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無口令嬢、今日も色で嘘を看破します。  作者: ちょこだいふく


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16/20

閉ざされる温室

ローレンス邸の庭の奥。

昼の光が柔らかく差し込む温室や、そこへ向かう道は本来なら草花の香りに満ちた穏やかな場所だ。


けれど今日は、その空気に、うっすら甘い匂いが混じっていた。


(…エリオットの“残滓”……温室に向かって濃くなってる)


胸がひやりと冷える。


イーサンは半歩前に立ち、静かに言った。


「クララ様……呼吸を整えて。」


(…うん)


イーサンの灰色は今日も揺らがない。ただ強く、鋭く澄んでいる。


温室の扉へ近づいた瞬間、外の影から、アルフォンスの“存在が揺れた”。


声は聞こえない。けれど、魔力の流れが “注意しろ” と告げるように震える。


(アルフォンス様…)


そして扉が、ゆっくり開いた。


「クララ様。お待ちしておりました」


エリオットが微笑んで立っていた。


甘く優しい声とは裏腹に、


黒紫

赤

金


その揺らぎは濁り、跳ね、まとわりつく。


(……今日は…色が濃い…特に…金がはっきり出てる……)


イーサンの灰色が、刃のように鋭くなる。


 


⸻


そして温室の扉が閉じた瞬間


カチン


小さな金属音。

だがそれは、普通の鍵の音ではない。


イーサンは即座に見抜いた。


「クララ様……“内部閉鎖型の結界”です」


(!!)


逃げ道が閉ざされた。


外のアルフォンスにも、こちらの声は届かない。


だが、温室の魔力が変質したことでアルフォンスの“魔力の嗅覚”には届いているはずだった。


(……アルフォンス様…気づいて……!)


 


⸻


エリオットは優雅な笑みのまま、まるで花に触れるように近づいてくる。


(黒紫がねっとりと、赤は焦りと興奮だろうか、そして金は決断…全部……私に向けてる……)


イーサンが私の横で声を潜めた。


「クララ様……練習どおり、“焦点を緩めて”」


私は目の奥をゆるめ、“誘導にかかったふり”をはじめた。


「クララ様…あなたは、他の方とは違いますね」


金色がチリ、と震える。


(……気づいてる……!私が“見ている”って……)


誘導されたふりをしてか細い声で返す。


「……はい……少しだけ……」


その瞬間、

黒紫がすっと細くなり、赤が収まる。


(…よし…本当に誘導にかかったと思ってる)


エリオットはもう一歩近づく。


指が触れそうな距離。


「クララ様……あなたは私を……信じてくれますか?」


その言葉と同時に


金色が弾けた。


(……来た!!…“本命の誘導術”の発動……!!)


空気が震え、温室全体の魔力がひずむ。


イーサンが私を抱き寄せ、低く囁いた。


「目を閉じて、今は危険です。」


私は震える息を吐き、ぎりぎりで視線をそらして目を閉じた。



———


温室の外。

アルフォンスは、結界越しに魔力の流れを聞いていた。


その瞬間、金色の誘導が炸裂した反動で、結界に波紋が走る。


「……今のは…誘導術の“決着点”……!!クララ嬢……無事避けたか?? 頼むぞ……!!」


杖を強く握り、結界の破壊点を探す。


「……この結界…術式は粗悪だが…誘導を定着させるために“外部を遮断”しておる…おそらくはクララ嬢ひとりを閉じ込める罠……!」


怒りで老人の声が震える。


「醜悪な…!!」


 


⸻




クララは目を閉じたまま、

震える心を抑え、そっと言葉を絞り出す。


「……信じてます…少しだけ……」


エリオットの色が

金 → 崩れ

赤 → 混乱

黒紫 → ざわりと荒れ狂う




イーサンが私の手を強く握る。


エリオットは、信じられないという顔で呟く。


「……どうして……効かない……?どうして……落ちない……?」


黒紫が、泡立つように荒れはじめる。


その瞬間――


外側で、結界に亀裂が走った。


 


⸻




バリン!!


温室の扉が割れるように開き、光と風が一気に流れ込む。


アルフォンスが姿を現す。


老人の瞳は怒りに燃え、杖先には魔力の火が宿っていた。


「――そこまでだ!!ローレンス家に対する“誘導術犯罪”を確認した!観念しろ、エリオット!!」


エリオットの揺らぎが、黒紫・赤・金すべて混ざり、ぐしゃりと歪む。


(……ついに……!)


イーサンが私を守るように前に立つ。


私は震える膝で立ち上がり、その光景を見つめた。


(……これは……終わりじゃない…)


温室の空気は、

決戦の前触れのように震えていた。

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