エピローグ
日が傾き、夕日に照らされる図書倉庫。
普段はカーテンが閉じられていていつも薄暗いこの場所も、今だけは違っていた。
私はこの場所で人を待っていた。やがて扉が開き、その人がやってくる。
「…すまない。待たせたか」
「いえ。気にしないで下さい」
その人───桐野先輩はこちらにやってくると、いつもの席に腰を下ろした。
その手には黒い筒───卒業証書が握られている。
「ご卒業、おめでとうございます。桐野先輩」
私はそう言って、先輩に頭を下げた。卒業式と違って”先輩個人”に”私個人”がそう伝えたかったのだ。
「ああ…ありがとう」
あれから数ヶ月が過ぎ、3年生の先輩は今日、ついさきほどこの高校を卒業した。
先輩は優等生ということもあってたくさんの生徒や先生に声をかけられ、私はひとまず先にここで待っていたのである。
「先輩は進学ですよね?」
「ああ…あれなら秋村でも何とかなるだろう」
先輩には留学なんて話もあった、だが先輩はそれを断り、さらにはレベルの高い大学にも入らずにこの辺りでそこそこの大学へと進学することにした。
「すいません…私がもっと頑張れば…」
当然ながら、これは先輩が私に合わせてレベルを下げてくれたのである。私は自分のせいで先輩の進路を縛ってしまったことを後悔していた。
「…別に気にしなくていい。今の俺にはもっと大切なことがある。両親もちゃんと納得してくれた」
あれから少しずつ先輩はご両親と話すようになり、今では大分仲も良くなってきているらしい。
「…先輩がいなくなると、寂しくなりますね…」
そう言って、辺りに視線を移す。先輩がいなくなれば、ここも使う生徒がいなくなってしまうだろう。
「…学年が違う以上、仕方ないさ…だが、会おうと思えばいつでも会える。ましてや1年すればまた一緒にいられるだろう?」
先輩は寂しそうな表情を浮かべる私にそう言った。
「それに…キミはもう1人じゃない。友人がたくさんいる」
「でも…先輩がいないじゃないですか…」
そんな私に、先輩はため息をつくと
「まったく…そんな顔をするな…」
と、困ったように言った。
「…私、3年生になったら図書委員になろうと思うんです」
「ん…?」
「この図書倉庫をもっと積極的に利用してくれる生徒を増やそうと思って」
ここは私たちにとってはとても思い入れのある部屋だった。だからこそこのまま誰も利用しなくなるのは辛い。そう思っての決断だった。
「そうか…いいんじゃないか? 応援する」
そんな私に先輩は微笑み、そう言った。
「この数ヶ月…長いようで短かったな…」
「本当に…あっという間でしたね…」
最初の出会いはとても突然で、あの時は自分がこうも変われるなんて思ってもいなかった。
先輩がくれた”勇気”が、確かに”孤独”な私を変えてくれた。
「気まぐれで声をかけたことが始まりだが…まさか自分がこんなにも変わるきっかけになるとはおもわなかった…」
先輩も同じ事を考えたらしい。
「”独り”でも気にならなかった…だが今は違う。俺は確かに秋村を必要としている…。そうなったことは後悔していない。今までも…そしてこれからも…」
先輩は窓の外を見ながらそう言った。
「…私もです。先輩と出会えたこと…後悔してません。むしろ良かったと思っています」
先輩との出会いがあったからこそ、今の私があるのだから…。
そんな思いに浸っていると…。
「秋村」
不意に先輩に声をかけられて振り向く。すると…
「え…先輩───」
先輩の顔がすぐ近くまで迫ってきていて…
「…キミに出会えて、よかった…」
先輩はそう呟いた直後。先輩と唇が重なった。
「───!」
それに最初こそ驚いたものの、拒んだりはしなかった。先輩の想いが確かに心に直接伝わってくる。
それが純粋に嬉しかった。
…どのくらいそうしていただろうか、先輩はゆっくり顔を離すと
「ありがとう…。…大好きだ…。”美月”」
笑顔で、そう言った。
───”孤独”だった私。”孤高”だった先輩。
そんな私たち”2人”の想いが、確かに重なった瞬間だった…───
…以上で「孤独な私と孤高の彼」は完結です。
”言葉”で意思を伝えることってすごく大切で、そういうコミュニケーションを大事にしていきたいものです。
これからも次作を上げていくのでよろしくお願いします。




