表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/26

9.新たな巨鎧

「ここは?」


 アイリーの意識が戻り、周囲を見回す。薄暗い自然の洞窟のようで、周りには人工物の床の破片などが散乱している。


「先程のフロアから更に下へ50メートルほど落下しています」


「そうだ、エルは?」


「現在気を失っています。多少の打撲はありますが、マスターの素早い判断で命に別状はありません」


 アイリー(イルナ)の手の中にエルータが寝ているのが分かった。アイリー自身も穴に飛び込んだ後に意識を失ってしまい、落下中にエルータを捕まえた記憶は無い。イルナが対応してくれたのだろう。


「イルナが助けてくれたんだ。ありがとう。イルナは怪我は無い?」


「着地の衝撃は抑えられましたので、上空からの落下物のダメージのみで、問題はありません」


「そっか、よかった」


 イルナの話を聞いて、ようやくホッとする。


「みんなはどうしてるか分かる?」


「この位置ですと反応はありません。一緒に落下する機体はありませんでしたので、我々を探索するか、上部で待機している可能性が高いです」


「合流しないとだね。まずはエルを起こさないと」


 アイリーはイルナを出て、エルータを降ろして膝枕して地面に寝かす。洞窟の中は明りが無いのでイルナが程よい明りで照らしてくれた。エルータの寝顔を見た事はあるが、こうまじまじと見た事は無い。眼鏡を外して、横に置き、久しぶりに眼鏡をしていない顔を拝む。


(やっぱり美人だよねえ。もっとオシャレすればいいのに)


 昔はもっと髪を伸ばして女の子っぽかった記憶がアイリーには合った。いつからそれを止めたんだろうと考えるが、思い出せない。


「……う、ううん。あれ、ここは?」


 考えているうちにエルータが目を覚ます。


「下に落ちちゃったんだよ。エルが無事でよかった」


「そっか、あたし、また迷惑をかけちゃったか」


「そうじゃないって。死霊使いに勝てたのもエルのおかげだし」


 エルータは起き上がり、眼鏡をしていない事に気付いて眼鏡をかける。


「どこか痛かったりしない?」


「うん、少しぶつかったみたいだけど痛みはそれ程」


 エルータは身体を動かし、歩いてみたりした。大丈夫だと確認したようで、再び腰を下ろす。アイリーはイルナから聞いた状況をエルータに説明した。


「本当はさ、あたしがアイを守りたかったんだ……」


 しばらくしてエルータは喋り始めた。


「力は無いけど、頭は馬鹿じゃないって思ってたから、機械の力で守ってやれるかなって。でも、現実は逆だった。旅には付いて行ってるけど、ずっと守られてる。なんかカッコ悪いよな」


