対ゾンビ殲滅作戦
副長のウォードがピチピチのジャージを着こなしながら2年A組で瑞萌先生と打合せのため、雑談をしていたキャプテン・ファルベリオスの元を訪れていた。
「どした副長?」
「今お時間よろしいでしょうか?」
「いいぞ、瑞萌先生は大丈夫だ話を続けてくれ」
ひょこっと頭を下げる瑞萌先生の愛嬌のある仕草に思わず笑みがこぼれる。
「実は融合体を含めた感生体を大幅に減らしておく必要があると進言します」
「して副長はどのような作戦を提案するのか?」
”
はっ!
この台間フォートは、地球人類並びに我々ヴェンディダールにとっても重要な戦略拠点であります。浮上作戦における震動や轟音で感染体と融合体は間違いなく集まってくるでしょう。
そこであらかじめ離れたポイントに奴らを誘導し、殲滅し大幅に削減てしまえば台間フォートの安全確保にも繋がりますし浮上作戦での人的被害のリスクを大幅に軽減できるものと思われます。
”
「……瑞萌先生はどう思う?」
ウォードが敬意をこめてお辞儀をする。ファルベリオスがここまで信頼する人物をウォードはクルー以外にはほとんど知らない。
「ありがたいのだけど、みんなが怪我したりゾンビにならないようにものすごく、細心の注意を持って、めっちゃ気を付けてくれるなら……でも心配ですよ!」
ウォードは直感的に理解した。
このように素直に感情を表してくれる人だからこそ、なのだと。それはウォードにとっても心地よく尊敬に値する慈悲深い人だと思えた。
「よし、人員は限られるがやってみる価値はある。してその作戦プランだが?」
「作戦立案には陽介殿も関わっておられます」
陽介の立案した作戦はこうであった。
ナノクリスタルを使って精製した大音量のスピーカーと、古くなってしまって使い道のない廃棄予定の血液パックを用いた感染体誘導作戦。
「ワールドウォーZの最後に人類が反撃するシーンが出てくるんだけど、スタジアムにスピーカーのような機器を設置してそこを空爆するんだ。今回はその作戦を参考にさせてもらおうかと」
”
台間フォートから南の渋谷スクランブル交差点に、大音量スピーカーと廃棄予定の血液パックを噴霧してい奴らを誘き出します。
道路は未だに廃棄車両で溢れているので、ホバーバイクを精製して移動。スピーカーと血液噴霧用ドローンを設置。
さらにヴォルケーノマインを大量にばらまいておきます。
これはウォードさんたちが帝国軍から大量に鹵獲したものが武器庫にしまってあって邪魔だというので、提供してもらうことになりました。
”
作戦は即日実行された。
古き良きSFに出てきそうなホバーバイクに二人で乗り、廃棄された乗用車の上を軽やかに飛んでいく。乗りなれたミフユやロッド、さらにはSAT隊員でバイク好きの守田など5台で山手線沿いの道を吹っ飛ばした。
皆普段とは違う景色であり、特に守田たちはかなりのご機嫌である。
街中のゾンビの数はあまり多くなく、代々木公園を通りすぎたあたりでやや数が目立つようになっていた。
全員がバリアスーツを着用しているので、ふいにつかまれても対応はできるが可能な限り接触は避けなければならない。
明治通りとの合流地点では数十体のゾンビがただ群をなしてぼーっとしており、気づかれたと同時にミフユが素早くビームマシンガンで無力化してしまっている。
「やっぱすげえよこの武器。これ映画とかだったら気付かれた!ってなっちまうだろ?」
「静音性といい威力といいオーバーテクノロジーだぜまったく」
「はいはいさっさとセットしてさっさと帰るわよ」
「了解」
ミフユの後ろには陽介が乗り道案内をしているが、彼女のスーツ越しに伝わる体温と肌の感覚に意識を奪われないように必死だった。
途中で守田がからかうような視線を投げてきている。
渋谷スクランブル交差点。ここには無数の廃棄車両と戦闘したと思われるゾンビの死体、投げ捨てられた鉄パイプや千切れた手足が白骨化したものなど、凄惨極まりなり事態となっていた。
むしろ、こういった状況こそ現実なのだと陽介は思い知らされた。
「二人一組でヴォルケーノマインをばらまいたらここに集合。可能な限り戦闘は避けて最後に大音量スピーカーを搭載したソーラーエンジン搭載のドローンと血液噴霧ドローンをオートに設定して離脱。いいわね?」
「問題ない」
ミフユと陽介は北側にホバーを走らせながらヴォルケーノマインをばらまいていく。
