうに建っているのだろう。


「戦争の時の不発弾とか言われてるけど、俺も知らん。砂でも詰まってるんじゃね」

 化学の先生がどかん、とか大声出して生徒をびっくりさせて楽しんでいたのは覚えている。偽物だろうと、なんでそんなものが置いてあるのか、ツッコミどころが幾つもある。


「そういやヴァーラでは、爆弾の炸裂を模した魔術ってないよな」

「そうね。存在していないから、想像できないモノは再現できないって事よね」

「その点俺たちは想像できるものが増えた分だけ、魔法のレパートリーも豊富よな」

「アンタ、何か企んでるわけ?」

 ちゃんと俺のことを監視しているという事ですね。


「俺が、じゃなくて、オマエが、ヴァーラに帰ったら、それこそ伝説になるほど活躍できるんじゃないか?」

「こっちの知識をあっちに持ち出すんじゃない、ってアンタの言葉でしょうが」

「でもさ、想像できちゃうモノは仕方ないかも、って思ってな」


 二ホンの一年で一番寒い時期、俺たちは真相を確かめる為にもう一度ヴァーラへ向かおうとしていた。


 ヴァーラにおいて、と言っても俺も自分の住んでいた亜大陸以外はあまり知らないのだが、協会こと世界魔術師協会は各都市に支部を構え、魔術師たちの互助と魔術研究のために存在していた。


 遠い昔には、魔力を操る者はそのまんま魔者などと呼ばれて忌避される地域が多かったようだ。魔者たちは相互扶助のために結社を組織して啓蒙や地位の向上に勤しみ、その甲斐あって今や協会といえば立派な権威と見なされるまでになった。


 魔力を操れる者を魔法使い、その中でも協会に属して魔術の研鑽に勤しむ者を魔術師と称した。現在はむしろ、魔力を操ることが出来ない者たちを見下すような風潮まであるような気がする。


 そんでもって俺は魔者を配下に従える魔者の王と認定されて、協会の意に沿わぬ者として、言ってみれば迫害された。結局、自分たちのために動く組織って事なんだよな。

 エリーはそんな組織に英才教育と共に育てられて頭角を現し、魔王を討伐する勇者と認定された。でもね、俺は協会には反発したけど、人類全体に危害を加えようなんて思ってなかったよ?


 エリーが教えられた内容では、俺は相当に悪逆非道な存在だったらしいし、自分が魔王を討伐して世界を救うんだ、みたいな使命感に燃えていたのだとか。

「アンタの持つその魔力貯蔵量は、たしかに他の人から見れば脅威よね」

「同じことがオマエにも言えるって事だぜ。俺たち二人はヴァーラにあっても抜きん出てる」


 前世の俺は、十歳くらいからは意図的に自分の魔力を隠蔽するようになっていた。つまり意図的に制御ができた。だが俺が大きな魔力を扱えるようだというのは既に隣村の奴も知っていた。いずれかの時点で協会にも知れるようになったと思う。


 同じように、エリーの場合も幼いころからの素質を村の中には知っている者がいたようだ。ピティナ村には人が多く、訪れる人も多いから、割と早くに協会はその存在を知ったことだろう。そして、素質ある子供の両親は狼に襲われ、哀れな子供は慈悲深い協会の庇護をうける。


 俺を庇護下に置こうとして失敗した協会は、次には俺に対抗できる力を探してエリーに目をつけたのではないか。そうなるとエリーの身の上に起こった出来事の要因は俺にある事になるが、ごまかすわけにはいかないだろう。


「俺が因果に関わっていると思うから、俺は今こうして動いている」

「アンタの言ってることは妙に辻褄が合っていて、私は困惑しているってのが正直なところ」

 二ホンに戻ってきて、俺たちはこれまで以上に会話を重ねた。お互いの疑問にできるだけ真摯に答えて、理解は深まったと思う。そして協会に対する疑念も深まった。


「……そうなると私は誤解の延長線上でアンタを斃したことになる。自分が許せなくなっちゃうわ」

「そこは、俺はこの世界に転生できて良かったと思ってるから、気にすんな」


 珍しく雪が積もって地面がうっすらと白くなった二月の初旬、俺たちは管理棟四階の宿直室でキャンプ道具の手入れをしながら、ヴァーラへ向かう準備をしていた。雪は少ないが、この地方の冬は冷たい北風が強く吹くことが多くて気温は結構下がる。


 いきおい野外活動同好会の活動はこの宿直室の中、ストーブをつけてこたつに入ってることが多い。サークル活動と称して畳の部屋でこたつでお茶してるんだから、ちょっと人には言えない。

 そもそも今からやろうとしていることは、とてもじゃないがこの世界の人には言えないが。


「アンタの言っていることが口からでまかせだったら、協会の総力でアンタを今度こそ斃すことになるのかな?」

「それを俺に疑問形でぶつけるな。なんて答えりゃいいんだよ、ったくもう」


 根本的に、エリーが危険を冒してまで俺を追いかけてこの世界に転移してくること自体、その必要性には疑問がある。放っておけば、俺は二ホンを満喫して静かに死んでいった可能性が高いのに。


 だが俺の強さを恐れるあまり、戻ってくることを心配して落ち着かなかったのだろう。権力者が、自分の地位を脅かしそうな相手を前もって消そうとするのに似ているかな。


「ナイフは持ったか?」

「もちろん。これを握るとダーナレグがすぐに顕現するわ」

 自分の想像力ですべてを賄うよりも、それを助けるアイテムがあると非常に効率が良いのだ。だから魔法使いは様々な補助具を使用する。よく杖を振るうのは、魔法の発現する方向や地点を指定するのが楽だからだ。


「ところで、アンタが醤油とマヨネーズを持って行くのはどうして?」

「こ、これは単なるマイ調味料だ。ヴァーラに残してきたりはしないから、見逃してくれ」

 今回はヴァーラ時間で数日間かかるかもしれないので、そう思ったら醤油が欲しくなった。鈴木あきらはやっぱり日本人なのだ。ヴァーラ料理には一味足りないと思ってしまう。


「マヨネーズはヴァーラでも再現できそうよね。あってもおかしくはないわ」

 そう言いながら、フジサワ先生はチョコレートをどれだけ持って行くかで迷っていた。


 作戦は至って単純だ。結局のところ、バーゼリッツ司恊本人に聞いてみようと思う。奴はいまや協会の最高幹部である枢機恊という立場で、秘術や禁忌術を取り扱う枢密院の院長だそうだ。


 俺の魂を肉体から切り離して吹き飛ばした魔術は禁忌術だろうし、転移の魔術は門外不出の秘術に違いあるまい。

「やりたい放題だよな。清廉潔白とは到底思えないね」

「……まあ、確認してみましょ。私も今は、もうかなり疑っているのだけど」


 午前中に身支度を終えた俺たちは、こたつとストーブを消して、ちょっと外出とばかりに上着を羽織った。

「それじゃあ、行ってくるか」

「ええ」


 ドアを開けもせず、二人は宿直室から忽然と消え去った。


醤油の再現は難しいでしょうが、マヨネーズはできそうな気がします。

チョコレートは、カカオが存在しているかどうか、がまず重要ですが、……きっとどこかにあるのでしょう。



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