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剣客ウルフ  作者: ポチ吉
落刃白虎

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53/53

ファンブル

 静の剣は心の剣だ。

 そう言う意味では心が揺れやすい狛彦はやはりそちら(・・・)の才能に乏しいのだろう。

 例えば、鈴音。

 産まれながらの達人(アデプト)であり、静の拳の申し子である彼女であるのならば、例え父親の死を告げられても揺れない。揺れず、尖らせ、深く潜り、拳の深度を上げる。

 怒りに悲しみ。そう言った感情を爆ぜさせることなく、かと言って封じることもなく、静かに、そっと、鋭く研ぐ。

 鈴音にはそれが出来て、狛彦にはそれが出来ない。

 身内。大切な人を傷つけられた場合なら猶更だ。

 それでも狛彦は静の剣を選んだ。

 選び、鍛錬を積んだ。

 そうである以上、流石に常人よりは立ち直るのは早い。


「? どうしましたか、狛彦くん?」

「……や、何でもないよ、リオンちゃん」


 まぁ、美少女の胸を借りて泣けば大抵の男子は立ち直るかもしれないが。

 時刻は夜。

 人工的な雨は何時しか止み、そうしてから今度は人工的に太陽が落とされた積層都市の夜。

 そんな中、狛彦とリオンが並んで歩く。

 人通りは少ない。計画降雨を嫌ってのモノだろう。それは想像がつく。


「……」


 ――あぁ、クソ。やらかした。


 口の中。音にせずにそんな言葉を転がす。

 雨に濡れた土とプラスチック道路から昇る独特な『雨の香り』。そこに人の匂いと鉄の匂い、それと銃の匂いが混じっていることを狛彦の鼻が捉えた。

 監視はされていた。間違いなく。相手はリオンを殺そうとしているのだから当たり前だ。だからこうなる(・・・・)可能性は頭にあった。あったが、あの時は動けなかった。動く気がしなかった。


 ――請負人(ランナー)稼業は何時だって“最悪”が起こる。


 それは誰が言った言葉だったのか? 生憎と狛彦は覚えていない。覚えていないが、それは請負人(ランナー)達が知る世界の真理の一つだ。

 囲まれていた。

 数は一個小隊程だろうか? 三十と少し。四十は行っていない。多分。

 上層の居住区画故にアサルトギアは持ち込めなかったのだろうが、それでも狛彦の“鼻”の範囲の外から囲み、逃げられる前に円を小さく出来るレベルの相手。

 計画降雨の後で人が少ないとは言え、大胆過ぎる一手。恐らく警察機構に鼻薬(・・)を嗅がせているだろうが、ここまでの一手だと次は打てない。つまり、ここで決める気だ。「……」。まぁ、気持ちは分かる。相手の、この場合は狛彦達の打った一手が悪すぎる。馬鹿すぎる。弱った請負人(ランナー)を慰める為に護衛対象がろくな護衛も付けずに外に出る? 最悪だ。最悪だから、付け入る。当たり前だ。

 サイコロを転がしたら何時だって出るのはファンブル。

 請負人(ランナー)の世界では『こうだったら良いな』は無視されて『こうなったら嫌だな』だけが発生する。だから――


「サイボーグは自分が持つ。貴様は――」

「あっちの俺達(・・)用の達人(アデプト)三人っと――あいよ」


 請負人(ランナー)は最悪に備えている。

 狛彦とリオンの間に音無く、ふわ、と奏介が入る。嗅いだ匂いの中で一番嫌だった臭いで、嗅いだことのある匂いの持ち主。それが被衣(かつぎ)と共に風に乗って柔らかく広がった。

 まるでここは自分の縄張りだ、と主張するように奏介。

 そんな奏介に背中を押される様にして狛彦は一歩を踏んだ。








 ――さて。

 と、狛彦が視線を奔らせる。

 方天戟、トンファー、それと――鉄鞘に収まった倭刀。

 狛彦と鈴音と奏介。その三人を達人(アデプト)で足止めをして、その間に小隊がリオンを殺す。雇い主はそう言うプランだったのだろう。

 だが殺し屋(コヨーテ)達は正面から来た。


「……」


 多分、本職の殺し屋(コヨーテ)ではなく、兼業の荒事屋(ディンゴ)なのだろう。冷たい仕事(コールド・ビズ)に徹することなく、武人としての側面が前に出ている。

 その証拠に――と言ったらアレなのだが、どうやら三流殺し屋(コヨーテ)達は武人として一人づつ来てくれるらしい。「……」。今度はあちらにファンブルが出て、こちらとは違ってそのバックアップも無かったらしい。雇った達人(アデプト)が馬鹿だ。非常に有難い。

 そんなことを考えながら、鯉口を切り、重心を沈め――


「――――――――――――――」


 錬氣。熱された白い吐息が口元から煙の様に立ち上る。

 それを見て、方天戟を持ったロングコートが「ほぅ?」と笑い、前に出た。


「紅天流、井村屋兵八。人呼んで――“今呂布”」

「烏丸流刀鞘術、烏丸狛彦。人呼んで――“黙刃木偶”」


 名乗り。そして――


「――参るッ!」

「おぅ来いやぁ!」


 開戦。

大丈夫?その二つ名、名前負けしてない(`・ω・´)?

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― 新着の感想 ―
アンパンマン(顔が無くなる)
きっとアタマから触覚2本生えてるんやろなあ
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