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11.貪り食うモノ

 シュワイア家の屋敷では一人一部屋割り当てられたので、アイリーは部屋で男装を解き、久しぶりに一人でゆっくりと眠れたのだった。朝、ノックの音で目が覚める。


「はい」


「レイネンです。起きていましたら開けて頂けますでしょうか」


「あ、ちょっと待ってて」


 一人では男装が出来ないのでレイネンが気を利かせて早めに来てくれたようだ。


「昨日はありがとうございました。リム様に代わり、わたしからもお礼を言わせて下さい」


「そんな改まって言わなくてもいいよ。模擬戦する事になったのはアイの演技が駄目だったからだし」


「いえ、そもそも考えが足りてなかった部分もあると思います。それで、申し訳ありませんが、今日も男装をお願いします。家を出るまでの間ですので、もう少しだけ辛抱して頂ければ」


「ちゃんと最後までやり切るから安心して。昨夜はリムちゃんからもお礼を言われたしね」


 早速レイネンはアイリーの男装を手際よく始める。レイネンも家に戻ってからどことなく機嫌がいいように見えた。


「そういえばあのハルサって人はレンちゃんとどんな関係なの?大分仲がいいみたいだったけど」


「ハルサはこの屋敷のメイド長にあたる人です。わたしやリム様にとっても第二の母親みたいな人ですね」


「どういう事?」


「わたしはシュワイア家の養子になりましたが、もちろんすぐには馴染めませんでした。リム様とは友達になり、遊ぶようにはなったのですが、貴族の子供として振舞うのは難しかったのです。そんな時、召使の仕事をさせる事で、屋敷に馴染むように言ってくれたのがハルサでした。勉強するより手足を動かしていた方が気が紛れたので、わたしは喜んで召使の仕事をしました。言葉使いや召使の所作を教えてくれたのはハルサです」


 レイネンはどこか嬉しそうに話をする。


「そうだったんだ」


「ドレスやもっと可愛い服を着るように言われていますが、わたしはこの召使の制服の方が動きやすいですし、可愛いと思うので好んで着ているんです。ある程度馴染んだ所で召使の仕事自体は取り上げられましたが、そのおかげでシュワイア家に馴染めたのでハルサには感謝しかありません。お嬢様もご両親が忙しい時に面倒を見てくれていたのがハルサでしたので、二人とも彼女の事が大好きなのです」


 レイネンは笑顔になる。前髪で隠れた水色の瞳がちらりと見え、とても可愛い顔だと感じた。


「これで完了です、お疲れ様でした」


「ねえ、レンちゃんちょっと正面に座って貰ってもいい?」


「はい、何でしょう?」


 アイリーは男装が完了したタイミングで気になったのでレイネンを正面に座らせる。


「動かないでね」


「はい」


 アイリーはレイネンの前髪を手で上げ、おでこが出たその顔をじっと見つめる。水色の瞳は大きく、少し垂れていて、顔も小さくとても可愛いと感じた。


「うん、やっぱり可愛い!」


「あ、アイさん、何をするんですか。わ、わたしは可愛くなんて……」


「えー、可愛いよ。もっと前髪を切ればいいのに」


「そ、そんな事無いです。し、失礼します」


 レイネンは真っ赤になり、逃げるように部屋を出て行ってしまった。アイリーはちょっとやり過ぎたかな、と思いつつも、やっぱり前髪で隠すのは勿体ないな、と思うのだった。


********


 みんなで朝食を取り、アイリーは男装用の剣を部屋に置いたままだったので、機動馬車に戻る前に部屋へと戻る。部屋を出るとそこにはストラドが立っていた。


「アイロー君。帰る前に少しだけいいかな?」


「はい、構いませんが」


 ここに来てバレたかな、と思っても断る訳にはいかず、素直に返事をする。ストラドは自分の書斎にアイリーを入れ、中央にあるソファーに向かい合って座った。


「先に謝っておこう。すまなかった。君が偽物のリムールの恋人だという事は事前に調査して知っていたのだ。電報が来た段階でアイロー・クリアロンがどのような人物かハンターギルドで調べて貰い、そんな人物は存在しない事を確認していたのだ」


「最初からバレていたんですね」


 大事な娘の彼氏なのだから、そこまで調べている事も考えるべきだったのだろう。お金があるのだから、リムールの今までの行動だって調べて、ある程度知られていたかもしれない。


