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第一章 伝説の鍵使い、スローライフを満喫する

ブラックパーティからの退職勧告

「お前の『鍵開け』スキル、もう用済みだから。退職金代わりに、その辺の魔獣の餌になってくれや」

背中に強烈な蹴りを浴び、俺――タカギ・カナタは冷たい石畳の上に無様に転がった。

顔を上げると、ルナミス帝国最強と謳われるS級パーティのリーダーであるジークが、ゴミを見るような目で俺を見下ろしていた。

ここは大陸最難関とも言われる凶悪なダンジョンの最深部。

俺はたった今、全魔力を振り絞って、誰も開けられなかった分厚いボス部屋の『ロック』を解除したばかりだった。

「……な、何を言ってるんだ? ボス部屋の鍵も開けたし、道中の罠の解除も荷物持ちも、全部俺が一人でやったじゃないか! 約束通り、報酬は分配して――」

「あぁ?」

高価なミスリルアーマーを着込んだジークが、呆れたように鼻で笑う。彼の後ろでは、他のパーティメンバーの女魔術師や重戦士も、クスクスと下劣な笑みを浮かべていた。

「レベル5の底辺『鍵使い』が、俺たちS級と同じ報酬を貰えるわけねぇだろ。宝箱や扉を開けるしか能のないゴミがよ。お前はここまで安全に来るための、ただの使い捨ての鍵だ。……おい、来てるぞ」

背後の暗闇から、グルルル……と低い唸り声が響く。

血の匂いを嗅ぎつけた高ランク魔獣『シャドウ・ウルフ』の群れだ。その数は、暗闇に見えるだけでも数十匹に上る。

「ひっ……!」

「じゃあな、カナタ。囮として、せいぜい三秒くらいは時間を稼いでくれよ!」

ジークたちは俺を残し、開かれたボス部屋の中へ一斉に入り込んだ。そして、内側から重厚な扉を閉ざしてしまう。

ドンッ! と重い音がダンジョンに響き渡り、俺は完全に魔獣の群れと密室に取り残された。

「嘘だろ……開けてくれ! 頼む!」

扉を激しく叩くが、びくともしない。完全にロックされている。

振り返れば、暗闇に無数の赤い目が光っていた。鋭い牙から涎を垂らし、シャドウ・ウルフたちがじりじりと距離を詰めてくる。

俺の装備はタローマンのワゴンセールで買った安物の革鎧と、護身用の錆びかけたショートソードだけ。まともに戦って勝てるわけがない。

(あぁ、俺……また、死ぬのか)

死の恐怖が限界を突破した瞬間。

俺の脳裏に、かつてないほどの鮮明な『記憶』が濁流のように流れ込んできた。

チカチカと点滅する、深夜の不気味な蛍光灯。

デスクに山積みにされた、栄養ドリンクの空き瓶。

『タカギくん、この仕様変更、明日の朝までに実装お願いね。できないなら代わりはいくらでもいるよ』という、上司の冷酷な声。

72時間連続勤務の果て、心臓を鷲掴みにされたような激痛と共に、PCのモニターに突っ伏して息絶えた前世の記憶。

――そうだ、俺は日本のIT企業で、社畜SEとして過労死したんだった。

記憶を取り戻した瞬間、恐怖は完全に消え失せた。

代わりにどす黒い『怒り』が、腹の底からマグマのように湧き上がってくる。

ふざけるな。

前世ではブラック企業で使い潰されて過労死して。

せっかく異世界に転生したと思ったら、今度はブラックパーティで奴隷扱いされた挙句、魔獣の餌として使い捨てられるだって?

冗談じゃない。

誰が、二度も同じように搾取されてたまるか。

誰が、こんな理不尽なシステム(運命)に従って死んでやるものか!

「……ふざけんな。俺は、今日でこのクソパーティを退職させてもらうぞ……!!」

血を吐くような思いで叫び、俺は腰のショートソードを力強く引き抜いた。

絶対に折れないという意志を込め、迫り来る魔獣の群れに向けて刃を真っ直ぐに構える。ただ喰われるだけの奴隷としてではなく、自分の足で立ち、抗うために。

先頭の魔獣が跳躍し、俺の喉元を食いちぎろうと凶悪な牙を剥き出しにした、その刹那。

世界が静止し、脳内に無機質なシステム音が響き渡った。

《――生体パスワードおよび、魂の管理者アドミニストレータ権限を確認》

《ユニークスキル『鍵使い』の真の能力――【概念ロック解除ハッキング】を解放します》

お読みいただきありがとうございます!


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