私から見た彼の話
「…おはよう、梅太郎」
私を起こしにきてくれた雄の柴犬の梅太郎を撫でながら時計を見ると、もう朝の支度を始める時間だった。
今日は随分と懐かしい夢を見て起きるのが遅くなってしまったらしい。
最近は見なくなっていたのだけど…小さい頃はよく見ていた夢。
白くて大きな家に、雄と雌の柴犬二匹を飼っている私がいた。
隣には優しく笑ってくれる旦那様と、その後ろに控えている男性がひとり。
とても優しく、とても幸せな夢。
一緒に歳を取って、娘を抱いて、愛犬達を見送り、その子犬が大きくなって娘と一緒に嫁いでいく。
大きな家に三人だけになって、穏やかに余生を過ごした。
年老いた旦那様が先に逝ってしまい、その後を追うように仕えていた男性も逝ってしまった。
ひとり残された私は娘夫婦と孫娘と余生を過ごす。
ベットに横たわりながら私は言うの。
可愛い小さな孫娘の頬を撫でて、娘の手をそっと握って…。
『 いつかどこかで男の子が産まれたら、どうかあの人の名前を受け継いでほしい。彼のように優しく聡明で、誰にでも愛される人になってほしい。
…でもね、彼は自分を嫌っていたわ。一番愛されたかった親に愛情をもらえなかったから…きっと彼は自分と違って親にも愛される、自分自身にも優しくできる、そんな子を望むわ。
だから、彼の名前を逆さまにもらいましょう。
彼のようになって、そして彼が望まない自分にならないように、
【陽太】の名前を、【太陽】に。
自分も照らす、太陽になって。 』
そう繰り返す私は静かに目を閉じる。
それは幻にするにはあまりにもはっきりした夢だった…。
陽太。それが夢の中、私の旦那様の名前。
夢物語と知りながら幼い頃から見ていたそれは、高校に入ってから真堂くんのおうちに産まれた子犬をもらった際に夢の中の雄の柴犬と同じ名前をつけてしまう程に残っていた。
はじめて真堂太陽くんに出会った時、胸が早まったのを覚えている。
夢の中で私が言った通りの人。
天真爛漫で心の底から明るい人、太陽のような人。家族の話を聞けばそれは仲のいい両親と自分の話をしてくれた。
この前は上紺屋くんと持木くん、それに 私と真堂くんと四人でご飯を食べていた時に、そんな話になったのを覚えている。
『真堂くんの名前って…いい名前だよね…』
『はは、ありがとう!なんでも曾祖母さんの遺言らしいんだ。曾祖父さんの名前を継いでほしいって』
『…曾祖父様の…?』
『あぁ、でも丸っきり一緒じゃないよ。確か…えーと…なんだっけ、…太陽じゃなくて…よ、……よ…』
『……陽太?』
『あ、そうそう!持木、よくわかったなぁ、もしかしてメジャーなのかな?』
あっけらかんと笑う真堂くんとは対照的に、持木くんはたまたま口にしただけの名前だったろうけど凄く驚いた顔をしてそしてすごく嫌そうな顔をしたのを今でも覚えている。
彼はいったいそれを聞いてなにを思ったんだろう…?