「色々と試すような事をしてすまなかった。君がリムールの為に演技をしてくれた事には感謝しているよ」


「じゃあ、やっぱり見合いの話は」


「それは昨日決めた通りだよ。君は昨日きちんと私を倒したからね。もちろんリムールにこの事を話すつもりは無いので安心して欲しい。模擬戦をしたのは君に興味があったからだ」


「私に?」


 アイリーは見合いの件でホッとしたものの、予想外の言葉に耳を疑う。


「正確にはクリアロンという苗字にかな。アイロー・クリアロンという人物は存在しなかったが、女性で、アイリー・クリアロンというハンターは存在していた。カンキ村出身で17歳、初戦でグリフォンを討ち取っている。その後キルウイの町から不死型を追い払いハンターになったと。

私は昔、カンキ村出身のデイル・クリアロンという人物に出会い、世話になった。デイルにもリムと同じ歳の娘がいると聞いていた」


 アイリーはそこで思わぬ名前を聞いて驚いた。


「お父さんと知り合いだったんですか?」


「やっぱり彼の娘だったか。デイルは立派な人だった。今この国があるのは彼のおかげと言ってもいい」


「それはどういう……」


「お父様、アイさんはそこにいますか?」


 と、ドアがノックされ、会話が中断された。


「時間切れみたいだな。この話は次に会う時にゆっくり話そう。今度は本当の君の姿で来てくれればいい」


「分かりました、ありがとうございます」


「やっぱりここでしたのね。アイさん、お父様に何かされませんでしたか?お父様もアイさんに失礼な事はしていないでしょうね?」


 リムールが声に気付いてか部屋に入ってきた。


「リムールさん、大丈夫です。少しだけ世間話をしていただけです」


「彼とは気が合ってね。リムもいい人を見つけたな」


「当然ですわ。ですが、もう出発の時間ですの。行きますわよ」


「それでは失礼致します」


「アイローくん、娘達の事、頼んだよ」


「はい!」


 ストラドは優しい笑顔で二人を見送った。


「アイさん、勝手にいなくならないで下さい。バレて監禁されたのかと思いましたわ」


「ストラドさんはそんな事しないでしょ?」


「分かりませんわよ。親バカなところもありますし、わたくし達の事になると何をするか分かりませんもの」


「いいお父さんだと思うよ」


 アイリーはそう言いながら過去に自分の父がどんな事をしたのかに思いを馳せるのだった。


********


「あ、リム様達が来ました。これを見て下さい」


 アイリーとリムールが戻ると、機動馬車の中には全員揃っていて、レイネンが新聞を見せてきた。機械の発見によって都市部での印刷技術は進歩し、情報ギルドが新聞を定期的に販売していた。レイネンが持っているのは今朝発行された新聞だった。


「これ、本当ですの?」


 新聞の一面は首都メロガダンから少し西にある町、マリンゴが超大型の機獣によって崩壊したという記事だった。


「確かに新聞には虚偽の情報が混ざってたりするけど、さすがに一面に嘘は載せないと思うわ」


「でも、マリンゴって結構大きい町だって聞いたぞ。完全に壊滅する事は無いんじゃないか?」


「まだその機獣は倒せてないんだよね。町の状態は置いといても被害が続くんなら何とかしないといけないんじゃないかな」


「この規模ですと騎士団のどれかが動かない事には解決出来ませんわね。でも、今騎士団を動かせば帝国が攻め入る隙が出来てしまいますわ」


「ここからだと丸1日ぐらいかかりますね。確かに騎士団が行って戻ってくるには時間がかかります」


 レイネンが周辺の地図を広げた。すると、シリミンが地図をじっと見つめる。


「ここ知ってる。近くに獣人の村ある。村、危ない」


「マリンゴの町の近くに獣人の村があるの?この超大型機獣の進行方向ってなんか書いてある?」


「どういう理由かは分かりませんが、出現してからは真っ直ぐ町へ向かって進んだそうです。その後、北東へ向かって移動している、と書いてあります」


「その村はどの辺にあるか分かる?」


「獣人の村、ここら辺の山の辺り」


 シリミンが指差したのはマリンゴの町から北東に位置する山だった。


「行こう。急げば間に合うかもしれない」


「でもどうやって倒すんだ?」


「機獣ならコアを破壊すれば止まる筈。私達でなんとかならないかな?」


「さすがに無謀だと思いますわ」


「でも騎士団はすぐには動かせないんでしょ?他のハンターだってそんな大きな機獣を倒そうとする人なんていないと思う。みんなで知恵を出し合えば私達で出来ると思うんだ」


「自分はそれに乗るわ。巨鎧も増えたし、イルナもスーライもそこら辺の巨鎧と比べ物にならないぐらい強い。例え倒せなくても騎士団に機獣の情報や弱点を教える事は出来ると思うわ」


