金色の崩壊
温室の扉が吹き飛び、アルフォンスが踏み込んだ瞬間、空気が裂けた。
エリオットの色は、もう隠れていなかった。
禍々しい黒紫に絡みつく深紅。そして、金の破片がばらばらに砕け散る。
甘い笑顔と取り繕った善良さは跡形もなく、むき出しの悪意と執着と、歪んだ欲望だけがあった。
エリオットの視線がまっすぐ、クララに向いた。
「クララ様……あなたは…私のものになるはずだった!!」
黒紫が爆ぜた。
その瞬間、イーサンの灰色が、
メラッ
と、赤を噴き上げた。
(っ……イーサン……怒ってる……!!)
普段は絶対に見せない鋭い赤。
イーサンはクララの前に立ち塞がる。
「…クララ様には指一本触れさせません」
その声音は怒りで低く、震えていた。
エリオットの手が伸びる。
黒紫の触手のような魔力。それがクララへ迫る
次の瞬間。
アルフォンスの杖が床を叩いた。
ガン――ッ!!
「…動くな、愚か者」
温室全体が震える。
アルフォンスの魔力が、まるで嵐のように広がった。
エリオットの黒紫の触手は空中で凍りつき、バラバラと砕けた。
「な……!?」
エリオットが後ずさる前に、透明な鎖のような魔力が、彼の四肢に巻きつき、床へ叩きつけた。
「ぐあああっ……!!」
(……強……っ!!)
クララは呆然と見ていた。
アルフォンスの魔力は、怒りと冷徹さに満ち、それでいて静かに燃えていた。
「ローレンス家の娘に誘導術をかけ、さらに“定着”を狙うなど…」
杖先がエリオットの額に触れる。
「詐欺師のお前が何様のつもりだ」
エリオットの色が、黒紫に引きつって震えた。
アルフォンスはなにか呪文を呟いた。
薄い金の輪が床に刻まれ、拘束されたエリオットを囲んだ。
アルフォンスの背後で、小さな“魔導記録石”が光る。
(……記録……してる……!?)
アルフォンスは淡々と説明した。
「魔術犯罪の記録は、証拠としてギルドに提出される。逃げ場はないぞ、エリオット・ファルネスト」
エリオットが顔を歪めた。
「……やめろ……話すわけ…が…ない……」
アルフォンスは杖の先をエリオットの胸へ向ける。
「別に強制はせん。だが、“嘘をつけない状態”にはする」
淡い白光がエリオットを包む。
次の瞬間、黒紫に“穴”が開いたように、色の濁りが止まる。
エリオットは苦しげに喉を鳴らし――
「……クララ様を……堕とすつもりだった……家族ごと……利用するつもりだった……結婚すれば……ローレンス家の魔力井戸も……」
(……っ……)
エリオットの色は、今までで一番醜く濁っていた。
イーサンの赤がまた一瞬、揺らめく。
アルフォンスは冷ややかに言う。
「理由は?」
エリオットの唇が勝手に動く。
「……僕の家は……落ちぶれた……金も、地位も……もう何もない……だから……だから……ローレンス家を……」
(……そんな……)
クララは胸を押さえた。
エリオットの声は、泣き声とも嗚咽ともつかない、崩れた声音になっていた。
「……クララ様は……ちょうどよかったんだ……従順で…我が弱く…誘導に……かかりやすそうで……」
イーサンの赤が、ブワッと燃えた。
彼は震える声で言った。
「……クララ様を“利用しようとした”……その時点であなたの事は許しません」
アルフォンスは淡々と告げる。
「記録完了」
記録石の光がふっと消える。
アルフォンスは杖を下げ、静かに息をついた。
拘束されたエリオットはぐったりと力を失い、結界の破片が床に散っている。
クララは震えたまま立ち尽くしていたが、イーサンがそっと手を伸ばし、彼女の肩を支えた。
灰色はもう赤を含まず、
静かに、優しく揺れていた。
「……クララ様。終わりました。よく、耐えられました」
アルフォンスは二人を見て、ゆっくり頷く。
「クララ嬢……勇気ある行動だった。よくぞ“獲物ではなく、狩人”として立った」
クララの胸の奥で、やっと、色が澄み始めた。
(……終わったんだ……本当に……)
そして、クララの“揺らぎの眼”は
新たな真実の色を見ていくことになる。




