表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私の中のひとしずく  作者: くろくまくん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/6

最後のしずく

私 90歳

明美 66歳

——ぽとり



——ぽとり



 私はベッドに寝かされていて。静かな、とても静かな空間の中で、そのしずくだけを感じていた。


 

——ぽとり



『ヒロちゃん、こっちやで〜! ほら見てみ』


 確かこのあとアマガエルを見せてきたような。



——ぽとり



『そういう風に思ったことを素直に言ってくれるヒロちゃんが、好きやで』


 誰の言葉だったか名前も覚えていないのに、何故かそのセリフだけはついさっきのことのように覚えている。



——ぽとり



 あーちゃん あーちゃん

 かわいい あーちゃん



 あーちゃん……ふわふわで、いい匂いで、抱っこしている私が包まれているような、そんな気分だったな。



——ぽとり



『も〜、うるさいなぁ、母さんは。仕事でも遊びでもどっちでもいいやんか。もう、私大人やで?』


 もう大人になったのか。子供の成長って早い。


 あぁ、ホントに早いなぁ。



——ぽとり



『まぁそうやけど。でも、一日は無理やわ〜。お昼くらいには切り上げて帰りにいつものランチバイキングに行こうや〜。私、あそこの手作りハンバーグが好きなんよ』


 あそこのハンバーグって……なんだっけ。



——ぽとり



 そのあとも確か色々なことがあったと思う。


 もう目もあまりよく見えなくなっているけど。


 身体もまともに動かせなくなっているけど。


「あーちゃん……」


「母さん、いつまでも子供の時みたいな呼び方して……なんだか若返った気になるわ」


 私の手をそっと握ってくれる。優しい温かさを感じる。



——ぽとり



「にぎりめし、こさえてこよな」


「何いってんの、母さん。こんな時にまだ食べもんの話なんて、食いしん坊やなぁ〜」


 なんだかふわふわと温かい。


 とても、心地よい。


 なんだか、私の顔からもしずくが出てきている気がした。



——ぽとり



——ぽとり



 あぁ、このしずくは。


 私の涙なのかな。


 でも、悲しいとか、苦しいとかではない。


 とても、心地よい。


「母さん? 母さん!」


 そんなに心配せんでもいいよ。


 私は大丈夫やから。あなたに見守られて私は凄く幸せやから。


 やから、泣かんでもいいよ。



——ぽとり



——ぽとり



 ありがとう……


 そして、さようなら……





 完




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
 読ませていただきましたぁ。  滴り落ちると表現したらいいのか、それとも『落ちている』と表現したらいいのか迷うところですけど、小さいころから『自分だけが感じていたなにか』がきっとあって、積み重なって…
積み重なっていくひとしずく。 それは主人公の心が動く音なのか、それとも思い出なのか。 なんだか色々考えながら読ませていただきました。 タイトルが素敵ですね。 くろくまくんさん、ありがとうございました。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