「ボクも獣人の村助けたい」


「あたしも折角巨鎧を手に入れたんだ。色々分かってきたし、たまにはいい所見せたいな」


「もう、あなた達までアイさんに毒されましたの?分かりましたわ。わたくしも出来るなら止めたいと思っています。出来る事をやりましょう」


「では、獣人の村がある辺りへ向けて出発いたします」


「みんな、ありがとう」


 とりあえずハンターギルドに超大型機獣の討伐に向かう事だけは告げ、アイリー達は王都から出発した。



「イルナ、超大型機獣を倒す方法だけど、何か案はあるかな?」


 アイリーは格納庫でイルナに乗り、新聞から得た情報をイルナに説明し、質問をしてみた。既に男装は解いて、いつもの動きやすい服装に戻っている。


「新聞の時点で高さが15メートル、家や人や機械や機獣を関係なく飲み込み巨大化し、現在はもっと大きくなっていると推測されます。表皮は取り込んだ金属を積層状に増やしているという事で、外からの攻撃は厳しいと思った方がいいでしょう。飲み込み口は回転する刃でどんな物も破壊しつつ飲み込んでいくというので、そこから侵入するのも難しそうです。現状ではコアの位置も不明ですし、情報が不足していますね」


「この間の光る剣で一気に切り裂けばどうかな?」


「以前もお話しした通り、あの力は不要であれば使わないでいただきたいです。それに剣で切り裂くにしてもコアの位置が不明ですと、切り裂いた部分から再生され、倒す前にエネルギー切れになる可能性もあります」


「そっか。みんなには出来るって言っちゃったけど、無謀だったかなあ」


「マスター、ワタシは出来ないとは言っていません。まだ情報が足りないという事です。皆様の戦力も増強されましたし、うまく組み合わせれば出来る可能性はあります」


「本当?ありがとう、イルナ」


 少しだけ不安が解消されて、アイリーは喜ぶ。


「マスター。一つだけ質問してもいいでしょうか?」


「何?」


「マスターはなぜ、あえて危険な場所へ赴くのでしょうか。他人を助けるにしても、もっと安全な案件を選べると思いますが」


「なんでって?なんでだろう。別にあえて選んでる訳じゃないよ。ただ、困っている人がいて、助けられるかもしれないって思ったから、助けに行くだけだよ」


「マスターの安全を考えますと、あまり危険な選択をしない事が望ましいです」


「ありがとう。勿論イルナにも迷惑かけてるって思うよ。でも、出来るかもしれないなら、アイはやってみたい」


「ワタシに迷惑という感情はありません。マスターが守れるなら、ワタシが破壊されても構わないと考えています。マスターはご自身をもっと大事に考えて下さい」


 それを聞いて、アイリーは自分が間違っていないんだと確信した。


「ほら、イルナと同じだよ。アイは誰かを守りたい。イルナはアイを守りたい。例え自分が危険だとしても。ね?」


「同じではありません。マスターは人間で、ワタシは機械です。マスターはワタシに比べて壊れやすいですし、一度壊れたら直らない箇所もあります。マスターは首を斬られれば死んでしまいますが、ワタシなら首を落とされても動けます」


「でもコアを破壊されればアイが心臓を刺されるのと同じように死んじゃうでしょ?大きさや頑丈さは違うかもしれないけど、イルナが機械だからって壊れていいとは思わないな」


「その考え方は危険です。マスターがワタシを気遣って攻撃の手を緩めるような事があれば、マスターもワタシも危険になる可能性があります」


「アイだってそこまでは思ってないよ。イルナが傷付くのは悲しいけど、戦えるなら無理しても戦うよ。でも、イルナが完全に壊れるのだけは防ぎたい」


「ありがとうございます。そのお気持ちだけで十分です。ワタシの存在意義はマスターの生存にあります。その事は忘れないで下さい」


「うん」


 アイリーはイルナがどうしても機械だから危険な目にあってもいいと強情になってる気がしてならない。アイリーはもっとイルナに自分を大事にして欲しいと思っていた。


 獣人の村へ向けて移動を開始してから20時間ほど。機動馬車の休憩スペースで交替で睡眠をとり、今はアイリーとエルータが運転席に座っている。機獣との遭遇や戦闘は無く、夜が明け始めていた。


