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気づいてしまった、モブの真実

前世の俺の話をしよう。

両親は政略結婚であり、愛などはじめからなかった。

父親の後継者と名ばかりの俺が生まれたが、嫌いな男の息子など母は見向きもしなかったし会社の駒としか考えてない息子の不出来さに父も興味を持っていなかった。

そんな中で父の秘書をやっていた男が俺を哀れに思ったのだろう、父に進言し自分の息子を俺の傍仕えにした。


そのおかげか、グレずにひとまず真っ直ぐ育てたのはその息子、一将のおかげだったと思う。

『この一将がいつでも傍に』そう言った一将は俺が拗ねてどこに隠れようが見つけてくれるし、使用人のエプロンを隠すなんて子供のような悪戯には一緒になって遊んでくれた。

悪戯で人に怪我をさせてしまった時は真剣に叱ってくれたし、俺が告白に悩んでた時は『あなたならきっと上手く行きますよ。俺が主に選んだ人なのだから、間違いはありません』と励ましてくれた。


そんな一将に支えられて、俺は…みどりさんに告白をし、付き合い、そして結婚をした。

家に戻る気などさらさらなく俺はみどりさんの婿養子になった。家も最初から俺に期待などしておらず、何も言われなかった。その後親父は事業に失敗し会社を潰した、と風の噂だけで聞いた。


みどりさんの父親の仕事を継いで、一将も俺のサポートをするとついてきた。仕事は順調。歳を重ねてからみどりさんとの間には女の子がひとり産まれた。俺の世話をしたならばその娘の世話をするのも自分だといい、その頃には一将もバカ広く作っただけの俺の家に移り住んだ。高校時代に俺が雨の中で見つけた雄の犬はみどりさんが飼ってくれており、移り住んだ際にその子も一緒にきてくれた。実家では飼えなかった犬を思う存分可愛がろうと保健所から同種の雌の子を引き取りもした。実はこの時飼っていた雌の小梅が今飼っている子の生まれ変わりだ。小梅はまったく持って素知らぬ顔だったけど…。


娘が大きくなり、運命の人に出会い結婚した。孫娘が生まれる頃には俺達は随分と歳を取っていた。

…先に逝ったのは俺だった。みどりさんと一将と娘に見守られた。いい人生だったと笑えばみどりさんは微笑み、一将は表情を歪ませ、娘は泣いた。


意識を失う寸前、一将は俺の手を握って震える声で告げた言葉が…ずっと俺の耳に残っていた。

『来世も…いいえ、来世こそ…あなたに心の底から幸せだと思ってもらえるように、…俺は……』

十分幸せなのに、幸せだったのに、俺を傍で見守ってくれていた一将が泣きながら告げた、俺の幸せ。


あぁ本当に聡い男だよ、お前は…。

親に愛されなかった俺はずっと孤独だった、せめて自分の子にはそうさせないようにたくさんの愛情を注いだ。娘もそうできる人で在れ、と願い、優しい子に育ってくれた。

いい嫁さんにも、いい友人にも恵まれた。それなのに、俺の中ではずっと燻っていた想いがあったのだ。

これは本当に俺の幸せなのだろうか、と。


まるでゲームのような人生だった。親に愛されない俺がたくさんの人に好いてもらえた。親のようにはならないとたくさんの人に手を差し伸べ、偽善と言われても少しでもその人生の助けになりたかった。

