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昼下がりのkamome café  作者: はる
kamome caféの紗羽
7/9

再会

 テスト期間だったので、しばらくバイトは休んでいた。

 その間私はずーっともやもやしていた。

 何ていうか……図らずも佐久間くんにドキドキしてしまって……いや、年下だしね? ただのバイト仲間だしね? それにお互い他に好きな人がいるしね? そんなわけないって思うんだけど!

 そう、私は一ノ瀬さんが好きで……もちろん憧れの気持ちが強いから、付き合いたい、彼女になりたいなんて明確に思ってるわけじゃない。彼女がいることも知っているから、そんな人と争いたいと思っているわけでもないし。

 でも、バイトに行って、今日は一ノ瀬さんがいるんだ、と思うと嬉しくて気持ちが明るくなるし、いないとちょっと残念だなってがっかりする。

 私にこっそりコーヒーじゃなくてティーラテを入れてくれることに、この上ない幸せを感じている。

 そんな小さな幸せを心の中に積み上げていくのが好きだった。

 それなのに……

 今まであんまり話すことがなかった佐久間くんと、一緒に働いているうちに少しずつ話すようになって。

 佐久間くんはどうやら美咲さんのことが好きみたいだから、お互い年上の人に片想いしてるんだなあ、と勝手に共感していて。

 そんな中、私が落ち込んでいる時は、佐久間くんが助けてくれたり励ましたりしてくれることが分かった。

 この前なんて、ひょんなことからお互い下の名前で呼び合って、佐久間くんが見たことないような親し気な表情で笑って……

 普段物静かであまり表情を変えない佐久間くんのそんな顔を見てしまったら、びっくりしてどきっとしてしまったってしょうがないでしょ?

 佐久間くんは高1だ。この前まで中学生だった彼は、まだ顔つきや体つきに少年ぽさが残っている。今も身長は低くないけど、まだこれからも伸びそうな雰囲気。

 私よりたくさんバイトに入っているので、私よりしっかり仕事ができている彼のことを、私は頼りになる後輩だなあ、くらいにしか思っていなかったのに。

 おいしくないグミをもらって顔をしかめながら食べて、何これ、って笑い合っていたら、急にすごく仲良くなってしまったような気がした。

 何となく、だけど、私たち、お互いに一緒にいて楽しいって思ってるよね? って思って……

 いや、別に、他の人と一緒にいたって楽しいんだけど!

 他のバイト先の人たちとも、暇な時とかしゃべって、楽しくて笑ったりしてるけど!

 でも、ほんの少しだけ、佐久間くんと一緒にいる時の楽しさって、そういうのとは違うのかも? って思ってしまった。





 テストがようやく終わって、二週間ぶりのバイトだ!

 今日は……佐久間くん、いるかな? と一瞬考えて、すぐにいやいや、と頭を振った。

 違うって! 今日は一ノ瀬さん、いるかな? でしょ? どうして先に佐久間くんのこと考えてるんだ私!

 あーもう、と思いながら、両手で頬をばしばし叩きながら歩いていると、不意に背後から声をかけられた。


「佐伯さん、おつかれさまです」


 めちゃくちゃどきっ! として振り返る。

 佐久間くんが私の後ろから歩いてきていた。


「あ、な……さ、佐久間くん」


 一瞬凪くん、と言いそうになって、いやいや、向こうだって私のこと苗字で呼んでた! と思い出したので、私も苗字で彼を呼んだ。


「なんか久しぶりですね」


「あ、うん。テストやったから」


 こんな風に、駅からバイト先まで行く途中で佐久間くんに会うのは初めてだった。

 何だかうれしくなって跳ねそうになる。


「機嫌良さそうですね」


「えっ? あ、うん、そらテスト終わったから! やっと解放されたー」


「良かったですね」


 佐久間くんが少し笑顔になる。あれ? 以前より……親しげな感じがする……のは、気のせいかなあ。

 以前の佐久間くんも同じように言っていたと思う。でもこんな風に笑顔を見せてくれていたかな?

 今までそんなこと考えたことなかったのに、小さなことに大げさに反応して、ものすごくいろんなこと考えちゃう。

 あーもう、何なんだ! もやもや、うずうずする!





 今日、カフェには一ノ瀬さんも、美咲さんもいた。

 大好きな二人も一緒! 私はすごくうれしくなった。


「あ、紗羽ちゃん。おはようございます」


 美咲さんの笑顔がキラキラ輝いてる。

 あれ? もしかして私、別に佐久間くんだけじゃなくて、みんなに会いたかったのかも? だからみんなの表情がすごく素敵に見えてるのかな……


「美咲さん、おはようございます。一ノ瀬さんも。おはようございます」


「紗羽ちゃん、おはよう」


 一ノ瀬さんの笑顔を見てふわっと心があったかくなる。

 ……ほら、やっぱり私、一ノ瀬さんの笑顔が特別だよ。

 今日はちゃんと、私の知ってる一ノ瀬さんだ。薄い膜を通して完璧な一ノ瀬さんと接している。この時間が幸せなの。

 佐久間くんと二人でカウンターに並んで、お客さんに出すコップを並べたりトレイを拭いていると、後ろから私たちの姿を見ていた美咲さんが笑いながら声をかけた。


「あは、今日も二人して、エプロンのリボンが縦結びになっとるよ。おそろいみたい!」


「えっ」


 首を回して腰の後ろのリボンを見ようとする。

 やっぱりちょうちょ結び、難しいな……

 家で練習している時はちゃんと結べているんだけど、自分で手を後ろに回して結ぼうとするとどうしても縦になってしまう。

 確認すると、うーん、やっぱり縦結びだ。

 隣に立っている佐久間くんを見てみると、佐久間くんのリボンもやっぱり縦結びになっていた。


「ほら、直してあげる」


 美咲さんが私の後ろでエプロンを結びなおしてくれる。

 ちょっとくすぐったくてうれしい。美咲さんが優しいお姉さんだな、と一番感じることができる瞬間だった。


「よし、できた。佐久間くんもやってあげる」


 美咲さんがそう言うのに、佐久間くんはやっぱり美咲さんに背後を取らせないように、正面を向いたまま後ずさった。


「俺はいいです。別にこんなん、縦でも横でも仕事するのに支障ないんで」


 そんなに恥ずかしがらなくてもいいのに……

 やっぱり佐久間くん、美咲さんのことが好きで、かえって避けちゃうんだなあ。

 これって、私は佐久間くんがもっと自然に美咲さんと関われるように何かしてあげるべきなのかなあ?

 少し顔を赤くして美咲さんから逃げようとしている佐久間くんを見ていると、ちょっとだけつまんないな、って思ってしまった。

 ……変なの、そんなこと思うなんて。

 でも……分かんないよね。

 好きだからもっと関わろうとするべきなの? でも相手には恋人がいる。それなら佐久間くんみたいに、徹底的に相手とは関わらないようにして、忘れるようにするべきなの?

 どうするのが正解かなんて、当然私には分からなかった。


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