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無口令嬢、今日も色で嘘を看破します。  作者: ちょこだいふく


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15/20

誘いの手紙と善意

封筒を受け取った瞬間、指先に“微かな甘さ”が触れた。


(……誘いの術式……)


アルフォンスも、静かに頷いた。


「開ける前から分かる…“意図”が滲み出ているな」


イーサンは横で、静かに私を守るように立っている。


「クララ様。恐れず、ゆっくりで」


私は深呼吸し、慎重に封を切った。


紙がめくれる瞬間、ふわりと甘い香りが立ち上がる。


(……濃い…昨日より…)


文字は丁寧で、優しげで、まるで“優しい婚約者”のように柔らかい。



『クララ様へ


昨日はお話できて嬉しく思っております。


もしよろしければ、本日の午後、“庭園の温室”で少しお話しできないでしょうか。


お父様、お母様にもご挨拶をしたく存じます。

どうか、ご無理のない範囲で。』


——エリオット



(……温室)


ローレンス邸の庭の奥。

家族の気配が薄れ、人目が届きにくい場所。


背中が冷たくなる。


「……クララ、それ…なにかしら?」


母の声が廊下から聞こえた。


(……来た!)


イーサンの灰色が私の横でぴたりと立つ。


私は慌てて手紙を折りたたもうとしたがアルフォンスが、

「見せなさい」

と小声で指示した。


私は震える指で母へ手紙を差し出した。


母セリーヌは一読すると、ふわりと明るい桃色を揺らした。


「まあ…素敵ではないの。クララ、行ってらっしゃいな?」


兄エレンも覗き込み、にこやかに言う。


「昨日もすごく心配してくださってただろ?本当に礼儀正しい人なんだな。母さんも一緒に挨拶すればいいんじゃないか?」


(…色がにじんでるせいで…読めない…でも、これは…)


アルフォンスが裏で眉をひそめる。


イーサンは家族の揺らぎを観察し、私へ小声で言う。


「クララ様、ご家族に悪意はありません。…ですが、術の影響で誘導していると思われます。」


私の胸が痛くなる。


(家族が…エリオットに…操られかけている……)


兄が明るく言った。


「行ってきなよ、クララ。あの温室なら安全だし。それに、エリオット様が母さんに挨拶したいならちゃんと応えるべきだよ」


“善意で送り出そうとしている”


それが一番つらかった。


 



母が私に優しく言う。


「ねえクララ。大丈夫よ?イーサンがついていてくれるでしょう?」


イーサンは丁寧に頭を下げた。


「もちろんでございます。クララ様から離れることはございません」


その灰色には、強い青が混じっていた。


アルフォンスが一歩前へ出る。


「奥様、ローレンス卿。私も“温室の点検”がございます、ご不安なら同行いたしましょう。」


母は嬉しそうに頷いた。


「まあ、それは心強いわ、良かったわね!」


(……よかった…家族は完全に術にかかっているわけじゃない…ただ…判断が曇っているだけ……)


イーサンが私の横で囁く。


「クララ様。呼吸を整えて。“演技”が必要なのは…今です」


(…そうだ…私は“誘いに惑わされたふり”をする……)


胸の奥がぎゅっと掴まれる。


怖い。

足がすこし震える。


でも。


逃げない。


私はゆっくりと母へ向き直り、稽古した“焦点の緩み”を作りながら言った。


「……行ってみる…少しだけ」


母の桃色がふわりと広がった。


「ええ、クララ。無理しないでね。すぐ戻ってくるのよ?」


(……大丈夫…大丈夫…)


イーサンの青が、深く強く震える。


アルフォンスは低く呟く。


「…いよいよだ。クララ嬢、決して視線を外すな。奴は“今日”決めにくる」


私はこくりと頷き、両手をぎゅっと握りしめた。


(……金色の揺らぎが何を意味するのか確かめる。

 そして…騙す。)


ローレンス家の温室へ向かう歩みは、決戦の始まりだった。


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