 最初に気付いたのは轟くような音だった。そしてイルナからアイリーのピアスに連絡が届く。


「超大型機獣の反応を確認しました。皆さんを起こして体勢を整えて下さい」


「分かった」


 アイリー達は急いで寝ているメンバーを起こし、巨鎧に乗って外に出る。ちょうど近くに少し高い丘があったのでそこへ移動した。


「あれか」


 エルータが射撃型の『オクシオ』と名付けた巨鎧で西の方を指差す。アイリーもイルナから見ると、そこには砂ぼこりを巻き上げ、突き進む巨大な山のような物体が見えた。


「高さ25メートル、幅33メートル、全長400メートルと測定しました」


「そんなに?コアの場所とか、何か分かる?」


「コアはこの距離では分かりません。時速30キロメートルで南東へ進んでいます」


「南東に少し行くと町があります。そこを目指しているんでしょう」


「獣人の村は……」


「ここまで来たって事は、残念だけどもう襲われてるわね」


「とにかく近付いて、私達で止められるかやってみよう。ただ、みんな無理はしないでね」


「「了解」」


 シリミンもスーライに同化し、全員で超大型機獣へ向かい移動する。近付くにつれ轟音が大きくなる。目の前の地面を削り、食べ、進んでいるのだ。長い胴体の最後尾で取り込まなかった物を吐き出し、取り込んだ物質は装甲として全身を覆っていく。身体は分厚い金属に覆われ、巨大な芋虫を思わせた。ただしその装甲の表面には所々トゲのような突起があり、それで近付くものは切り裂かれる。接地している部分でその突起を動かしてあの巨体を移動させているのだろう。


「動きを止めないと攻撃し辛いよね。リムちゃん、壁で止められる?」


「やってみますわ」


 距離30メートル位まで近付き、全員で超大型機獣の前に立つ。ルルトが手を伸ばして、光の壁を作り出した。機獣は壁にぶつかり、“ドカンッ”という音と共に止まった。


「今の内ですわ。どれだけ保つか分かりませんから、急いで下さい」


「分かった」


 アイリー(イルナ)と姿を見せているロガン、スーライの3機で機獣に接近する。接触する前にエルータのオクシオとソシアが攻撃を始めた。壁に邪魔されない位置まで移動してオクシオは火球を、ソシアは電撃を機獣に当てる。当たった箇所は破壊され、確かに装甲がえぐれた。が、アイリーが見ている間に周りの装甲が集まって傷を再生してしまう。


「イルナ、コアの場所は分かる?」


「前から200メートル位の付近に大きなエネルギーの反応があります。そこにコアがある可能性が高いです」


 イルナが超大型機獣の長い胴体の真ん中辺りにマーカーを付けてくれる。


「みんな、私が攻撃した辺りを狙って」


「「了解」」


 アイリーが駆け出し、ランスを作って、機獣の横の高さ10メートル辺りのマーカーが付いた部分をジャンプして貫く。ロガンとスーライはその付近を同じくジャンプして攻撃し、装甲が再生するのを遅らせた。続いてオクシオから高速の水流が撃ち出され、ソシアも杖から旋回する衝撃波を放った。アイリーは一度離れると、再度ランスで攻撃する。機獣の分厚い装甲も大分切り裂かれたと思ったのだが。


「マスター退避を。高熱反応です」


 イルナに言われて急いで離れる。するとアイリーが居た場所に向かって空いた穴から真っ赤な液体が噴き出していた。落ちてきた液体が触れた地面は溶け、煙がもうもうと上がっていた。


「皆さん離れて下さい、もう限界ですわ!!」


 そしてリムールの悲鳴が聞こえる。轟音が再開し、超大型機獣が再び動き出したのだ。吹き出される液体と機獣の移動の為、攻撃は困難になる。が、スーライと同化したシリミンは諦めきれないのか、再度機獣へと突進していく。


「止めなくちゃ」


「マスター危険です」


 イルナの警告を無視してアイリーは飛び出していた。


「シンちゃんダメ!!」


「でも!!」


 何とか接触する前にスーライを捕まえられる。が、超大型機獣が向きを少し変えた為、一気に接近してしまう。抱えて逃げようとしたが、間に合わない。


「アイさん!!」


 レイネンの悲鳴を聞きつつ、アイリーはスーライを庇うように覆い被さった。しかし、“ドンッ”という音がして、いつまで経っても接触は無かった。


「アイ、今のうちだ!!」


 エルータの声が聞こえて、急いでスーライを抱えて後ろへジャンプする。見ると、アイリーの後方の超大型機獣の下の地面がクレーターのように凹み、その部分だけ一段下がったので接触しなかったと分かった。