遠隔式のリモコンで同時起動するようになっているので、特にばらまく際の操作は必要ない。
「あと半分ぐらいだよ」
「ねえここにはもう生存者いないよね?」
「うん。ここまでゾンビが多ければいないはずだよ。それにスピーカーからは一応退避するように勧告がされるし、避難所の案内も放送されるから大丈夫だよ」
「生存者がくるといいわね」
「瑞萌先生もそう言ってたし、ドローンで捜索するように手配するって」
ベテランのSATとミフユたち、さらにオーバーテクノロジーのビーム兵器があればスクランブル交差点への侵入ミッションなどという危険極まりない任務でさえ何の障害もなくこなしてしまうことができる。
ちょうど台間フォートの入り口で、帰りを待っていてくれた住民や海賊船クルーたちが出迎えてくれていた。
もし生存者がいた場合の脱出時間を考えてのおよそ6時間後。
日が暮れて辺りが暗くなった19時過ぎ。
南の空に複数の爆発と赤い炎の柱が無数に上がった。
焼き尽くされて悲鳴すら上げられないゾンビの大群。
血の臭いと音で集まったのはイクスの分析では100万に近い数であったという。
せめて安らかにと、台間フォートでは僧侶の資格を持つ長谷川が布を袈裟衣風に羽織ってお経を唱えていく。
犠牲になったすべての人の冥福を祈るため。
その読経は1時間ほど続き、人々はようやく弔いという人間らしい行為を行える余裕ができたこと、もう二度と愛しい人に会えないことを思い出し涙した。
そして……ミフユと陽介もまた。
供養のための軽い酒宴が落ち着き、夜の屋上にやってきた二人は、東京に灯る明かりのいくつかを眺めながらすっかり綺麗になった夜空の星々を見て語り合った。
「ねえ、陽介は私を助けて後悔してない?」
「助けなかったら一生後悔してたよ」
「こんな日がずっと続くんだって思ってた。ヴェンディダール号脱出の見通しが立ったらしいの。台間フォートに影響を与えないように原子分解砲でトンネルを掘りながら地上へ出るようにするんだって」
ミフユの目には涙が零れ落ちそうになっている。
「ミフユさん?」
「私ねクルーのみんなは心配だから絶対探そうって思ってた。でもね、もう掘り出さなくたっていいんじゃないって心のどこかで思うようになっていて、そのなんでだろうね、不思議だよね。超銀河帝国の奴らに対する怒りや憎しみは絶対に忘れてないのに、どうしてそう思うんだろうね」
夜風に靡く銀髪が星々の輝きに彩られる様は、天上の女神が舞い降りたような美しさだと思った。
その涙さえ星の海へ零れ落ちる宝石のような輝き。
ミフユが言いたいことをなんとなく理解していた陽介。でもこういうときなんて言えばいいのだろう。
遠い世界の別の惑星で育った男女がこうして運命のいたずらで出会った。
張り裂けそうなほどに狂おしいほどに愛しくてたまらない。
目の前で泣いてるミフユを抱きしめる甲斐性が自分にあれば……きっと悪い印象は持たれていないという自覚はあった。
だが、相談しやすい友達の範疇を超える存在になっているかの確証がもてない。
「あーあ。このまま一緒に……」
「ミフユさん、ぼくは……」
心臓が口から飛び出そう、張り裂けそう、そんな言葉にならない感情が押し寄せる。呼吸が荒く、もうこの人が好きでたまらない。
そう思ったときに、視界の隅を掠めた何かが陽介の冷静さを一気に引き戻した。そうだ、左手のせい。
「み、ミフユさん、見てあれ……あれはなんだ!?」
「……」
この朴念仁め! 日本人だったらそう叫ぶであろう状況だったが、ミフユは反射的な危機感からその指が指し示す空を視認し思わず声をあげた。
「地表から何かが空へ、宇宙へ!?」
その光景は異様と表現するには奇怪すぎた。
遥か向こうの地表から黒い点のようなものが多数、空へ向けて上昇していたのだ。
イクスは現在ヴェンディダール号でのシステムチェックで不在のため、慌ててスマホで撮影を開始する。
「こんな自然現象って地球では起こりうることなの!?」
「ない、ないよこんなこと! わからない、なぜかわからないけど、震えが止まらないんだ。僕は臆病だけど、なんか違う、これはいったい」
二人は手を握りながら、夜空を染め上げていく未知の恐怖に対峙していた。
様々な意味でワールドウォーZって生き延びる知恵が詰まった映画ですね
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