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憑たえたい想いはありますか?

 俺は向日葵と、ちゃんと向き合っていだろうか?…確かに再会してから話は沢山した。でも、どこかで逃げていたと思う。

 思えば向日葵が生きていた頃から俺は逃げていた。向日葵に自分の気持ちがバレるのが、振られるのが怖かったんだと思う。

 自分気持ち蓋をして、仲の良い幼馴染みを演じていれば傷つかずに済むから。

 今も同じだ。向日葵が死んだ事から目を背けてたくて、実家との距離も置いてきた。故郷には向日葵との思い出が沢山詰まっているから。

(大人になっても臆病な所は変わらないか…そりゃ人生も詰むよな) 

 肝心な所で勇気を出さずに、自分の気持ちを誤魔化して傷つく事から逃げてきた。

  

「譲ー、怖い顔してどうしたの?まさか、お腹を壊したとか?」

 当の本人は俺の気持ちを知ってから知らずか相変わらず能天気である。


「怖い事を言うなよ。今日、検食だったから腹を壊したら面倒なんだぞ。向日葵、明日休みだけど行きたい場所とかあるか?」

 利用者にもお腹を壊した人がいたら、恐怖の保健所さんが来かねない。


「うーん、遊園地は?」


「おっさんが一人で遊園地に来てる様に見えるだろ?」

 昔は向日葵と遊園地に行けたらって、妄想はしてたけど今は勘弁して欲しい。


「こう言うのは普通男が考えるモノでしょ」


「それなら久し振りに大山に里帰りしないか?タコさん公園とか懐かしいだろ」

 タコさん公園、正式名称は大山第三児童公園。でも、タコの形がした滑り台があるからみんなタコさん公園って呼んでいる。


「タコさん公園!?懐かしいなー、良く二人で遊んだよね」

 タコさん公園で遊んでいた頃は、変なコンプレックスを感じずに向日葵と向き合えていた。


「それじゃ決まりだな」

 向日葵は覚えていなかも知れないが、一度向日葵に告白しようとしてタコさん公園に呼び出した事がある。向日葵の部活が忙しくて呼び出した自体が断られたんだけど。

 あそこでなら、自分の気持ちとも向き合えると思う。


――――――――――――――


 朝から青空が広がり絶好のドライブ日和になった。


「大山か…町中に行くのは久し振りだな」

 向日葵は事故死してから二十年、一人で呼び込み峠にいたらしい。


「大山も変わったぞ。駅前のたい焼き屋は潰れたし」

 大山駅の近くにあったたい焼き屋は向日葵のお気に入りスポットの一つ。


「うそっ!!あそこのたい焼きはこし餡だったから大好きだったのにー。なんで潰れる前にお供えしてくれなかったの?」

  

「俺が潮騒に来てから潰れたんだよ。文句はヤオンに言え。あそこが来てから駅前商店街がシャッター商店街になったんだぜ」

 地方の商店街が大手資本に太刀打ち出来る訳もなく、大山駅前商店街は大分前から青色吐息だ。


「譲って大人になったら変に物分かりが良くなったよね。周りと波風を立てない様にしてさ」


「当たり前だろ。政治家じゃないんだから、自分で責任を取れない事は言わないよ」

 ヤオンの身内に地方再生を謳っている政治家がいるし。


―――――――――――――――


 大山に入ってから向日葵のテンションは鰻登り、あそこで何をしたとか、ここにどんな思い出があるとかはしゃぎまっくている。

 

「タコさん公園に到着ー!!譲、ブランコにする?それともシーソー?タコさん滑り台は外せないよね」


「おっさんがブランコに一人で乗っていたらいらない誤解を受けるだろうが!?それに一人でどうやってシーソーをするんだ?」

 騒ぎまくる向日葵を宥めていると、ある事に気付いた。

(ここの遊具って、こんなに小さかったんだ。公園ももっと広いと思ってたんだけどな…)

 昔はキラキラと輝いて見えた遊具だけど、今はどこかくたびれて見える。


「つまんないの…ねぇ、譲…昔私をここに呼び出した事があったでしょ。あの時は用事はなんだったの?もしかして告白?」

 やっぱり、向日葵も分かっていた。まあ、よっぽどの鈍い人じゃなきゃ告白だって気付くと思う。


「まあな…あれ勇気を出したんだぜ。まかさか告る前に断られるとは思わなかったよ」

 その少し後に、向日葵から好きな人がいるって言われたから実質振られた様なものだ。


「…なんであの時に自分の気持ちを誤魔化しちゃったのかな?あの時、譲の気持ちをちゃんと聞いていたら違う人生を歩めたのかな?」

 向日葵は泣いていた、幽霊になっても笑顔を絶やさなかった向日葵が大粒の涙を流している。


「向日葵…?」


「私ね、崖の上から私の名前を呼んでいる譲を見て気付いたの…私が本当に好きなのは譲だって…自分の馬鹿さが悔しくて悔しくて。毎日毎日、崖の下で泣いてたんだ」

 頭が熱くてボーッとしてくる。


「そっか…」

 良い大人の癖して気の効いた台詞が一つも浮かんでこない。


「でも、誰も気付いてくれない。そんなある日、八木さんって人が来てこう言ってくれたの”貴方の想いを叶えるお手伝いをします”って。そうしたら本当に譲を連れて来てくれた…嬉しかったな」

 向日葵は笑っていた、俺が大好きだった笑顔を浮かべながら哀しそうに笑っていた。


「想いを叶えるって…まさか、お前!?」

 向日葵の体が足元から消えていってる。


「幽霊になっても迷惑ばかりかけたけど、譲と過ごせた時間は楽しくて嬉しくて目的を忘れそうになってた…ううん、成仏して楽しい時間が終わるのが嫌だったんだ」


「終わらさなきゃ良いだろ!?憑かれてる本人が居ても良いって言ってんだぞ」


「譲、大好きだよ…あはっ、やっと言えた」

 向日葵はもう胸まで消えかかっている。


「おい、いきなり人に取り憑いて言いたい事を言っていなくなるのかよ…そんなの勝手すぎるぞ…お前が来てくれて一人の寂しい生活が賑やかになって楽しかったのに…勝手に終わらせるなよ」


「ごめんね…でも譲のお陰で笑顔で成仏が出来るんだ…さよなら、大切で大好きな私の幼馴染ゆずるみ」

 向日葵はそう言うと消えてしまった。最初から向日葵の幽霊がいなかったかの様に。


――――――――――――


 後から聞いた話だけど八木さんには幽霊の彼女がいたそうだ。その彼女さんは八木さんを庇って成仏したらしい。

 それから八木さんはオカルト雑誌に就職、読者の手紙や噂を元に取材を兼ねた調査をして迷える幽霊を成仏させいるとの事。

 …確かに俺の人生は詰んでいる。だけど、投げだしりたりはしない。

 一生懸命生きて向日葵に自慢をしてやるんだ。嫁や子供の話をして悔しがらせるのも良い、美味い物の話をして怒らせても面白いだろう。

 詰んだからって幸せになる事を諦めたら、向日葵は話もしてくれないだろう。

 他人から見たらくだらない小さな人生だろうけど、一生懸命生きてやる。

ハッピーエンドとは言い難い終わりかたです。この小説は人生を諦めている男性の再生がテーマでした。

だから、転生した向日葵と再会したり、向日葵と一生を共にせず譲が一人で歩き出す終わりにしました


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