「エルがやったの?」


 見るとオクシオは手に持つ銃ではなく、背中から大きな二つの筒を頭の横から前方に構え、そこから射撃をしたようだった。


「大地の力で地面を削ったんだ。まあ、力は使い切ったけど」


「ありがとう。でも、倒せなかった……」


「みんな無事なんだし、ひとまず機動馬車に戻って考えましょう」


 セリュツの案で一旦機動馬車まで戻る事になった。


「勝手に突撃して、アイお姉ちゃんを危険な目に合わせてごめんなさい」


 イルナを含めて対策を話し合おうと集まると、最初にシリミンが謝ってきた。


「そうだね、無茶するのは駄目だよ。でも、きちんと考えずに先導した私にも責任はあるから」


「それを言うなら、コアの場所だけを指定したワタシに責任があります」


「やめやめ、今は責任の所在とか関係ないから。どうやって止めるか考えるんでしょ」


 セリュツが責任の連鎖を止めてくれる。


「それでイルナさん、コアの正確な位置は確認出来たのでしょうか?」


「はい、先ほど攻撃した部分の奥、超大型機獣の胴体の中心部にわずかな空洞があり、そこに存在している事は確認出来ました」


「問題はどうやってそれを破壊するか、か」


「アイ達で穴を開けて、エルが射撃で打ち抜くのはどう?」


「ワタシが把握している威力ですと、ある程度装甲を破壊しても、火力不足だと推測されます」


「あたしもあの大きさだと、届いてもコアが破壊出来るか怪しいのは同意だな」


「でも近接武器で穴の中に入ろうとしても、あの燃えた水で通れないよね?」


「あれは機獣が取り込んだ金属などを溶かして、分類して、装甲にする為の、いわば疑似体液みたいなものね。短時間だったらあたしの魔法で凍らせる事は出来ると思うわ」


「でも巨鎧が通れるほどの大きな穴が開けられますの?」


 そこでアイリーは遺跡での戦闘を思い出す。イルナの能力を全開にすれば、それも可能だろうと。


「イルナの力を解放すれば出来ると思う」


「マスター、それは」


「ごめんね、イルナ。でも、出来る事ははっきりと言っておきたいんだ。エルは知ってるけど、イルナは一時的に今まで以上の力を発揮する事が出来る。もちろんデメリットもあるんだけど、そこはみんながフォローしてくれれば問題ないと思うんだ」


「それがマスターの判断であるのでしたら、ワタシは従います。マスターの言った通り、一時的にですが、パワー、スピード、武器の能力を向上する事が可能です。それでも、巨鎧大の大きさの穴を横に空けるには今回の戦闘時間より長い時間が必要です」


「さすがにその時間をルルトで止めておくのは無理ですわ」


「あの、機獣の上に乗って、そこから穴を開けたらどうでしょうか?」


 レイネンがアイデアを出す。


「確かに上からなら、機獣が動き出しても、大きく揺れなければある程度の時間は穴を開けられるかもしれないな」


「穴、ボクが入る。スーライなら他のカミサマより小さい」


「確かにその通りだね。イルナ、これでいけないかな?」


「移動の振動程度なら大丈夫でしょうが、相手が身体を回転させた場合、振り落とされると考えれます。あの機獣の構造上、移動時に部位毎の回転も可能と考えるべきでしょう。そうなると、上部に乗るにしても停止している間に行う必要があり、ルルト以外の全巨鎧で攻撃しても時間が足りません」


「さっきのオクシオの穴を開ける方法で、時間が稼げないかな」


「ごめん、それは無理なんだ。さっきの一撃で大地のエネルギーは全部使って、今補充中だけど、同じ事をやるには丸一日ぐらいかかりそうなんだ」


「ボクのせい。ごめんなさい」


「そっか、ルルトの方はすぐに壁は張れるの?」


「こちらは4時間あれば再度実行出来ます」


「4時間なら機獣が次の町に着く前に戦闘に入れますね」


「問題はどうやって足止めするか、かあ。せっかく倒す方法が見えたと思ったんだけどなあ」


 みんなでしばらく悩んでみたが、いい案は出ない。過ぎてしまった事を後悔しても仕方が無いし、かといって無謀な作戦では実行も出来ない。アイリーは自分がもっと頭が良ければと悔しく思う。