「そんな事無い。エルがいてくれたから助かった事がいっぱいあった。それに、アイが強いのはイルナのおかげだし。アイこそイルナとエルに守られてるって思ってる」


「いいなあ、イルナは。アイとずっと一緒で、守ってやれるんだから」


 エルータはイルナを見上げた。


「それがワタシの存在理由です。ただ、ワタシが至らない為、マスターに危険が及んでいるのも事実です。そこは改善していきます」


「大丈夫だよ、イルナ。十分守ってくれてる」


 そう言った時、横目で見たエルータの顔は少し寂しそうだった。


「あんまり長居してるとみんな心配するよな。機械の乗り物は?」


 少し休んでからエルータが切り出した。


「残念ながら瓦礫の下敷きで破壊されました。機械の武器も同様です」


「そっか。じゃあアイとイルナ、案内を任せたよ」


 アイリーがイルナに乗り、エルータはその後を歩く形で移動する。周囲に機獣などの反応は無いが、どこから出て来てもおかしくは無い。


「ジャンプで登れないかな?」


「上への穴は途中で瓦礫で埋まり、先ほどのフロアへ直接は登れません。空気の流れから、洞窟のどこかが遺跡と繋がっていると推測出来ます。そこを探してみましょう」


 イルナに周りを調べて貰いつつ、アイリーは進んでいく。自然の洞窟なので、高さが安定せず、イルナが通れない箇所にぶつかって引き返す事もあった。


「人工物の壁です。この向こうは遺跡だと思われます」


 30分ぐらい歩き回ってようやく遺跡と思われる壁を見つけた。


「入り口はあるの?」


「見える範囲には入り口らしきものはありません。壁を破壊すれば中に入れますが、ここから侵入しますか?」


「機獣がいるかもしれないけど、中に入らない事にはみんなと合流出来ないしなあ」


「近くに機獣の反応は無いんだよね?じゃあ、とりあえず入ってみよう」


 別の入り口もあるのかもしれないが、見つからなければ戻ってくる事になるので、アイリーは決断した。


「分かりました。熱で焼き切ります。エルータ様は20メートルぐらい離れて、後ろを向いていて下さい」


「分かった」


 エルータが言われた通りに離れる。


「マスター、手に持った棒でワタシが線を描いた部分をゆっくりなぞって下さい」


「うん」


 壁の部分にアイリーと同じ位の大きさの(実際はイルナのサイズの)長方形の線が描かれる。アイリーが左上からイルナが作った棒でなぞると、その部分が赤く溶けていく。ゆっくりと一周すると切り抜かれた四角形の壁がこちら側に倒れてきた。


「マスター、下がって下さい」


 壁に当たらないように後ろに下がる。完全に倒れると、壁が2メートルほどの厚さの金属だと分かった。この厚さを焼き切れたのはアイリーでも凄いと思った。


「こんな事も出来るんだ」


「機能としてはありますが、時間がかかるので戦闘には向きません」


「もう見ても大丈夫か?うわ、本当に壁に穴を開けたんだ」


 エルータも驚く。壁の中に入ると、そこは広く、天井も高い部屋だった。扉は一つしかなく、部屋の奥に一段高い台座のような建造物がある。


「あれはなんだろうね?」


「お宝かもしれないし、見てみようぜ」


 エルータがそちらへ駆け出す。アイリーもそれに続いた。


「彫刻?何か絵が描いてある?」


 台座の上には1メートル四方の金属製の彫刻のようなものが4枚、上下左右に並んでいた。そしてその真ん中に小さな丸い物がいくつか置いてある。


「メダルかな?何かの謎かけかも」


 エルータが丸い物を手に取ると、それは金属製のメダルだと分かる。遺跡の中には宝を守る為に謎かけの仕組みがあることがあると聞く。遺跡を作った者のお遊びかもしれないが、それにはトラップが仕掛けてある事が多い。


「ちょっと待ってて、アイも行くから」


 アイリーもイルナを降りて直接見に行く。メダルは4つあり、それぞれ異なった模様が刻んであった。


「これは炎かな、で、こっちが水滴。岩山に、波模様はなんだ?あ、精霊の4元素か。火に水に地に風。これを組み合わせて何かするのか?」


「彫刻に一つずつ窪みがあるよ。多分、正しい組み合わせで嵌めるんだと思う」


 アイリーは彫刻の中央下にそれぞれメダルと同じ位の大きさの窪みを見つけた。


「絵を読み解くのか。間違ったらトラップが発動するのかな」


「マスター、危険に備えて乗っていて下さい」


「エルータを置いてアイだけ乗るのはずるいよ。謎が解ければいいんだし」


「分かりました、周囲に何か変化が無いか警戒しておきます」


 イルナの心配はありがたいが、エルータだけ罠にはまるのは嫌だった。アイリーはエルータと絵を読み解いてみる。一つ目は赤子を抱く母親の絵だった。誕生を祝してか鳥が飛んでいて、右腕で赤子を抱き、左手には何か小さな粒を持っている。二つ目は少年が道を歩いている絵だ。脇には川が流れ、奥には草原が広がり何かが舞っている。3つ目は青年が家と思われる建物に入っていく絵。家の脇には木が生え、煙突から煙が出ている。4つ目は大人の男が畑を耕している絵。畑には野菜が実り、背後の木にも実が実っている。