意地っ張りな自分に悩むお嬢様、なんでも出来るが故に甘えられない委員長、引っ込み思案な後輩…色んな子と出会った。色んな子の力になってきた。

その中で、みどりさんに出会い、心惹かれて、一緒になったのに……どうしても満たされなかった俺の心。

出来すぎた俺の人生。レールに乗って進んできたような物語。誰に言われている訳でもないのに、誰かに決められたようだった、道を外れてはいけないのだと。


一将はそれに、気づいたのだろう。俺の本当の想いは、道をはずしたその先にあったのだと。

そして俺は生まれ変わった。誰に何も言われない、ただ主人公の行く道の端っこで自由気ままに生きられる人生。

主人公の邪魔さえしなければいい。いくら道を外れようと誰も咎めはしない、望んだ人生。

見守られていた俺が今度は人を見守る、それが俺の幸福だと思った。思ったのに。


「……うまくいかないもんだよなぁ」


「…持木くん、さっきからため息ばっかり…どうしたの…?」


中庭のベンチに腰掛けながらぼんやりしていた俺に声をかけてくれたのは森浦さん。前世に重なるその姿に瞳を細めると、気持ちを切り替えるように俺はへらりと笑った。


「…友達の恋を応援したいんだけど、なかなかうまくいかなくて」


「…上紺屋くんの…?」


「あいつ、多分難しい恋をしてるらしくて…俺にできることないかなって思ってるんだけど、なかなか…」


じ、と校舎を見上げれば窓際にいるのは一将と真堂。何やら世間話でもしているのか、真堂は楽しそうだし一将は変わらず無表情で頷いている。

俺の幸せを願った男、一将。生まれ変わった俺は幸せだ。だから次は一将だと思って張り切ってるが…どうにもうまくいかない。

一将も真堂も嘘を言う男じゃない。なのでたまにお互いの事をどう思うか、と聞いてみると「普通」とだけ返ってくるのだ。真堂に一将の良さを伝えた所で「そうなのか!いい友達なんだな、そこまで見て伝えられるなんて持木は上紺屋をしっかり見てるんだなぁ」なんて言われる。

バカヤロー。当たり前だろう、何十年見てきたと思ってんだ!


一将に真堂のことを言えば、まったく興味が無いとばかりに流される。何故だ、一将は真堂が好きなはずなのに…隠してるのか!?あえてそう見せてるのか!?


「上紺屋くんの好きな人って…」


「真堂なはずなんだけどなぁ」


「真堂くん…?」


…は!?やべえ!口が滑った!!本人の見知らぬ所で勝手に重大なカミングアウトをしてしまった、やばい。あわわわ…!

ひとりあたふたしていたらこてん、と首を傾げた森浦さんが俺をじっと見つめた。


「上紺屋くんの好きなひとは……真堂くんじゃないと思うな…」


「えっそうなのか!?もしかして森浦さん、知ってるのか…?」


「……うん」


まさかの盲点。森浦さんが知ってるなんて…!聞きたくてうずうずしながらずい、と森浦さんに見ていたらじ、と見返された。

え、なに、そんな可愛い顔で見つめられたらときめくんだけど…。

森浦さんが俺を見て、そして校舎に目を向ける。

それに促されて、俺も校舎を見上げ直す。


そこには真堂と話し終えて、こちらに気づいて窓を開けている一将の姿。

開けた窓から軽く身を出すと、一将は俺と視線を合わせてヒラヒラと手を振っていて。


とりあえずヒラヒラと振り返す。それから森浦さんに目線を戻して、続きを、と促すけど…森浦さんは黙って俺を見つめている。

え、…なぜそんなに俺を見て…?……え?

ばっとまた窓際にいる一将を見る。そしてまた森浦さんを見る。ばっばっと繰り返す俺はまさに挙動不審だろう。

いや、だって、まさか、そんなはずは、なぁ?


何度かそれを繰り返し、一将は見るとそんな俺がおかしかったのだろうか。

ふ、と笑う一将がそこにいて…その昔、一度か二度しか見たことなかったその微笑む姿にぼっと俺の顔が真っ赤に染まった。

これを確信と言えず、なんと言うのか。


もしかして……一将の、好きな人って……俺、なのか…!?


「……ねぇ、持木くん気づいてる…?」


「…え?」


「……持木くんもね、同じ顔して上紺屋くんのこと見てるんだよ…?」


女の子と付き合って、結婚して、子供を持たなきゃいけないと思っていた。

それが普通。それが俺に課せられた運命。外れてはいけない、俺の人生。

だからずっと、知らないふり、見てないふり。

ずっと傍で支えてくれた一将を見ていた俺も、ずっと独り身を貫いていた一将も、気づいてはいけなかったんだ。


だから、だから俺は……俺は……持木誠人に、前世には関係ない俺に、生まれ変わった。

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