「出来るかもしれない」


 そう言ったのはまさかのシリミンだった。


「なんかいい案があった?」


「昔、ばあちゃんに聞いた。グリ族のカミサマ大地を操る。エルのカミサマのあの力と同じかもしれない」


「グリ族って獣人だよね。どこにいるの?」


「向かってた村がそう。村はもう無いかもしれない。でも、カミサマとその守護者生きてる可能性ある」


「どうする?シンちゃんの言う事に賭けてみる?」


「悩んでてもしょうがないし、村はここから近いんだよね。行くだけ行ってみよう」


 シリミンの言う力を確かめに、アイリー達はグリ族の村へと向かった。


********


「酷い……」


 超大型機獣の移動跡を辿っていった先の山の上にその村はあった。ただし、村というより、機獣の移動した跡の近くに村の建物の残骸が散らばっているだけだった。


「ダレだ、オマエらは」


 村に生身で降り立ったアイリー達の前に、一人の少女が立ちはだかった。少女の背はアイリーと同じ位で、毛皮の服を着て、髪は赤茶色のボサボサした長髪だ。よく見ると頭にやや丸みを帯びた獣の耳があり、全身の肌が見えている所にも獣の毛が生えていて、獣人だと気付く。何よりその傍らにスーライのような赤銅色の金属の熊のような獣が立っていた。シリミンが猫系の獣人なのに対して、グリ族は熊系なのだろう。


「シンちゃん、この子が?」


「ボクが話す。ボクはナオ族のシリミン・ポワイポ。村のカミサマ、スーライを受け継いだ者」


 そう言ってシリミンはスーライを呼び出す。


「そうか。アタシはグリ族のコミアス・ペルス。同じくザーレを受け継いだ」


 少女は傍らの獣を撫でる。


「コミアス、村の人達は?」


「村人は貪り食うモノが来たので全員逃がした。みんな無事だ」


 貪り食うモノとは超大型機獣の事だろう。確かに全てを食い尽くす姿には合った名称だ。


「そっか、良かった」


「良くない。村は破壊された。アタシは、守れなかった……」


「ごめん」


 アイリーは自分の言葉が軽率だった事を悔いる。


「コミアス、手助けして欲しい。一緒にあのバケモノを倒そう」


「無理だ。アタシでも手も足も出なかった。倒せるわけがない」


「コミアスさん、私達はたくさんの巨鎧があって、倒す方法も大体出来てるの。あとはあなたの手助けがあれば、倒せるかもしれない。力を貸してくれないかな」


「オマエ達が強いとは思えない。ザーレは強い。もし、ザーレを倒したなら、手を貸してもいい」


 そう言ってコミアスは一歩前へ出る。


「分かった。ボクが相手になる」


「シンちゃん、私が行くよ」


「ダメ。獣人の強者同士が戦い、勝つ事が重要」


「その通り。ナオ族の強さが知りたい」


 二人の獣人が睨み合う。他のみんなはそれを見守るだけだ。シリミンとコミアスが服を脱ぎ、同時に同化を始める。元々の体格差もあり、同化した姿もスーライの方が小さく、ザーレは巨鎧と同じぐらいの大きさだった。スーライの武器が腕に付いた爪なのに対し、ザーレは巨大なハンマーを持っている。


「シンちゃん大丈夫かな」


「真剣勝負です、二人を見守りましょう」


 リムールが冷静に答える。


「行く!」


 スーライは持ち前のスピードを生かしてザーレの背後に回り込む。そして鋭い爪の一撃を加えた。が、ザーレの装甲は厚く、それでは怯まない。反応してハンマーを振り回したが、さすがにそれはスーライに避けられる。