「人の一生ってところか。それに精霊の4元素を当てはめると」


「畑は地で、川は水でいいんじゃないかな」


「そうすると、家は煙が出てるから火で、誕生は鳥が飛んでるから風か。うーん、これで合ってるのかどうか」


 少し二人で考えるが、それ以上のいい案は出なかった。


「とりあえず嵌めてみたらどうかな」


「間違えだったらどうなるかだな。あたしがやるから、アイはイルナにすぐ乗れる準備はしておいてくれ」


「分かった、気を付けてね」


 アイリーはとりあえず、イルナに飛び乗れる準備をしておく。エルータはメダルを一つずつ嵌めていく。最後の地のメダルを嵌めると、“ガチャンッ”と何かが動く音がした。そして天井の明りが白から赤色に変わる。


「赤くなった?不正解だったか」


「周囲に機械の動きがあります。マスターは搭乗して、エルータ様も近くへ」


 アイリーはイルナに飛び乗り、エルータもそのそばへ移動する。すると部屋の4方の壁の前に檻状の金属の棒が降りてきた。脱出させない為だろう。そして天井が開き、何かが降りてくる。


「大型の機獣の反応です。4体降りてきます」


 アイリーは台座の前に移動し、エルータを守る体勢を取る。機獣が降り立ち、部屋が大きく揺れる。4体はそれぞれ異なる機獣だった。1体はドラゴンだが前に戦った物と異なり、青色をしていて、全身も鋭角が多く鋭い印象を与える。1体は人型の真っ赤なジャイアントで、手には燃え盛る剣を持っている。1体は緑色の巨大な蛇なのだが、身体に複数の羽根を持ち、宙に浮いている。最後の1体は茶色の大亀で甲羅からは複数の刃が生えている。


「さすがに1人で戦うのは無理だよね。入って来た穴に戻れるかな?」


「周りの棒を破壊する間に攻撃を受けます。また、エルータ様を守る事が出来なくなります」


「どうしよう。ドラゴン1体でも大変だったのに、エルを守りながら4体と戦うなんて出来る?」


「確認させて下さい。マスターはどうしてもエルータ様を守りたいですか?」


「そんなの当たり前だよ。アイだけ生き残るなんて嫌だよ」


「分かりました。能力制限を解除致します。マスター、一時的に全ての能力が向上します。ただし、終了後しばらくは稼働に制限がかかりますので、敵の増援が来る前にトラップの解除が必要です」


「えーと、戦っている間にエルが謎かけを解く必要があるって事?エル、出来る?」


「このままじゃアイが危ないんだろ、やってみせるよ」


「お願い」


 言っている間に機獣が迫ってくる。アイリーは敵を台座に近寄らせたら負けだ。


「イルナ、どうすればいい?」


「ビーム兵器を使います。剣状にしますので、それで近付く敵を斬って下さい」


 アイリーの手に光る刃の剣が現れる。最初に近付いたのは空を飛ぶ大蛇だった。その速度は速く、大きな口を開けた牙が今にもアイリーに噛みつきそうだ。


(間に合わない!)


 速過ぎて剣が振れず、アイリーは相手の攻撃が当たるかと身構えた。


「え、嘘……」


 大蛇は構えたままの剣に触れた部分から切り裂けていった。


「威力は軽く当てるだけで充分です」


 アイリーはそのまま剣を前へ振ると、大蛇は頭部から斜めに切り裂かれ、そのまま分離して落下していった。


「蛇型の敵は動作を停止しました。次の敵が来ます、攻撃を」


 斬られた大蛇に続いて、ジャイアントが走って来る。手に持つ燃えた剣は太く長い。アイリーも敵へと走って近付く。


(速い!)


 いつも以上に自分の身体が軽く、速く走れる事に気付いた。ジャイアントが反応し、大剣が横に振られる。アイリーは反射的に剣でそれを受けたつもりだった。が、衝撃は来ず、相手の剣は真っ二つに折れ、剣先はあらぬ方向へ飛んでいった。


