逃亡/開戦
請負人ネームには二種類ある。
自分で名乗るか、他人に付けられるか、だ。
当然、後者の方がその請負人の特徴がしっかりと表すことが多い。人は意外にも――と言う程でもなく、自分のことが良く分からないモノだからだ。
リンダは前者だった。
そして後者でもあった。
自分から名乗り始め、由来を訊かれて答えた所、後者、周りにも“そう”認識された。
好きな歌があった。
旧時代の歌だった。
美しくなりたい――とは思わなかったが『その』生き様、強さ――と言うか強かさを知っていたから『そう』ありたいと思った。
――臆病で、直ぐに逃げるお前にはぴったりだ。
嘲笑と共に投げられたその評価も、犬系の請負人であれば弱さとなるが、鳥系の請負人であれば立派な強さだ。
「あ、まじぃな、これ」
だからその時も真っ先に気が付いた。
視界に表示したメッセージツールにぽこん、と押されたスタンプ。女子高生に人気だから――と、分かりそうで良く分からない理由で機械油で汚れた手のおっさんが入れているソレ。口紅をして、女装をしている犀のスタンプ『ごめんなサイ♡』。「……」。とてもウザい。
とてもウザいが、そのスタンプを受けた時点でそいつとの対話を仮想人格AIに任せて、部下に何かを命令することなく、リンダは逃げ出した。
プログラムを奔らせ、機体の調子を三回チェック。特に気密関係は重点的に。
「どしたんすか、ボス?」
「あァ、ちょっとな……」
こちらの様子に何かを感じ取ったらしい部下の一人におざなりな返事を一つ。
所詮はネットで募集しただけの使い捨ての駒だ。警告してやるよりも、このまま作業を進めて貰って食い付いて貰った方が良い。少しだが時間が稼げるだろう。
そう判断しながら、先程まで決して近付こうとしなかった排水に近づいていく。
「……」
四機の二足歩行戦車。二機がアイドリング運転で武装コンテナをトラックから降ろして開封中。残る二機の内の一機はその武装を装着して、照準等のチェックを行っており、残る一機はVR酔いでダウンしている。「……」。腕利きと訊いてたンだけどなぁ……。掴んでしまった商品に対する愚痴が出そうになるが、それを飲み込む。
二足歩行戦車は良い。どうでも良い。
問題は――人型戦闘機。
鳥の羽を模した金属翼と足の裏、腰、それと背中にロケットを持つ空を飛ぶ人型。
飛行工学を力任せに捻じ曲げ、脳が操縦しやすい形にした人の形をしたモノ。
飛べる変わりに歩くのが苦手なソレは今、トラックの荷台の専用ラックに鎮座していた。流石に隊長だけあってVR酔いになる様な無様は晒していないが……この後、上層へのエレベーター使用に備えて武装はコンテナに隠したままだ。
流石にあのままは拙い。そう判断して、リンダが最後に遠隔で割り込んで武装コンテナのロックを外す。
「……おい?」
突然開いたコンテナ。そこから足元に展開された多連装チェーンガンを見て、人型戦闘機――アインスが『何の真似だ?』とリンダを見る。「――」。リンダはそれに答えることなく、排水の中に飛び込んだ。
飛沫が上がり、白く細かい泡が水面に浮かぶ。その突然の奇行に空気が固まり――
同時に武装チェックをしていた二足歩行戦車が弾け飛んだ。
――氣は心に宿り、心は無量無辺。
――それ故、業を極めた達人に出来ないことは無い。
成ればその結果は必然であったのだろう。
手の平に収まる小さな棒手裏剣であっても、氣を込め、身体を正しく使えば戦車装甲すらも貫き徹せる。
これこそ鏡月式手裏剣術が一手――
「――弐式・砕」
「「「!?」」」
声がした。鈴の音の様な声がした。声の出何処を振り向いて見れば、白い少女が居た。
髪は白く、肌も白く、その身に纏うテックコートも白い。
汚れ一つない少女は先程の一撃を放ったのが自分であるとでも言いたげに投擲後の残身を晒して――
「……今のは違う」
隣に立つ赤いテックコートの少年に否定されていた。
「……何ですか? 何が違うんですか? ちゃんと砕いたじゃないですか?」
文句を言うなら蹴りますよ? と蹴りながら言うお嬢様に、ノーノー、と首を振りながら狛彦。
「アレは違う。技じゃない。ただすげぇ強引に氣を込めて、剛速球投げただけ」
武ではあるかもしれないけど、武術ではない。
だって投げ方が下手過ぎて棒手裏剣、刺さってないもん。腹から当たってるもん。
「……でも私の方はちゃんと壊してますよ? 貴方が担当した方は無事じゃないですか?」
だから私は失敗していない。アレはちゃんと鏡月式手裏剣術。弐式・砕だと鈴音。
「ちゃんと脳貫いてるから殺してますが?」
無駄な破壊をしてないのです。野蛮なあなたとは違うんザマス。
そんな狛彦の言葉に合わせる様にしてVR酔いでダウンしていた一機が、ずるり、と崩れた。金属であれ、人を模し、人の脳が動かし易い様にしていたからだろう。まるで肉の様に流れた。
「……。それで? どうするんですかジル? 情報持ってそうな運び屋、逃げちゃいましたけど?」
キチンと請負人ネームで呼びかけつつ、露骨に話を逸らしてくる鈴音。「・……」。それにちょっと言いたいことはあったが、遊んでいる暇はないので、ため息を一つ。
「あァ、うん。流石にあの水ン中は耐性あっても生身の俺らじゃきついから――」
「諦める。運び屋の部下っぽい人達はバイトっぽいから生死問わず。まだ情報もってそうな二足歩行戦車は手足捥いで一機は確保するとして――」
「隊長と思われる人型戦闘機は絶対に確保、と」
ちょっと遅かったな、と愚痴る様に狛彦が締める。
その視線の先には人型戦闘機。
あの運び屋は中々に優秀だ。最後の最後。自分が逃げる時間を削って非常にいい仕事をしてくれやがった。
見上げる視線の先。
ぼ、ぼぼ、と空気が爆ぜる音と共に浮かびあがる人の形。即ち人型戦闘機は完全武装だ。
「……」
飛ばれるのは仕方ない。そこはもう諦めていた。その為に多めに手裏剣も持って来た。落とす。そのつもりで来ていた。だが――
「武装、させる前に動くプランでしたよね?」
「……」
どうするんですか? と訊かれるが、どうしようね? と相談したい。それが狛彦の本音だ。本音だが、言っても仕方がない。だって普通に銃口がこっち向いてる。だから――
「墜とす」
「そうですか。では任せましたよ、ジル」
「……二人でやらね?」
「やらね、です。二足歩行戦車も放置って訳に行かないでしょう?」
「……じゃんけん」
「しません。私、軽功そこまで得意じゃないですから」
貴方と違ってそこまで跳べませんので、と鈴音。
「……」
でも。でもぉー、と視線で抗議してみる狛彦。
「諦めて下さい。ほら、狛チュー、貴方に決めました」
こうかはいまいちだ!
今一どころか、トレーナーから命令が来てしまったので――
「……こまー」
狛チューは鳴き声を上げて鯉口を切った。
・狛チュー
イヌかアデプトポケモン
№114514
こしのうしろに わきざしを もつ。
ピンチのときに ばっとうする。
(ずかんナンバーをしてきするとバレるな……)
・わざ
へんしん
からすまりゅうとうしょうじゅつ
もくじんでく
そらを跳ぶ
やっと戦闘シーンが書けるぜー(◎ω◎)ハァハァ