「ちょこまかと鬱陶しい!」


 ザーレはハンマーを地面に突き刺す。そして両手を前に突き出した。“ズンッ”という音と共にスーライが居た場所が地面ごと凹む。スーライは重りが付いたように動けない。


「大地の魔法ね」


 セリュツが解説する。オクシオの射撃と似たような攻撃なのだろう。ザーレは見た目と反した素早い動きで動けなくなったスーライに近寄り、ハンマーを振り下ろす。


「危ない!」


 アイリーはつい叫んでしまう。が、ハンマーは空中で止まっていた。スーライも風の魔法でハンマーを跳ね返したようだ。


「ボクは負けられないんだ!」


 前に伸ばしたスーライの手から竜巻が起る。それは重量のあるザーレを上空へ巻き上げた。それによりスーライの拘束も解ける。


「トドメ!!」


 空中に浮いたザーレに向かってスーライは上昇しつつ爪でその装甲を切り裂いた。ザーレの前面装甲が吹き飛び、コミアスの上半身と大きな胸が露わになった。


「負けた……」


 ザーレは膝を付き、敗北を認める。


「ザーレ強かった。でも、ボクは負けられなかった」


「シリミン、オマエは強いな。アタシ、シリミンに従おう」


 コミアスは素直にシリミンに従うと誓った。それから軽く自己紹介をし、作戦を話す。


「アタシは壁が消えた後に貪り食うモノを出来るだけ止めればいいんだな?」


「うん、お願いね」


「急ぎましょう、あと2時間位で機獣が町に着いてしまいます」


 レイネンが時間を確認し、急いで機動馬車にコミアスを乗せて超大型機獣へと出発した。


********


「ギリギリですわね」


 機動馬車が超大型機獣に追い付いた時にはもう町が見えて来ていた。日は高く昇り、機獣の装甲は鈍く輝いている。


「チャンスは1度よ」


「みんな、お願い」


「やれる事は全力でやるさ」


 リムールのルルトだけ超大型機獣の正面で待ち構え、アイリー達は機獣の横に先に移動する。


「行きますわよ!」


 リムールの言葉で作戦が始まった。ルルトが巨大な壁を作り、超大型機獣が止まる。アイリー達は全機で機獣の上へと登っていく。


「行くよ!」


 アイリーがイルナの光の剣を作って準備したところで、異変が起こった。


「何だ、これ」


 機獣の背中から何かが盛り上がってくる。それは中型の不死型機獣だった。わらわらと寄ってきて瞬く間に数十体に囲まれた。


「不死型ね。こんな物も飼ってるんだ。こいつらは自分とレンちゃん、コミちゃんで抑えるわ。アイちゃん達は予定通りで」


「分かった」


「コミちゃん?」


 変な呼び方をされつつもコミアスは不死型をザーレのハンマーで粉砕していく。セリュツには魔法で凍結する役目はあるが、穴が開くまでは不死型の相手をしていてもらえてありがたい。ロガンは短剣で寄ってくる不死型を次々と破壊していた。