「凄い。これなら!」


 アイリーはジャイアントが次の攻撃に移る前にジャンプし、光る剣で上から斬る。ジャイアントはコアごと縦に真っ二つに分離したのだった。


「ブレスと射撃攻撃が来ます。防御はワタシが行いますので、マスターは剣を構えたまま止まって下さい」


「分かった」


 どうするかは分からないが、今はイルナを信じるのみだ。残る2体は近付かずに遠距離から攻撃をしてくる。ドラゴンから冷気を伴ったブレスが吐かれ、大亀は背中の刃を大量にこちらに飛ばして来た。もし攻撃を避ければ背後のエルータに当たってしまう。アイリーは剣を構えたまま、それをただ待ち受けた。


「壁?ルルトみたいな?」


 ブレスと刃はアイリーの目の前に出来た光の壁に阻まれ、そこで止まった。ルルトの特殊技能ほど大きくは無いが、イルナと背後のエルータを守るには十分だ。


「今です」


「うん!!」


 ブレスと刃の攻撃が止んだところでイルナが壁を解除し、アイリーは駆け出す。まずは以前倒したようにドラゴンのコアの部分を剣で突き刺した。今度は2個ともコアを破壊出来た事をイルナが確認してくれる。最後に残ったのは大亀だ。


「甲羅の装甲はこの剣でも斬るのに数撃かかります。相手の口から本体へ向けて剣を突き刺して下さい」


「分かった」


 大亀はトゲの生えた尻尾で攻撃してきたが、その速度は今のアイリーには遅く、簡単に避けられた。そして、動きが止まったところで剣を構える。


「行けええええ!」


 アイリーは大亀の口へ剣を突き刺した。剣は口の中を貫通し、そのまま胴体の方へと入っていく。大亀はもがいたが、やがて動かなくなる


「コアの破壊を確認致しました。4体とも排除完了です」


「エルの方は?」


 その時、天井の明りが赤から白へと戻る。壁の金属の棒も上部へと引っ込んでいった。


「ギリギリ間に合ったよ」


 台座でエルータはガッツポーズを決めていた。


「それでは回復モードに移行致します。申し訳ありませんが、約1時間の間の動作は通常の70%になります」


 アイリーは急に身体が重くなったように感じる。あれだけの事が出来たのだから、イルナには感謝しかない。


「ありがとうイルナ。エルの方見てくるから休んでてね」


 アイリーはイルナから降りて、エルータの方へと向かった。


「結局何が正解だったの?」


「4つの絵は状態の変化を表してたんだ。最初の絵の女性の手にある種がヒントだったんだよ」


「どういう事?」


「人の成長と同様に植物の生態も表していて、種が出来て、風や水の力でばらまかれ、大地に根を張って、そこで成長して実を付ける。で、それぞれ4元素が対応して、発生は火、分散が風、定着が地で、変化が水、っていうように当てはまったんだ」


「凄い!よく短時間で分かったね」


「まあ、昔読んだ本に似たような事が書いてあったのを思い出した、っていうのが実際だけど。で、トラップは止まったけど、お宝は出てこないな」


「そうだねえ。あ、あれは?」


 アイリーが見回すと、背後の壁に先程まで無かった変化に気付く。壁に小さな凹みがあり、そこに何か光が見える。


「行ってみよう」


 近付くと壁の奥に光る板が嵌っていた。見た事の無い文字のようなものが書いてある。


「またトラップかな?」


「どうだろう。さすがに2連続、って事は無いと思いたいな」


 エルータは観察しつつ、その板に触れた。すると、その壁が動き出す。


「どうしよう」


「とにかく下がろう」


「周囲に機獣の反応はありません」


 イルナがいつでも乗れるようにアイリーのそばまで移動してきた。壁は左右にずれて開き、奥にもう一つ部屋が現れた。


「巨鎧が3機あります。全て動作しておりません」


「これがお宝かな」


「凄いな、3機もある。見た事無いようなタイプだ」


 エルータは我を忘れて巨鎧に向かって走っていく。アイリーはイルナを引き連れ、警戒しつつそれに続く。部屋には確かに3機の巨鎧が並んでいた。

 左の1機はグレーを基調とした巨鎧で長い剣と大きな盾を持ち、騎士型である事がアイリーにも分かる。

 中央の1機は黄緑色を基調とした巨鎧で、手には細長い筒状の射撃武器と思われる物を持っている。背中にも謎の機械が付いていて、恐らく射撃型と思われる。

 右の1機が一番異様だった。紺色を基調とした巨鎧なのだが、盾は無く、左右の肩にシールドらしい装甲が付いており、腰部分は鱗状の装甲で覆われ、所々に金色の飾りがしてある。最も異様なのは頭部の大きな飾りと、背中に背負った巨大な反った剣だ。イルナも他の巨鎧と比べると女性的で、見た目が大きく違うが、この巨鎧も今まで見た巨鎧と異なり、かなり異質な印象を受けた。


