11、五月六日①地下鉄
五月六日。
日程表によれば、出発まで自由行動である。
昨夜の夜更しが効いたのか、朝は比較的、遅めのお目覚め。遂に我々も不夜城に染まってしまったようだ。
朝のバイキングを楽しむ。最終日ということもあって、私は大胆にも、かねてから気になっていた回るオーブントースターに挑むことにした。
内部でカゴが縦にゆっくりとぐるぐる回っている機械だが、使い方がまったくもって分からない。なぜ分からないのに、これがオーブントースターだと分かったのかというと、隣に平べったいパン(食パンではない)が備えられていたからだ。しかし、分からないのでは使いようがない。
どうしたものかと他の食べ物を皿に盛って食べながら、興味がない振りをしつつ、その機械を使う奴がいないかチラチラ窺っていたのだが、結局は現われずじまいで、不覚にもいたずらに二日間を過ごしてしまったのだった。
しかたなく、私はとうとうやってきたこの最終日に賭けることにした。さて、誰か使わないものか……。
すると、来た!
一人の年老いた婆さんが、よろよろとその機械の前へ近寄ってきた。備えられたパンをおもむろに手で掴む。そして、機械の上のカゴにパンを乗せた。すると、そのままパンはゆっくりと機械内に吸い込まれ、三十秒後にそのまま下の口からコロンッと出てきた。
なんと……!
婆さんは、自分で作った機械だと言わんばかりに何の戸惑いも見せず使いこなし、更には焼き上がって同然だという無表情で焼き上がったパンを掴むと、バターとジャムも忘れずに皿に乗せ、ゆっくりとその場から去っていった。
なるほど、ああやって使うのか……。
納得した私はおもむろに席を立ち、
「あれ? どこ行くんや?」
と言うみんなの声も適当に受け流しつつ、まっすぐとオーブントースターへ向かった。
そして、ドキドキしながら先ほどのお手本通りにやってみる。すると、見事に焼き上がったパンを手にすることができたのであった。良かった良かった。
そんなこんなで朝のバイキングを済ませ、遂にホテルを出発した。
何をするのかというと、地下鉄と二階建バスに乗るのだ。行き先は決まっていない。ただ乗りたいだけである。
取り敢えず、最寄りの駅を目指す。ペニンシュラ付近にあるため、我々はまたもや遊歩道を歩くことになった。
競歩の如く、さっさと早足で歩く。朝も素晴らしいヴィクトリア港が見えるが、さすがにこの長距離はこたえる。歩くのは週一くらいで充分だ。
遊歩道はまっすぐなためゴールは見えているのだが、なかなかどうして辿り着かない。デートなら素敵な遊歩道だが、我々は最寄り駅へ行きたいだけなのだ。正直言って、長すぎる。
ヒィヒィ言いながら、ようやくペニンシュラを通り過ぎて、地下鉄に通じる階段を降りたのだった。
一番便利で快適な乗り物が、通称MTR(Mass Transit Railway)と言われる地下鉄だ。汚いだろうと思っていたが、新駅ではないかと疑いたくなるほど綺麗な地下鉄だった。
路線の色別は、青,赤,緑,オレンジの四色で、我々は赤色の路線で二つ向こうの駅へ行くことにした。
券売機で切符を購入する。画面はタッチパネル式で、降りたい駅名を押すと料金が表示される仕組みになっていた。
切符は磁気式のカードで、リサイクルされるため、破損はHK$5000(90000円)の罰金だ。かなり厳しい。
なお、九十分以内に目的地に着かないと無効になるということで、遠くまで切符を買った乗客は電車に乗っている間、ハラハラし通しなのではないかと思い、その様子を想像して、ちょっと微笑んだ私だ。よく考えたら、駅のホームでお喋りとかできひんやん。
どうやら、香港では電車は移動手段としてしか見ていないらしい。香港の鉄オタの皆さん、地位を認めてもらえるよう頑張ってください。それとも、香港に鉄オタはいないのか。
あまりに厳しい切符の規則に、昔バイトで甲子園に行った際、駅に着いたら、駅員さんがメガホン片手に、「帰りは大変混みますので、切符は先に買うようご協力お願いしまーすっ!」と叫んでいたのが新鮮に感じられた。
自動改札機へ向かった。カード式の切符を投入口に差し込むと、改札機の真ん中辺りからひょっこりと顔を出す。これを取って、ゲートのバーを回し、改札を通るのだ。チケットを取らないと、バーは固定されたままで回らない仕組みになっている。
ホームに出て電車を待っていると、あっという間に来た。香港は、御堂筋線のように二,三分間隔で運行されているらしい。そのうち前の電車にぶつかるんじゃないかと心配になる。(あっという間に来る路線が御堂筋線しか出て来ず、大阪の人間にしか分からない表現ですいません。)
乗ってみて、ちょっとビックリ。車内は汚くて暑いイメージがあったが、意外や意外、全車両が冷房完備で、清潔なうえ綺麗で快適だったのだ。その快適を守るためか、車内での飲食や喫煙は禁止で、下手したら最高HK$3000(54000円)の罰金である。切符の罰金といい、快適どころか逆にストレスなんだが……。
また、一口メモだが、我々が乗ったのは日曜日だったため、異様に混んでいた。乗るなら、平日がベターだ。
目的の駅に下車して、出口の改札機へ向かう。同じ要領で投入口に切符を通すと、そのまま機械内へ吸い込まれた。
ちなみに切符のデザインを記しておくと、表側は忘れてしまったが、裏側は地下鉄の路線図が載っていてかっこいいと思ったことだけ憶えている。なんとも頼りない記憶力で申し訳ないです。
読んでくださって、ありがとうございました。
次回に続きます。




