これからもずっと
私の両親は本当の両親じゃない。
私が小さい頃、両親は事故で死んだ。だから私は母親の姉夫婦に引き取られた。
でもそれは私の記憶に残っていないくらい小さい頃の話で、今の両親は私を実の子供と変わらず愛してくれているから……だからナズナさんが言ったことは別に間違ってない。私は両親から愛されて育った、何も苦労を知らないおめでたい子供。
でも私もね、ごくたまに不安になる。大切にされて、愛されていることは分かっているけれど、今の状況っていつまでも続くものなのかな? もしかしたら明日にでもなくなってしまうのかもしれない。ある日突然、両親がいなくなってしまったみたいに。……だからちゃんと言葉にして、今、感謝を伝え続けなきゃ。黙っていたら私の気持ちは分かってもらえない。私はあなたたちの子供で幸せなんですよ、うれしいんですよっていつも表し続けなくちゃ。
もしかしたらいつか失うかもしれない幸福なら、手に入れている今、私はちゃんとあなたのおかげで満たされていますと伝えないといけない。
私はずっとそう思い続けてきた。
「……凪くん、あんな風に誰かに怒ったりするんやね」
私がぽそっと言うと、凪くんは心持ち頬を赤くした。
「あ、すみません。なんか……ちょっと頭に血が上ってもたみたいです。紗羽さんを怖がらせてたらすみません」
「え、ううん、怖がったりせんよ! それより……凪くんが、ナズナさんとこのあと気まずくなったりしたら申し訳ないなって」
「その辺はなんも心配ないんで大丈夫です。紗羽さんは気にせんといてください」
凪くんはあっさりとそんな風に言ったけれど……本当に?
でもそれ以上は私が気にすることじゃないのか、と思ったので、私はうなずいた。
「……今日は、あんまり知らん凪くん見れて良かったな」
「え、いや、変なところ見せてすみません。どっちかって言うと忘れてほしいくらいなんですけど」
「絶対忘れんよ! 凪くんが私のために怒ってくれたん、すごいびっくりしたけどうれしかった。普段は落ち着いてる凪くんしか見てへんから……そうやって、いろんな凪くん見れたら、やった、って思うもん。だからもっと見たい!」
こういうのって、付き合ってる特典みたいなものだよね?
他の人には見せない、他の人は見たことがない一面が見れるの。
怒っている凪くんの姿は……さすがにちょっとどうしよう、って思ったけど……でも、その姿を知らないままでずっと過ごすよりは、知って良かったと思う。私のために熱くなってくれる人なんだって分かったんだもの。そんなの、うれしくないわけがない。
凪くんは少し困ったように頬をがしがしとこすった後、苦笑いしながら私を見た。
「……そしたら、紗羽さんも、俺がまだ見たことないようなところも見せてくださいね」
「えっ!? え、いや、そんなのあるかな……」
凪くんが見たことない姿!? そんなのある? 私、結構すぐ感情が顔に出ちゃうみたいだし……
「私、別に凪くんに見せないようにしてるところなんて……ないと思うんだけど」
「そんなん俺だって同じですよ。でも紗羽さんは、俺の見たことのない部分を見たって思ってるんでしょ? それなら紗羽さんも見せてくれないと」
ええー!
何かあるかなあ? 凪くんに見せていない私……?
いや、そりゃ突き詰めて考えればいくらでもあるんだろうけど。女友達と馬鹿なこと言って盛り上がってる姿とか、こう……理想の恋愛を妄想して盛り上がってるところとか……でもそんなの、さすがに恥ずかしすぎて凪くんに言えるわけないし!
うーんうーんと考えた末、私は悩みつつも、とっておき? の秘密を凪くんに打ち明けることにした。
「えーとね……」
「はい?」
恥ずかしくてうつむく私に、凪くんが顔を近付ける。
「たぶん、凪くんは意識してへんと思うねんけど……凪くん、普段めっちゃ優しいのに、ごくたまに意地悪っていうか……Sっぽいこと言うねん」
「は?」
「ほら、今の、私の知らん部分も凪くんに見せなあかんって言ってるところもやし、前にね、私が、ナズナさんは凪くんのこと、呼び捨てで呼んで親しく話してるって言ってちょっと拗ねた時に、突然私のこと呼び捨てにしたことあったやろ? ああいうの」
あの時、凪くんがふいに私に顔を近付けて、紗羽、って呼ぶのを聞いて、もうめちゃくちゃドキドキして心臓が止まるかと思ったんだった。
結局凪くんに呼び捨てで呼ばれたのはその一回だけだったけれど、その一回を何度も頭の中で反芻してしまうくらい、私はものすごくときめいてしまった。
「え……ええと、すみません、嫌な気持ちになったってことですか?」
凪くんが申し訳なさそうに頭をかく。
「ちゃうの! そういうんがね、ちょっと好きかも、って思ってん」
「え?」
凪くんが驚いたように私を見つめた。
ひえー! 恥ずかしい……!
「その、優しいのにちょっと意地悪みたいなん、されるん好きかもって思って……めっちゃ恥ずかしいしこんなん絶対言われへんって思ったけど、凪くんが知らん私ってのを教えるために白状しました!」
最後はばばーっと早口で言ってごまかしたつもりだけど、ばっちり聞かれてるしごまかせてないよね!?
凪くんは驚いて目を大きく見開いたあと、顔を赤くして口元を手で覆って隠してしまった。
「なんか……その、すみません、やなくて。紗羽さんはそういうんをされるんが好きってことでええですか?」
「いや、あの、その、ちょっと好きかなって思ったけど、その、無理にしてほしいとかちゃうから! あの、でもたまにしてくれても……ええかなって……」
いやいや、私は何を言ってるの! 完全に変な子じゃないの……!
凪くんは考えるようにぱちぱちと何度か瞬きをした。
「あの、全然そんな意地悪してるつもりやなかったんですけど……意識してなかったんで、うまい具合にできるかは分からないですけど、その、できるだけこれから頑張ってみます」
「が、頑張ってもらうほどのことちゃうねんけど……私もごめん、変なこと言っちゃった」
「いや、紗羽さんがそういうことを考えてるって知れて良かったです」
本当に!? ほんとに良かったって思ってる!?
私に合わせて言ってくれてるだけのような気がする……
いやいや、私にこんな恥ずかしいこと言わせたのも凪くんだし!
だからまあ、なんかもう、いいや。
結局こんな感じで、私たちは二人で向き合ったまま恥ずかしくなってしまう。
……でもこうやって過ごす時間が嫌いじゃないんだよね……
二人で恥ずかしがって、目が合って、笑い合って。
こんな風に、これからもずっと過ごしていきたいって思ったんだ。
一応ここでこの話は簡潔になります!
思いつくままに書き連ねてきた話ですが、ここまで読んでくださった方々、ありがとうございました!