「騎士型はいいとして、こっちは射撃型か。で、この変なのは特殊型だよな。よし、射撃型を動かしてみる」


「大丈夫かな?」


「遺跡で発掘した場合も大体はその場で動かせたって聞くし、大丈夫だよ」


 エルータは真ん中の黄緑の巨鎧によじ登り、正面のコクピットハッチを開く。そして中に入ってハッチを閉じた。それからしばらくは動きが無い。


「どう?」


 アイリーが声をかけると、ようやくその射撃型の駆動音が聞こえた。


「凄いな、これ。見た事も聞いた事も無い機能がある。この4つのゲージは何だろう。切り替えスイッチも多いし、試してみないと分からないな」


 エルータの楽しそうな声が聞こえてきた。巨鎧にマニュアルは無く、その機能は自分で調べてみないと分からない。発掘してから数十年の積み重ねで各タイプの基本的な操縦方法は資料化されている。が、それも細かい部分で差異があったり、特殊型についてはオンリーワンだったりした。アイリーのイルナのように巨鎧側がサポートしてくれる事例は誰も聞いた事無いそうだ。


「兵士型は動かした事あったけど、大分違うなあ。何かあると怖いから、アイもイルナに乗っててくれ」


「分かった」


 アイリーがイルナに乗ると、エルータの巨鎧が歩き出す。最初はゆっくりと1歩ずつだが、やがて隣の部屋に移り、走ってみたりする。


「うん、基本動作は何となく分かった。で、どれが武器のトリガーなんだ?」


 エルータの巨鎧は射撃武器を構えるが、射撃自体が出来ず、立ち止まったままだ。


「イルナは何か分からないの?」


「他の巨鎧の操縦方法についての知識は何もありません。実際にコクピットの中を見せて頂ければ、アドバイスが出来る可能性はあります」


「これかな?」


 エルータがそう言うと、射撃武器から何かが発射される。その弾は“ボンッ”と音がして壁に当たった。アイリーはその跡を見るが、少し傷が付いているだけに見えた。


「あれ、思ったより威力が無いな。何か違うのか」


「見たところ実弾ではなく、エネルギータイプの弾でした。威力の調整が出来ると考えられます」


「調整かあ。ここら辺のレバーが怪しいかな」


「エル、ここで時間を食うより、地上に出てから調べれば?みんなも心配してるし」


「そうだな。この射撃型が合わなかった時も考えて、残り2機も持っていこう」


 エルータは一旦奥の部屋に戻り、残り2体の巨鎧も起動だけ行う。巨鎧には共通した牽引モードがあり、その状態だと牽引する巨鎧の後ろを歩いて付いてくる。


「イルナ、どこかにみんなの反応はあった?」


「いえ、いまだに反応は現れません。遺跡の壁自体がそれを妨害していると分かりました」


「とにかく上に登る道を探していけば、どこかで会えるんじゃないか」


 アイリー(イルナ)が先頭に立ち、広い通路を選んで進んでいく。牽引している巨鎧もあるので、細い脇道や部屋には入らずに行く。イルナの能力は落ちたままだったが、進むのと、途中で中型の機獣を倒す分には問題は無かった。