「あたしから行くよ」


 最初にエルータのオクシオが炎、風、水の攻撃を連続して繰り出し、超大型機獣の背中に大きな窪みを作る。


「行くよーー!!」


 アイリーは光の剣を全開にし、剣を下に向けて振り下ろす。背中の窪みを大きく削り、大きな穴が開いてくる。


「手伝う!」


 シリミンは窪みが機獣の再生力で戻るのをスーライの爪で削り、留める。オクシオも残りの精霊力を撃って同じく穴が狭まるのを防ぐ。


「マスターもうすぐ疑似体液が出てきます」


「セリュツ出来る?」


「ちょっと待って、ごめんレンちゃん後はお願い」


「任せて下さい」


「アイちゃん、大丈夫よ」


「じゃあ、行くよ!」


 アイリーは勢いをつけて剣を振り下ろす。すると、穴が貫通し、そこから高熱の液体が噴き出てくる。


「凍れ!!」


 ソシアが杖を構え、そこから青い光が放たれる。それは液体にぶつかり、穴の奥の部分ごと凍り始めた。


「シンちゃん!」


「行ってくる!!」


 スーライは凍った部分を爪で破壊しつつ、穴へと降りて行った。


「ごめんなさい、限界ですわ」


 そのタイミングでリムールからの連絡が魔法で届く。


「コミアスさん、お願い」


「分かった」


 ザーレはハンマーを投げ捨てると、手を下に向ける。“ミシッ”という音がして、超大型機獣が沈んだ。


「あとはシンちゃんがやるまでこいつらをどうにかしないとね」


 アイリー達はザーレに寄ってくる不死型を破壊しつつシリミンの結果を待つ。


「ごめん、コア、破壊出来ない」


 魔法で連絡を取れるようしたシリミンからの声が届く。


「どういう事?」


「コア、再生早い。スーライの攻撃だと無理」


「こっちもそろそろ限界だぞ」


 コミアスの苦しそうな声が聞こえる。


「だから、スーライの力、全部開放して破壊する。

……ごめんなさい、みんなとはここでお別れニャア」


「ダメだよ、そんなの。イルナ、どうにか出来ない?」


「コア部に辿り着くには高熱に晒されます。マスターを危険に合わせる訳には行きません」


「数秒なら魔法でガードさせる事が出来るわ。それで行けない?」


「不死型は排除出来ました。再度穴を開ける手伝いは出来ます」


「こっちも最後の一発は撃てるぜ」


「わたくしも手伝いますわ」


 いつの間にかルルトも機獣の背に乗っていた。


「マスター、ワタシはお勧め出来ません。それでもやりますか?」


「うん、シンちゃんを犠牲になんて出来ない」


「分かりました、全力でサポートします」


「シンちゃん、早まらないで。今行くから待ってて」


「アイお姉ちゃん……」


「それじゃあ魔法をかけるわよ」


「みんなお願い!!」


 最初にオクシオが残りの精霊力を全て込めて放ち、塞ぎかかった穴を大きく広げる。次にルルトとロガンがそこを剣で掘り返す。そしてセリュツがソシアで熱を防ぐ魔法をかけてくれる。


「マスター、限界まで出力を上げます。突っ込んで下さい」


「行くよ!!」


 アイリーは更に大きくなった光の剣を構えて、真下へと突っ込んだ。真っ赤な体液が噴き出してかかるが、気にせず降りていく。真っ赤な体液を突き抜け、その下の壁を突き破る。そして穴から降りて着地した。


「アイお姉ちゃん!!」


 そこはちょっとした広場になっていて、中央には木のような太い金属の幹があり、その中に丸い大きなコアがあった。スーライと同化したシリミンはコアの前に立っている。


「大丈夫だった?」


「うん、でも、またボク……」


「一緒にやろう!」


「うん!!」


 アイリーは光る剣を構え、スーライも爪を構える。


「行くよ!!」


「「てやああああああ!!」」


 二人でコアを攻撃する。コアの再生速度は凄まじい。破壊した箇所から再生していく。それでも二人でダメージを与える事で再生が追い付かなくなり、徐々にコアにヒビが入っていった。


「あと少しで破壊出来ます」


「これで!」


「トドメ!!」


 アイリーの剣が中央まで突き刺さり、スーライの爪がコアを砕いた。そして、機獣はゆっくりと動きを止める。


「超大型機獣の停止を確認致しました。回復モードに入ります」


「イルナ、ありがとう。シンちゃん、お疲れ様!」


「アイお姉ちゃん、本当にありがとう!!」


「ううん、みんなで頑張ったんだよ。シンちゃんが居なければコミアスさんを連れて来れなかったし」


「うん!」


 シリミンはスーライと同化したままアイリー(イルナ)に抱き付いた。アイリーもイルナに乗った状態でその頭を軽く撫でてあげた。


「結構ギリギリでしたわ」


 中と外から穴を開けてアイリー達は何とか機獣の外に出る。コミアスの魔法が限界だったので、機獣は移動を再開し、町の目前で止まっていた。町からは大勢の人がその様子を見に出て来る。


「こりゃ、有名になりそうだな」


「いいんじゃないかしら、それだけの事はやったんだから」


 アイリー達は混乱する町の人に説明するのに一苦労だった。


********


 コミアスの村まで戻り、戻ってきた村人達にも状況を説明した。村人からお礼の言葉を浴び、そろそろ移動する事に決めるとコミアスが別れの挨拶をしに来た。


「シリミン、村の仇を討ってくれてありがとう」


「ボクだけの力じゃない。コミアスも含めたみんなで力を合わせたから出来た」


「でも、アタシには出来なかった。オマエが勇者だ。だから、ザーレはオマエに預ける」


 コミアスが首からシリミンと同じような珠を取り出し、前方へ掲げる。するとそこから光が飛び出し、シリミンの珠へと入っていった。


「コミアスがこの村の守護者、ザーレはコミアスのもの」


「村は分霊で守る。オマエが獣人を救ってくれ」


「……分かった、ザーレは預かる。もっと強くなって返しに来る」


「楽しみに待ってるよ」


 コミアスの真剣な眼差しを受けてか、シリミンはザーレを引き取った。


「破壊されたマリンゴの町の様子を見に行こうか」


 アイリーは気になっていたのでみんなに切り出す。


「そうですわね、状況が分かれば支援の要請もしやすいですわ」


「あたしも特に異論は無いよ」


「アイお姉ちゃん。大事な話がある」


 話しながら機動馬車へ向かっているとシリミンが真剣な顔で話してきた。みんなも気になって立ち止まる。


「シンちゃん、どうかしたの?」


「アイお姉ちゃん、ボクのつがいになって欲しい!」


「え?つがい!?」


 突然の告白にアイリーは仰天するのだった。

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