第1話 一輪のバラ
植物王国。
そこでは、植物の精霊と人間が共存している。
港町リーズン。
一家庭に一輪。植物の精霊がいた。
「ローズ、ごめんよ」
「ごめんなさい、ローズ」
おじさんとおばさんが言った。
「オレは、ワール。高利貸しの黒い天使さ」
手をつなぎ、どこかへとローズを連れて行く男。
暗闇の道が続く。
長く、長く歩いた。どこまでも、歩いた。
「私は、どこへ行くの?」
「良いところへ行くかもしれないし、悪いところへ行くかもしれない」
「どっちなの」
「どちらでも、ないかもしれない」
ワールという男は、ニヤリと笑っている。
楽しそう。
この人は、何が楽しいのだろう。
暗闇の道を進んで行くと、突然、光りが強い場所にたどり着いた。
「商人さまたちのお集まりさ」
金銀財宝の輝きがあふれている。
ギラギラした場所。商人たちだけのオークション会場だ。
「さて、お集まりの商人さまに挨拶してくれよ」
「私?私は、ローズ」
ローズは、商人たちから、物珍しそうに見られている。
「一輪のバラ。ローズを買うのは、どなたかな」
第1話 一輪のバラ
「ああ、いそがしいです」
調合する魔法薬の材料が見つからない。
クローバーの薬草が、見当たらない。
いや、使ってしまって、もう在庫がないかもしれない。
その場合は、街の庭園に買いに行く。
「納品に間に合わないですよ」
目隠し髪の青年は、倒れ込んだ。
疲れた。ろくに眠れていない。まぶたが重い。
「おーい。ミントくん」
ギュッ。
商人のライムが、その上半身を抱きしめる。
「な、何するんですか」
「愛を届けに来たよ〜」
「あ、愛って、一輪のバラの保護権を買えたんですか」
「うん。褒めて。ミントくん」
「褒めます。ありがとうございます」
ミント・マクスウェル。20歳。
薄紫色の目隠し髪の青年。
真面目な敬語の魔法使い。魔法の薬屋の若主人。
今のところ、一人で経営中。
今のところは、である。
「はい。自己紹介して」
ライム・ライト。20歳。
気まぐれ商人。ミントの友人。
商人オークション会場で、一輪のバラの保護権を買った。
「私。私は、ローズ」
質素な白いローブ。しかし、長い髪は情熱の赤。
可愛い女の娘だ。
「か、可愛いですね。一輪のバラって」
ミントは、目隠しの髪のまま、身なりを整える。
「ミント・マクスウェルです」
背の高い、男の子。
目隠し髪の奥の瞳が、少し、カッコいい。
「私は、ローズ…」
「ローズですか。可愛い名前ですね」
「あなたは、誰」
見つめる。少し、優しそう。
「僕は、キミの主人になる人ですよ」
「主人って、何」
考える。男の子は、真面目な顔。
「キミの主人。キミだけを好きになる人です。僕は、キミと結婚するんです」
「…結婚」
わからない。いや、わかる。
男の人と女の人が、一緒に暮らす約束をすること。
「そうです。夫婦になって、一緒に魔法の薬屋を経営しましょう」
だきっ。
ミントは、ローズを抱きしめた。
顔が熱くなる。この男の子は、夫婦になると言う。
部屋は、用意してある。二階の角部屋。
真面目だけど、うっかり者のミントのため、準備は全てライムが用意している。
衣、食、住の用意は、お手のもの。
女の娘に失礼のないように、果たしてミントにできるのか。
「これから、二人で頑張るんだよ」
言い残して、商人ライムは、去って行った。