 2フロア分は上に登り、大きな通路を進むと行き止まりになり、部屋の入り口にぶつかった。


「部屋の向こうに機獣の反応があります」


「戻って脇道を探した方がいいのかな」


「微かにですが、更に先に巨鎧の反応があります。リムール様達の巨鎧で間違いありません」


「だったら進むしかないんじゃないか?」


「そうだね。で、機獣の反応はどれくらい?」


「中型が12体です」


「あたしも射撃で援護するよ。さっきの威力でもうまく当てればコアは破壊出来る」


「分かった、近寄らなくていいから、お願いね」


 アイリーが部屋へ近付くと自動で扉が開く。中には確かに10数体のオーガがいた。部屋の天井が高いので武器を斧に変えて敵へと突っ込む。


「でやあああ」


 斧でオーガが吹き飛ぶが、パワーが足りないからか、一振りで3体破壊するのがやっとだった。背後からエルータの巨鎧が射撃で1体ずつ破壊してくれたが、壊すのに3回ぐらいは当てる必要がありそうだ。アイリーは囲まれ、敵の剣やこん棒がたまに当たる。この程度でイルナが壊れたりはしないが、それでも傷付いていくのは悲しい。


「ごめんね、イルナ」


「マスター、気にせず破壊する事に専念して下さい」


 イルナが不調でも戦力差は圧倒的で、数分後にはオーガは全滅していた。


「じゃあ、行こう」


 部屋の反対側の扉に進んでいくと、そこで異変が起こる。前のように天井の明りが赤くなり、部屋の四方に金属の棒が降りる。どこかでトラップを踏んでしまったのかもしれない。そして、天井が開いて何かが落ちてきた。


「大型の機獣1体と中型が24体です」


「エル、下がって」


 アイリーは自分がやらなければと斧を構える。落ちてきたのはオーガやリザードマンなどの中型の集団と長い触手のようなものを多数生やした大型の機獣だった。


「タコ?イカ?」


「テンタクルっていう触手が生えた大型の機獣がいるって聞いた事があるな」


 アイリーは海を見た事が無く、タコとイカのどちらに似ているかは判断出来ない。機獣の巨大な胴体には小さな目が光っているだけで口は無く、無数の触手が胴体の下から伸びてそれで移動していた。


「触手の先端が刃になっています。あの大きさですとそれなりのダメージになりますので気を付けて下さい」


「分かった、なるべく切り裂いて防ぐよ」


「雑魚はあたしが何とかするから、アイは大型を」


「数が多いから気を付けて」


 本当は中型を一掃してエルータを守りたいが、大型がいる以上、先に大型を何とかしないといけない。


「槍で本体を貫いたらどうかな?」


「あの触手が邪魔をして本体まで届きません。先に触手を破壊する必要があります。斧のままがいいでしょう」


「分かった」


 アイリーは斧を構え、周りの中型を破壊しながらテンタクルに近付く。すると早速触手が数本こちらを攻撃してきた。


「このっ」


 斧で触手を斬り払うが、斬れるのは近付いてきた数本に一本で、残りはイルナに細かい傷を与えてくる。まだいつも通りの動きが出来ず、アイリーはもどかしさを感じる。


「マスター、無理はしないで下さい。少しずつでも破壊していけば倒せます」


「でも、早くしないとエルが……」


 既にエルータの黄緑色の巨鎧は中型に囲まれ、攻撃を防ぎながら1体ずつ撃って破壊している。背後にいた牽引した巨鎧も攻撃を受けていた。自動で付いてくる状態なので勿論防御も反撃も出来ない。


「アイ、気にせず戦え。こっちはまだ大丈夫だ」


 エルータが心配しているのに気付いたようで、アイリーを安心させようとする。アイリーは攻撃を繰り返すが、複数の素早い触手の動きに翻弄され、逆に他の中型からの攻撃も受けるようになってきた。


「マスター、もう少し距離を離して下さい。敵に有利な距離に誘導されています」


「分かった、分かったけど」


 数本の触手を一気に斬った後、一旦距離を離す。まだまだ触手の数は多く、埒が明かない。エルータの方も移動しつつ敵と戦っているが、それでもかなりの数に囲まれている。


「分かった!4元素だ!」


 と、エルータから突然叫び声が出た。


「何?何か分かったの?」


「あの部屋の謎かけも、出てきた機獣も4元素に関係してたんだ。この巨鎧の4つのマークのレバーもそれに対応してる。アイ、そのまま大型に近付かないで待機して」


「う、うん」


 何か分からないが、エルータに言われた通りにする。エルータの巨鎧がジャンプをする。そして、射撃兵器から何かを撃ち出した。それは真っ赤な炎だった。巨大な火の玉はテンタクルに命中する。するとテンタクルは燃え上がり、その触手の殆どが焼き落ちていった。


「今だ、アイ!」


「分かった!!」


 アイリーは駆け出し、まだ燃えているテンタクルに斧を叩き込んだ。それはテンタクルの頭と思われる部分に刺さり、切り裂いた。


「コアの破壊を確認致しました。複数のコアはありません」


 イルナが倒した事を確認する。と同時に天井の明りが白色に戻り、金属の棒が上がっていく。完全に棒が上がると、奥の扉が開いた。


「居ました!遅くなり申し訳ございません」


 レイネンのロガンが扉から現れ、その後に残りの巨鎧と生身のシリミンが入ってくる。


「まだ敵は残っていますわね。あとはわたくし達がやりますわ」


 残った中型の機獣はリムール達が瞬く間に破壊していった。



「そんな事がありましたのね。わたくし達も必死に探したのですがなかなか大変でしたわ」


 アイリーが簡単に起こった事を話すと、リムールも同様に説明してくれた。


「一応魔法でそっちの位置は補足出来たけど、下へ降りる通路を探しつつ機獣と戦わないといけなかったからね」


「スーライ今回役立たなかった。ごめんなさい」


「シンちゃんが謝る必要は無いよ。でも、みんな無事で良かったー」


「それもこれもあたしが落ちたのが悪いんだし。まあ、見ての通り巨鎧が手に入ったから、悪い事ばかりじゃなかったんだけど」


「そうだね、じゃあ地上に戻ろう」


 目的も果たし、他にお宝を探そうという者もいなかったので、そのまま地上へ戻る事になった。機獣の残骸なども持って帰れば金になるが、既に巨鎧3機というお宝もあり、荷物になるしお金も不要という事で、今回は置いていく事にしたのだった。


「マスター、少しいいですか?」


「何?」


 戻っている途中でイルナがコクピット内だけの会話をしてきた。


「今回の戦いで使った能力ですが、仲間内だけの話で、他の方には言わないようにして貰えますでしょうか?」


「いいけど、どうして?」


「一つは今後の戦いで敵に能力を知られると対策されるからです。もう一つはワタシの能力が高いと知られると、盗まれたり襲われたりする可能性が高くなるからです」


「そっか、それは困るよね。まだ詳しい事はエルしか知らないし、エルにも他言無用と言っておくよ」


「ありがとうございます。あと、あの能力は今後いつでも使えるとは考えないで下さい」


「もしかして何かあった?」


「いえ、そうではありません。使うと今回のようにその後の能力が制限され、マスターに危険が及ぶからです。今まで能力をマスターに説明していなかったのも同様の理由からです。もちろん使わないと危険な時にはワタシの方から提案します。それ以外の時は今まで通り戦って下さい」


「そうだよね。うん、ありがとう。イルナはいつでも心配してくれてるんだね」


「心配ではありません。ワタシのミスでマスターを危険に合わせない為に、全力でサポートしているだけです」


「でも、今回はエルの事も含めて考えてくれたよね。やっぱりイルナは優しいし、大好きだよ」


 アイリーは自分の想いを素直に語る。他の巨鎧と違う、自分だけの特別な存在。いつも守られていると感じている。


「マスターの好意はありがたいです。ただ、あまりワタシを特別視しないで下さい」


「どうして?イルナは特別だよ」


「ワタシは兵器で、機械です。マスターはその事を忘れている時があると見受けられます」


「うーん。アイはあまりそこは重要じゃないと思うんだけどなあ」


 アイリー自身も自分がおかしいかな、と思う事はあった。でも、今は素直に自分の思うままでいいのではと考えるようになっていた。


「ワタシはマスターの考えを尊重致します。ただ、その考えがマスターの危険に繋がる可能性があれば指摘させて頂きます」


「うん、何でも気付いたら言って欲しいな」


 どんな言葉でもイルナの言葉なら受け入れられる。アイリーはそう思うのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